新しい拠点
B級ダンジョン『鋼鉄の回廊』のボス部屋に立つ六人。
「来たわよ鉄の巨人」琴音が薙刀を構える。
ボスは鉄骨で構成された巨大な人型モンスターだった。名前はアイアンタイタン。物理防御が異常に高い。
「瑞葉が正面で受け止めて琴音と萌香が左右から削る。悠花は魔法で核を狙え」
「了解!」五人の声が重なる。
アイアンタイタンの巨大な拳が振り下ろされる。瑞葉が盾で受け止めた。ガギンという凄まじい音が響き渡るが5.5倍に強化された瑞葉は一歩も退かない。
「今だ琴音!」
「おらぁっ!」琴音の薙刀がアイアンタイタンの右足を薙ぐ。鉄の装甲が砕け落ちる。
「萌香!」
「はいっ!」萌香が左足に剣を突き入れる。
「悠花、核は胸部だ!」
「えいっ!ファイアボール!」
悠花の火球が胸部の核心を直撃した。アイアンタイタンがよろめく。
「もう一度全員で一斉攻撃!」
「「おー!」」
六人の攻撃が同時に炸裂した。琴音の薙刀が膝を裂き萌香の剣が腹部を貫き瑞葉の盾強打が頭部を砕いた。悠花の最大級ファイアボールが胸部の核を焼き尽くす。
アイアンタイタンは断末魔の唸り声を上げて崩れ落ちた。
「勝った!」萌香が叫ぶ。
「余裕だったね」琴音が薙刀を収める。
「綾斗の指示が完璧だったわ」皐月が微笑む。
踏破完了だ。俺たちでもB級くらいなら余裕だった。
「そろそろ祝福の絆のクランハウスに様子を見に行こうか。父さんたちの状況も聞きたいし」
六人はクランハウスに向かった。久しぶりのあの大きな家。玄関を開けると中は静かだった。いつもは賑やかなこの家が静まり返っているのは異様だった。
「ただいまー」
「あら綾斗!」
出迎えてくれたのはクランの古株のお姉さんたちだった。
「おかえりなさい。久しぶりね」お姉さんが微笑む。
「みんなは?」
「SS級ダンジョン攻略に行ってもう一週間になるのよ」お姉さんが言った。
「まだ帰ってこないの?」
「ええ。連絡もないわ。でも大丈夫よ。あの人たちが簡単に負けるわけないから」
「そうだね。父さんたちだもんね」
琴音と萌香がきょろきょろと家の中を見回している。
「うわぁ、大きい…」琴音が感嘆する。「S級のクランハウスってすごいんだね」
「綺麗…」悠花も目を丸くする。
お姉さんたちが六人を見てにっこりした。
「あら新しい仲間さんたち? 歓迎するわよ」
「はい! 中学の時からの同級生で琴音、悠花、瑞葉です」俺が紹介する。
「よろしくお願いします!」三人が揃って挨拶する。
「優秀そうな子たちね。綾斗君も良い仲間を見つけたわね」お姉さんが微笑む。
綾斗が、ふと真面目な顔になった。
「お願いがあるんだけど。萌香と琴音に魔法剣を教えてあげられないかな」
「魔法剣?」萌香が首を傾げる。
「剣に魔力を乗せて攻撃する技術よ」お姉さんが説明する。「A級ダンジョンからは物理攻撃無効の敵が現れるの。普通の剣や薙刀じゃ傷つかないわ」
「物理無効…」琴音が息を呑む。「そんな敵が出てくるの?」
「ええ。だからA級に行くなら魔法剣は必須よ」お姉さんが続ける。「私たちが基礎を教えてあげるから」
「ぜひお願いします!」萌香が頭を下げる。
「私もお願いします!」琴音も続く。
お姉さんが手本を見せてくれた。剣に青白い魔力を纏わせて一閃する。空気が裂けるような鋭い音が響いた。
「すごい…」萌香が目を輝かせる。
「これなら物理無効の敵も斬れるわよ」お姉さんが微笑む。
「綾斗は魔法剣使えるの?」琴音が聞いてくる。
「一応な。綾乃母さんに叩き込まれたから」俺が刀に魔力を纏わせて見せると二人は目を丸くした。
