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ダンジョンがある世界で女性のステータスを大幅に上げるバフスキルを獲得したら、ハーレムみたいなクランが出来上がって最強のクランになりました  作者: ミコジ


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桜庭綾乃

探索者協会の二階にあるカフェテリア。桜庭綾乃は一人、窓際の席で冷めたコーヒーを啜っていた。今日もまた、単独でC級ダンジョンを攻略してきた帰りだ。本当はA級のダンジョンに行ける実力があるのに、1人でC級ダンジョンに潜る。なぜなら、A級ダンジョンは攻略に数日かかるからだ。


「また一人で行ったのか?」


「ええ」


頭の中で、昨夜のクランマスターとの会話がリフレインする。


「綾乃、お前は強い。それは認める。だがな、長期探索には仲間が必要だ。そしてお前以外は男だ。少しくらいの我慢はするべきだろう」


「少しくらいなら我慢もします、わざと覗いたり、目の前でトイレをしろとか無理です」


綾乃は窓の外に目をやった。夕暮れの街に、三人の探索者が歩いているのが見える。若い男と、二人の少女。あれは確か――


「白夜、優斗…」


綾乃の口から、自然とその名前がこぼれた。初心者講習で一緒だった彼だ。当時はお互いD級にもなれない駆け出しだった。彼はいつも優しい目をしていて、誰かが怪我をすれば真っ先に駆け寄り、誰かが落ち込んでいればさりげなく声をかけていた。戦闘力は決して高くなかったけれど、彼の周りにはいつも人がいた。


それに引き換え、綾乃は才能があった。剣の腕はめきめきと上達し、気がつけばA級探索者。名門藤宮クランからスカウトされたときは、これで一人前になれると思った。だが現実は違った。


思い出すのは、最初の長期探索の夜だ。テントを張り、男四人女一人のパーティで休憩していたときのことだった。


「ちょっとトイレに行きたいんですけど」


「ああ、あっちの茂みでやれよ。ただし見えるところでやれよ」


「…どういう意味ですか?」


「女が一人で見えないところに行くと、モンスターに襲われたら困るだろ。それとも何か、別の理由でもあるのか? 他の男と会う約束でもあるのか?」


下卑た笑い声が上がった。綾乃は唇を噛みしめ、結局みんなの前でトイレに行く代わりに、一晩中我慢した。夜が明ける頃には膀胱が痛くて、動くのも辛かった。


またある時は――


「汗を流したいんです。近くに川がありましたから、少しだけ」


「おう、いいぜ。でも気をつけろよ」


そう言われて川に行った綾乃は、服を脱ぎ、冷たい水で体を拭いた。そして背後に気配を感じて振り返った瞬間、茂みの中に数人の男たちがいるのを見つけた。クランの仲間たちだった。


「な、なにを…!」


「いやー、悪い悪い。心配で見に来ただけだって」


「そうそう。モンスターに襲われたら大変だろ?」


綾乃はその場で服を着直し、無言でキャンプに戻った。それ以降、彼女は長期探索には参加していない。クランマスターに直訴しても、「気のせいだ」「被害妄想だ」と言われるだけだった。


一番酷かったのは、A級ダンジョン「影狼の森」でのことだ。


「桜庭、お前が前衛だ。俺たちは後ろから援護する」


それだけ言われて、綾乃は一人で敵陣に突っ込まされた。だが後ろからの援護は一切なかった。男たちはただ眺めているだけ。綾乃が必死に敵を倒し、傷だらけになりながら戻ってくると、彼らは笑いながら言った。


「やっぱりA級は違うな。一人で全部倒せるじゃないか」


「俺たちの出番なかったよ」


「これなら楽でいいや」


それからだ。綾乃は一人で潛るようになった。一人なら誰にも邪魔されない。一人なら誰にも覗かれない。一人なら誰にも裏切られない。ただ、収入の半分はクランに持っていかれる。それがルールだから仕方ないと思っていた。思おうとしていた。


窓の外を見ると、白夜優斗たちが笑いながら何かを話しているのが見えた。少女の一人が彼の腕に抱きつくように何かをねだり、もう一人がそれを引き剥がそうとしている。


「いいなぁ」


綾乃は呟いていた。彼女たちの顔には、怯えも警戒もない。ただ純粋に、彼を信頼している顔だ。


「あの人は、女の子に嫌なことをしないんだろうな」


そう思ったとき、胸の奥がきゅっと痛んだ。私もあんな風に、誰かと笑い合いたかった。誰かのために強くなりたかった。誰かに守ってもらいながら、誰かを守りたかった。


あの噂のことを思い出す。白夜優斗は女性を強化する不思議なスキルを持っているらしい。最初は半信半疑だった。そんな都合のいいスキルがあるものかと。でも、さっきの二人の少女を見て、確信が揺らいだ。あの子たちは確かに、強くなっている。そして、彼を信頼している。


「親密度で効果が変わるスキル、か…」


綾乃は自分の手を見つめた。剣ダコができ、無数の小傷で覆われた手だ。この手で、どれだけ戦ってきただろう。でも、その戦いは何のためだったのか。ただクランに搾取されるため? 男たちの嘲笑の的になるため?


「もう、やめよう」


綾乃は静かに立ち上がった。カップの中のコーヒーはすっかり冷めていたが、心の中は初めて、温かなものが灯った気がした。


探索者協会一階のクラン窓口に向かう。足取りは軽かった。


「すみません。藤宮クランを脱退したいんですけど」


「かしこまりました。桜庭綾乃様ですね。脱退手続きにはクランマスターの承認が必要ですが…」


「それは結構です。自分で話をつけますから、書類だけください」


綾乃の声には、これまでにない力強さがあった。受付嬢が少し驚いた表情で書類を差し出す。ペンを取って名前を書きながら、綾乃は考えていた。この選択が正しいかどうかはわからない。でも、少なくとも間違いではない。たとえ一人になったとしても、搾取されるよりはずっといい。書き終えた書類を受付嬢に返す。


「ありがとうございます。これで私はただの探索者です」


綾乃はそう言って微笑んだ。心の底から笑ったのは、いつ以来だろう。さようなら、藤宮クラン。さようなら、あの嫌な日々。今の私にはまだ何もない。仲間もいない。でも、これからは自分の足で歩ける。それだけで、十分すぎるほどだった。


読んでいただきありがとうございました

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