異世界の少女
優斗はそっとカグヤの手を引き、部屋の中へと招き入れた。
「カグヤ、正直に言うよ。俺は水晶の中にいるお前を見た時から、綺麗な人だと思ってた」
「…え?」
突然の告白に、カグヤの目が大きく見開かれる。
「でも、お前はどうなんだ?」優斗の声は真剣だった。「強くなるためだけに契りを結ぶのか?それなら俺は断る。好きな人ができた時に、お前がきっと後悔するから」
カグヤは俯き、唇を噛みしめた。胸の奥が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
「…違うの」
彼女は顔を上げた。その頬は林檎のように真っ赤に染まっている。
「私も…優斗のことが好き。ダンジョンで助け出してくれた時から、ずっと気になってて」
「カグヤ…」
「私も初めてだから…千尋みたいに優しくしてほしい」
その言葉を聞いて、優斗は静かに笑った。
「わかった。任せてくれ」
彼はアイテムボックスから小さな錠剤を取り出し、水と一緒にカグヤに差し出した。
「これは?」
「妊娠しない薬だ」
カグヤは素直にそれを受け取り、ごくりと飲み込んだ。
「じゃあ…」
カグヤは震える手で服を脱いでいく。一枚、また一枚。長年戦いに明け暮れた彼女の身体は、引き締まっていながらも女性的な曲線を美しく保っていた。
月明かりに照らされた肌は白く輝き、その姿に優斗は思わず息を呑んだ。
「すごく綺麗だ」
「あんまり…見ないで…」
カグヤは両腕で身体を隠そうとするが、優斗は優しくその手を外した。
「怖がらなくていい。ゆっくりいくから」
優斗はそっと彼女をベッドに横たえ、時間をかけて愛撫を始めた。首筋に唇を這わせ、指先で肩から腕へとなぞっていく。その優しい手つきは、まるで壊れ物を扱うかのようだった。
「んっ…」
カグヤの口から小さな吐息が漏れる。
「ここ、気持ちいいか?」
優斗が耳元で囁くと、カグヤはこくんと小さく頷いた。
指が背中を伝い、腰のくびれを撫でる。カグヤの身体は素直に反応し、少しずつ緊張が解けていくのがわかった。
「優斗…」
声がだんだんと大きくなっていく。優斗は焦らず、彼女の全てをほどいていくように、ゆっくりと時間をかけた。
十分にほぐれたのを確認してから、優斗はカグヤの手を握った。
「行くぞ」
「…うん」
痛みはなかった。優斗の細やかな気遣いと、千尋から聞いていた通りの優しさが、彼女の恐怖を完全に溶かしていたからだ。むしろ、全身に広がる初めての快感に、カグヤは何度も優斗の名前を呼んだ。
「優斗…優斗っ!」
やがて二人は、共に深い満足感に包まれて横たわった。
「…すごかった」
カグヤがぽつりと呟く。優斗は彼女の髪を優しく撫でながら、静かに笑った。
翌朝、カグヤはゆっくりと目を覚ました。隣には優斗の寝顔がある。その姿を見つめているだけで、胸の奥がぽかぽかと温かくなった。
(これが…好きな人と一緒にいるってことなんだ)
彼女は幸せそうに微笑み、そっと優斗の頬にキスをした。
リビングに出ると、すでに全員が起きて朝食の準備をしていた。
「おはよう、カグヤさん」
灯がにこやかに挨拶する。その隣で日向がニヤリと笑った。
「昨日はお楽しみでしたね〜?」
「なっ…」
「声、聞こえてましたよ?『優斗、優斗っ』って」
美月がものまねをしてからかうと、千尋もくすくす笑いながら言った。
「カグヤさんも、仲間入りですね」
カグヤは一瞬で顔を真っ赤にした。耳まで赤くなり、反論しようと口を開くが言葉が出てこない。
「ち、ちが…これは、その…」
「いいのよ、カグヤ」静香が優しく肩を叩いた。「私たちは仲間で、家族なんだから」
「そうですよ、遠慮することないです」翠も弓を磨きながら微笑んでいる。
カグヤは観念したようにため息をつき、それから小さく笑った。
「敵わないわね、あんたたちには」
そう言って、彼女は千尋の隣に腰掛け、温かな朝食を共にした。昨日までとは違う、深い絆で結ばれた仲間として。
カグヤの快進撃が始まった。