「綾斗まで出来るんだ…」
「父さんのスキルで強化されてる母さんたちに比べたらまだまだだけどな」
数時間の特訓が終わった。萌香と琴音はまだ完璧ではないが魔法剣の基礎は掴んだようだった。
「難しいけどできそう!」萌香が息を切らしながら言う。
「私も練習すればいけると思う」琴音も頷く。
「よしこれでA級の準備が一つできたな」
クランハウスを後にしてアパートに帰る道すがら皐月が口を開いた。
「B級ダンジョンを攻略して資金も出来たことだしそろそろアパートから引っ越そうか」
「賛成! 狭くて死ぬかと思った!」萌香が即座に同意する。
「確かに六人で一部屋はきついわね」琴音も頷く。
「一軒家の賃貸ならみんなで住めるし」瑞葉が提案する。
翌日六人は不動産屋に向かった。予算はB級ダンジョン攻略の報酬で充分ある。一軒家の賃貸なら六人でも余裕で住めるはずだ。
「ここなんてどう?」不動産屋のおばさんが案内してくれた一軒家は庭付きの大きな家だった。六人で住むには充分すぎる広さだ。
「広い!」悠花が目を輝かせる。
「庭もあるよ」瑞葉が窓の外を覗く。
「部屋も六つあるし風呂も広い」萌香が浴槽を確認する。
「キッチン大きい!」皐月が台所を見て満足げに頷く。
「ここならみんなで住めるな」俺が言うと全員が賛成した。
「じゃあここに決めましょう!」不動産屋のおばさんが笑顔で手続きを進めてくれる。
引っ越しは俺のアイテムボックスのおかげで一瞬で終わった。六人の荷物を箱詰めして運んで…という面倒な作業が全て省略される。
「やっぱりチートスキル便利ね」皐月が呆れる。
「あはは父さんには感謝してるよ」俺が笑うと、萌香が興奮した顔で叫んだ。
「新しい家だ! みんなの家だ!」
「そうね。ここが私たちのクランハウスよ」皐月が静かに微笑む。
六人で新しい家に並んで座った。広いリビングに夕暮れの光が差し込んでいる。
「ここが私たちの拠点か」琴音が感慨深げに言う。
「落ち着くな」瑞葉が伸びをする。
「でもここからが本番だよ」俺が言うと全員の表情が引き締まった。
「そうね。A級ダンジョンの攻略準備に入りましょう」皐月が言った。
「物理無効の敵に備えて魔法剣の練習ももっとしないと」萌香が拳を握る。
「私も魔法の威力をもっと上げたい」悠花も頷く。
「タンクとしてももっと硬くならないと」瑞葉が盾を叩く。
「回復ももっと速く正確に出来るようにする」皐月も決意を固める。
「私も薙刀の腕をもう一段上げる」琴音が目を燃やす。
「よし。目標はA級ダンジョン攻略。そしてその先のS級SS級。最終目標は神級だ」
「「おー!」」
六人の声が新しい家に響き渡った。
新しいクランハウス。新しい拠点。ここから俺たちはさらに高みへと歩みを進めていく。父さんたちがSS級で戦っている今、俺たちもA級の準備を整えなければならない。
「明日からはA級ダンジョンの下調べだ。敵の種類も強さも今までとは違う。油断するなよ」
「「了解!」」
新しい家の新しいベッドにそれぞれが潛り込む。広い部屋に六つの布団が並んでいたアパートの時よりずっと広いから安心する。仲間の気配がすぐそばにあるからかもしれない。
「おやすみ、みんな」俺が言うと五人の「おやすみ」が重なり合った。
明日からはA級攻略の準備だ。父さんたちがSS級で戦っている間俺たちも必死に追いついていく。15年の差をひたすらに詰めていく。
百花繚乱。六人の花が咲き誇るその日はまだ遠いけれど確実に近づいている。




