覚悟の形
「今日はD級ダンジョンの踏破依頼だ。ボスの討伐が目的」
朝の協会で依頼を受けてから、俺は二人に説明した。D級なら三人でも問題なくこなせるはずだ。
「了解! D級なんて余裕余裕!」
萌香が剣を肩に乗せて自信満々に言う。
「油断大敵よ。D級だからって舐めてかかると痛い目見るわ」
皐月が冷静に釘を刺す。
「はいはいお母さん」
「誰がお母さんよ!」
ダンジョンに入ると予想通り戦闘はスムーズだった。萌香の剣が冴え渡り、俺の指示もすんなり通る。ゴブリンやコボルトの群れが次々と倒れていく。
「楽勝すぎない?」
萌香が拍子抜けしたように言う。
「《百花繚乱》の効果が出てるからね。二人のステータスが跳ね上がってる分、敵が弱く感じるんだよ」
「じゃあ綾斗のスキルあってこその余裕ってことね」
「そう。一人じゃこんなに楽じゃない」
順調にマッピングを進めながら奥へと向かう。戦闘の合間に皐月がぽつりと呟いた。
「私何もしてないのに報酬分けてもらうの心苦しいわね」
俺は足を止めた。
「どういう意味?」
皐月は視線を逸らしながら言った。
「前に組んでたパーティで揉めたことがあるの。初心者ダンジョンじゃ怪我することもないから、お前何もしてないじゃないかって言われて」
俺は思わず声を荒げた。
「そいつらはバカだ!」
皐月が驚いて目を見開く。
「ヒーラーはいざという時にパーティの要になる職だ。今はいらないからってそんなこと言ってると先に進んだ時に死ぬぞ」
俺の声がダンジョンの壁に反響する。萌香も頷いていた。
「綾斗の言う通りだよ皐月ちゃん。前衛ばかりのパーティなんて脆いもん。回復なしでどこまでやれるっての?」
「萌香…」
皐月の声が少し震えていた。
「パーティにいらない人なんて居ない。みんなが自分の役目を果たしてやっとダンジョンを攻略出来るんだ」
俺は続けた。
「皐月だって俺たちが戦闘に入った時に後ろや周りの状況確認してくれてるだろ? いつでもヒールを飛ばせるように準備してくれてる。俺はちゃんと見えてるよ」
皐月が目を丸くした。
「気づいていたの?」
「当たり前だろ。俺は指揮官なんだから全体を見るのが仕事だ」
皐月がふっと笑った。
「…ありがとう。前のパーティでは言われなかったわ、そんなこと」
俺は少し照れくさくなって頭を掻いた。
「先に言っておくな。俺の目標はいつか来る異世界の特級ダンジョン、さらに上の神級ダンジョンを攻略できるだけの強さになって、父さんたちと肩を並べて戦うことだ」
二人が息を呑む。
「カグヤ母さんが言ってた。元の世界には特級の上に神級があったって。伝説の英雄たちですら手も足も出なかった災厄。それがいつかこの世界にも来るかもしれない。その時に備えないといけない」
萌香が目を輝かせた。
「望むところよ! 綾斗の前衛は任せて! 私が全部斬ってやるわ!」
「萌香…」
皐月も静かに頷いた。
「私の目標も同じだったわ。先に言われてしまったわね」
皐月が珍しく悔しそうな顔をした。
「綾斗に声をかけてもらって良かったわ。前衛もバッファーもいる、ヒーラーも必要としてくれる。三人でならどこまででも行けそう」
でも、と皐月は続けた。
「それなら三人ではダメね。もっと仲間を探さないと。神級ダンジョンなんて三人で行けるわけないもの」
俺は少し考えてから言った。
「父さんが言うには、自分が頑張っていたら同じように頑張る仲間が自然に寄ってくるって。焦って探すより、まずは自分たちが強くなる方が先なんだろうな」
「うーん仲間か! 上のダンジョンに行く気がない人を入れるわけにはいかないんだよね?」
萌香が眉を寄せる。
