再会と決意
「何か騒がしいわね。協会の職員が慌ててる」
翌朝、俺たちはやる気に満ちてD級ダンジョンの依頼を受けようと探索者協会に向かった。しかし中は普段とは違う緊張感に包まれていた。職員たちが慌ただしく走り回り、掲示板には新たなダンジョン出現の貼り紙が次々と貼られている。
「何かあったのか?」
俺は手の空いてそうな受付嬢を呼び止めた。
「あ、白夜さん、お父様から聞いていないんですか?」
受付嬢が目を丸くする。
「聞いてないって、何を?」
「昨日の朝、S級の秩父ダンジョンを超えるSS級ダンジョンが出現したんです! 場所は江東区若洲の工業団地。今から祝福の絆の方たちが攻略に向かう所なんですよ」
俺は立ち尽くした。父さん。母さんたち。昨日、見送ってくれた時にはもう知っていたんだ。SS級。秩父を超える脅威。
「綾斗…」
皐月が静かに言った。
「皆さん昨日はもう知っていたんですね。私たちはまだ邪魔にしかならないから言ってくれなかったのね」
萌香が俺の肩に手を置いた。
「綾斗だったら、絶対についていくって言い出すもんね」
俺は拳を握りしめた。
「間違いなく、俺もついていくって言ってただろうな」
悔しいけれど事実だ。今の俺がSS級ダンジョンに行けば足手まといにしかならない。父さんが何度も俺に言った言葉が蘇る。『自分が一番弱いからこそ、一番狙われる』。今の俺が行けば、母さんたちの足を引っ張るだけだ。
皐月が俺の拳に自分の手を重ねた。
「今はもっと強くなるしかないよ。英雄たちを信じて。私たちは今は役に立たないけど、次は絶対に一緒に来てくれって言わせてみせるわ」
その瞳には涙が光っていたけど、声は震えていなかった。萌香も頷く。
「そうよ! 私たちが強くなって、次は綾斗を連れて行かないとって言わせるの!」
「…そうだな。今は強くなることが先だ」
俺は深呼吸をして、震える拳をゆっくりと開いた。父さん、母さん。無事でいてくれ。俺はここで、強くなって待ってる。
「よし、依頼を受けよう。D級ダンジョンの踏破依頼」
俺たちは窓口に向かった。手続きを済ませて協会を出ようとした時だった。
「綾斗?」
聞き覚えのある声に振り返る。そこに立っていたのは、中学の時の同級生の3人だった。3人とも探索者の装備を身につけている。
「えっ、お前たち?」
一人目は長い黒髪をポニーテールにまとめた少女。水無瀬琴音。中学で薙刀の全国優勝を果たした天才だ。
二人目は小柄な体に大きめのローブを着た少女。白石悠花。魔法使いっぼい格好だ、いつも本を読んでいた。
三人目は俺よりも頭一つ背が高く、背中に俺の身長ほどもある巨大な盾を背負った少女。橘瑞葉。体格を生かしてタンク役を目指しているらしい。
「やっぱり綾斗じゃない! 」
琴音が駆け寄ってくる。
「お前たちも専業の探索者になってたのか?」
「やっぱり稼ぐなら探索者でしょ」琴音が胸を張る。
「私は魔法の適性があったから‥」悠花が困ったように言う。
「私はタンクとして頑張ってるよ」瑞葉が盾をポンと叩く。
中学の頃のままの三人。でもその目には俺と同じような覚悟があった。
「えっと、こっちは俺のパーティメンバー」俺が紹介する。
「桐生萌香。前衛剣士」
「よろしく! 剣なら任せて!」萌香が元気に手を振る。
「月城皐月。ヒーラーよ」
「怪我をすぐに治すのが私の仕事」皐月が静かに挨拶する。
「すごいメンバーじゃない」琴音が目を輝かせる。
皐月が一歩前に出た。その目には計算高い光があった。さっきの涙はもう乾いている。
「ねえ、よかったら一緒にD級ダンジョン行ってみない?」
「えっ、いいの?」琴音が驚く。「私たちまだ初心者ダンジョンしか行った事ないよ」
「大丈夫。私たちがついてるから」皐月が微笑む。
俺は皐月の意図を察した。強さを見て、仲間に誘うつもりだ。俺たちの目標は神級ダンジョンの攻略。三人では足りない。皐月はそれを分かっている。
「俺たちと一緒なら行っても大丈夫だ」
俺がそう言うと、三人の目が輝いた。
「よし、六人で行こう!」琴音がやる気を見せる。
六人でD級ダンジョン『鉄骨の迷宮』に向かった。廃工場をベースにしたダンジョンで、機械仕掛けのモンスターや金属の魔物が徘徊している。