「そうだな。覚悟が違うとどこかで歪みが出る。でも今は自分たちがレベルを上げて強くなることを目指そう。仲間はゆっくり探せばいいよ」
「そうね。まずは私たちの基盤を固めるのが先決だわ」
皐月が同意した。
そんな話をしているうちにボス部屋に到着した。重々しい扉の前に立つ。
「行くぞ。いつも通りでいける」
扉を開けるとD級のボス、オークリーダーが唸り声を上げて立っていた。
「萌香右から! 俺が左から牽制する!」
「了解!」
萌香が右へ回り込む。俺は左から斬りかかりボスの注意を引く。萌香が隙を突いて背後から一太刀。さらに俺が追撃する。
「はあぁっ!」
二人の連携攻撃が決まり、オークリーダーはあっけなく倒れた。
「終わった……」
「あっけないわね」
萌香が呆然とする。
「D級だしね。もっと上に行けば手ごたえが出てくるよ」
ダンジョンを出て夕暮れの街を歩きながら、俺たちは今日の報酬について話し合った。
「D級の魔石と素材なら結構いい値がつくはずよ」
皐月が計算する。
「クランハウスの資金に回そう。一歩ずつ近づいていくんだ」
俺がそう言った時、皐月が立ち止まった。
「どうした?」
皐月は俺を真っ直ぐに見つめた。その瞳には決意の色があった。
「綾斗の目標を聞いて、私も覚悟を決めたわ」
「覚悟?」
皐月は深呼吸をした。
「綾斗、私の裸を見てちょうだい」
俺は一瞬思考が止まった。
「えっ?」
萌香も目を丸くしている。
「上昇率が上がるならそれをしない手はないもの。萌香の時みたいに、綾斗に見られたらステータスが上がるんでしょう?」
皐月の声は震えていた。でも目は笑っていなかった。本気だ。
「でも皐月それは…」
「恥ずかしいわよもちろん。でも強くなりたいの。綾斗や萌香と一緒に神級ダンジョンまで行くって決めたんだから、躊躇してる場合じゃない」
皐月が服の裾に手をかける。
「まって!」
萌香が慌てて止めた。
「皐月ちゃんここ路上だよ!?」
「あ…」
皐月が我に返ったように顔を真っ赤にした。
「そ、そうねここはまずいわね…」
「帰ってからにしようよ」
三人で皐月のアパートへ急いだ。狭いワンルームに三人で入る。
「じゃあ…」
皐月が再び服に手をかけた。今度は誰も止めなかった。
「見ててね」
上着を脱ぎシャツを引き抜く。白い肌と下着が露わになる。皐月は震えながらもブラジャーを外した。
「…見て」
俺は視線を逸らさなかった。皐月の裸体を真っ直ぐに見つめる。白い肌、整った体のライン、震える肩。羞恥に染まった顔。
その瞬間、皐月の身体から強い光が溢れ出した。
「わっ!これ…」
光が収まると皐月のステータスが跳ね上がっていた。1.5倍から2倍。萌香と同じ数値だ。
「すごい…体の中から力が湧いてくる…」
皐月が自分の腕を見つめる。その顔には羞恥と興奮が混じっていた。
「ありがとう綾斗。見てくれて」
皐月が服を着ながら微笑んだ。その笑顔はさっきまでの冷徹な表情とは違って、年相応の少女のものだった。
「皐月ちゃん…度胸あるね」
萌香が感心したように言う。
「強くなりたいから。それだけよ」
俺は二人を見回した。萌香も皐月も俺と同じ目標に向かって覚悟を決めてくれている。
「よし。三人でどこまでも行こう。神級ダンジョンまで」
「おう!」
「ええ」
三つの手が重なった。
俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。でもこの絆はもう揺るがない。どんな敵が現れようと三人で乗り越えていく。
父さん、母さん。俺は必ずあなたたちの背中に追いつく。
そう心に誓って、俺は新しい仲間たちと共に歩き出した。