「行くよ。《百花繚乱》」
俺が五人に手をかざすと、金色の光が彼女たちを包み込んだ。
「わっ…力が湧いてくる!」琴音が薙刀を振ってみる。
「魔法の感度が鋭くなってる…」悠花が杖を見つめる。
「体が軽い! これならもっと大きな盾でも持てそう」瑞葉が盾を構える。
萌香と皐月もいつもの2倍強化だ。六人全員のステータスが跳ね上がった。
スキルの対象人数が増えたことによって、萌香と皐月は2.5倍、琴音と悠花と瑞葉は2倍になっている
「さあ、行こう」
ダンジョンに入ると、さっそく機械仕掛けの犬型モンスターが三体襲いかかってきた。
「私がやる!」琴音が前に出る。強化された薙刀が閃き、一撃でモンスターを両断する。
「すごい琴音! 動きが速い!」萌香が感嘆する。
「強化のおかげよ。ありがとう綾斗」琴音が振り返って笑う。
さらに奥へ進むと、今度は金属の甲殻を持つカニ型モンスターの群れが現れた。
「硬い! 刃が通らない!」琴音の薙刀が弾かれる。
「私が止める!」瑞葉が前に出て巨大な盾でカニの攻撃を受け止めた。ガギン! という重い音が響くが、強化された瑞葉は微動だにしない。
「すごい!」萌香が興奮する。
「今だ! 悠花!」俺が叫ぶ。
「えっ私? でも攻撃魔法はまだ…」
「お前ならできる! やってみろ!」
悠花は杖を構え、震えながら詠唱を始めた。
「火よ…灼熱の炎よ…彼を焼き尽くせ! ファイアボール!」
小さな火球が飛び出し、カニの群れに直撃した。強化された魔法の威力は、小さな火球でも充分な破壊力を持っていた。カニたちは爆炎に包まれ、黒い炭と化す。
「やった…私、やった…」悠花が自分の手を見つめて震えている。
「上手いじゃないか悠花」俺が背中を叩く。
「綾斗のおかげだよ…」
「スキルの強化のおかげじゃない。お前の才能と努力だ」
悠花が涙目で笑った。
皐月が後方で冷静に状況を確認している。萌香は前衛で瑞葉と連携して敵を削っていく。琴音は的確に敵の隙を突いて仕留めていく。六人の連携は、初めてとは思えないほどスムーズだった。
ボス部屋に到着した。巨大な鉄のゴーレムが鎮座している。
「よし、今まで通りで行くぞ。琴音と萌香が左右から削って、瑞葉が正面で受け止める。悠花は魔法で弱点を狙え。皐月は回復準備」
「了解!」五人の声が重なる。
戦闘は熾烈だった。ゴーレムの一撃は重く、瑞葉の盾が悲鳴を上げた。だが皐月のヒールが途切れることはなかった。琴音と萌香の連携攻撃が確実にゴーレムの装甲を削っていく。悠花の魔法が弱点である核を焼き尽くす。
「トドメだ!」
琴音の薙刀がゴーレムの核を貫いた。巨体が崩れ落ち、震動が収まる。
「勝った…」
六人が歓声を上げた。怪我人はいない。皐月のヒールがあったからだ。
ダンジョンの外に出て、俺はアイテムボックスからキャンピングカーを取り出した。
「温かい紅茶飲む?」
「えっ、またチートスキル!」萌香が絶叫する。
「綾斗のスキルって便利なのね…」悠花が呆れる。
「感動した!」瑞葉が大げさに叫ぶ。
六人でキャンピングカーの中で紅茶を啜りながら、俺は切り出した。
「お前たち、俺たちのクランに入らないか?」
三人が目を丸くする。
「えっ、いいの? 私たちなんてまだ初心者だよ」琴音が戸惑う。
「強さは関係ない。お前たちの覚悟を見た。俺たちの目標は神級ダンジョンの攻略だ。そこまで行くつもりがあるなら、仲間になってほしい」
三人が顔を見合わせた。
「神級…」悠花が呟く。「伝説の英雄でも敵わないってやつ?」
「ああ。でも俺たちは超えてみせる。父さんたちを超えて、神級を攻略する」
沈黙が流れた。三人の目に迷いはない。あるのは決意の光だ。
「やるわ」琴音が立ち上がる。「私も強くなりたい。綾斗たちとならどこまでも行けそう」
「私も」悠花が頷く。「私の魔法で皆を守りたい」
「私も! タンクとして一番硬くなってみせる!」瑞葉が盾を掲げる。
俺は手を差し出した。五人の手が重なる。
「よし。クラン百花繚乱にようこそ」
六人の声が重なった。
「「おー!」」
父さん、母さん。俺は必ず強くなる。
そう信じて、俺たちは新たな一歩を踏み出した。