「祝福の絆」による10倍の契りを結んだ彼女は、もはや別次元の存在へと変貌していた。レベル37のステータスが10倍になったのだ。かつて彼女がいた元の世界で、英雄と呼ばれていた人たちと同等のステータス。いや、それすら凌駕するかもしれない。
上級ダンジョンでの無双に、カグヤは酔いしれていた。
「はあぁぁっ!」
彼女が漆黒の短剣を一閃させると、今まで苦戦を強いられていたモンスターたちが紙切れのように両断される。魔力を剣に込めてを放てば、広間の敵が一瞬で消し飛んだ。
「すごい…これが私の力!」
圧倒的な力。長年頂点を目指して戦い続けてきた彼女にとって、それは甘美な麻薬のようなものだった。つい無意識に前に出てしまい、他のメンバーがついてこれなくなることもしばしばあった。
ある戦闘の後、優斗がカグヤを呼び止めた。
「カグヤ、前に出すぎだ」
厳しい声だった。
「強くなったからって、何があるかわからないだろ。罠かもしれないし、隠れた敵がいるかもしれない」
カグヤはムッとして反論しようとした。だが、優斗はそれを遮り、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「俺はカグヤが大事だ。1人で前に出て何かあったらと思うと…胸が痛くなるんだ」
その言葉に、カグヤは息を呑んだ。先ほどの夜の温もりが蘇る。彼に抱きしめられた時の安心感が、胸の奥を満たした。
カグヤは顔を真っ赤にしながらも、「はい、わかりました」と素直に答えた。
それからは危なげない戦闘を繰り返した。二つの盾を軸にした堅実な陣形と、最大火力であるカグヤのコンビネーションは完璧だった。
モンスターが現れては倒れ、経験値が積み重なっていく。
カグヤはレベル39になり、ほかのみんなもレベル20まで上がった。レベル20というのは、異世界の駆け出し冒険者が到達するかどうかの境界線だ。それを数日で到達してしまったのだから異常な速度である。
3泊目の直前、通路の先にようやく行き止まりが見えた。
最奥の重々しい扉だった。
黒鉄で作られたその扉は、天井まで届くほど巨大で、表面には禍々しいレリーフが掘られている。触れただけで冷たい殺気が肌を刺すようだった。
「これがボス部屋か…」優斗が顔を引き締める。
「少し戻って体勢を整えよう」
優斗たちは一度退き、キャンピングカーの中で作戦会議を開くことにした。
キャンピングカーの中は暖かく、コーヒーの香りが漂っていた。しかし、全員の顔つきは真剣だ。
「最終決戦だ。ここから先は今まで以上に危険だと思ってくれ」優斗が切り出す。「沙織、偵察を頼めるか?」
沙織が静かに頷いた。
「でも気をつけてくれよ」優斗は念を押して送り出した。
沙織が戻るまでの間、みんなは無言で装備の手入れをしていた。刃こぼれした剣を研ぎ、矢筒の本数を確認し、魔法の触媒を握りしめる。空気は張り詰めていたが、そこには恐怖よりも覚悟が漂っていた。
しばらくして、沙織が戻ってきた。彼女の表情は硬い。
「どうだった?」優斗が問う。
沙織は息を整えながら報告した。
「ボスは…グリフォン2体よ」
「グリフォンが2体!?」巴が声を上げる。グリフォンは空を飛ぶ猛獣だ。地上戦に慣れている彼女たちにとって、飛行する敵は天敵に近い。それが2体となれば、守りきれるか不安になる。
「他には?」カグヤが冷静に問う。
「見張りはいなかったわ。ボスだけが鎮座していた。でも…ただのグリフォンじゃない気がする。毛並みが黒くて…尋常じゃない魔力を放っていた」
部屋が沈黙に包まれる。だが、優斗はすぐに顔を上げた。
「やるしかない。今の俺たちならやれる」
その瞳には揺るぎない光があった。
「作戦を練ろう」
全員がテーブルを囲み、地図を描きながら話し合う。飛行する敵への対処法、二体同時への対応策。限られた手札の中で最善を尽くすための答えを探していく。
最奥の扉の向こうで、黒いグリフォンたちが低く唸り声を上げていた。彼らの運命を懸けた戦いが、もうすぐ始まろうとしていた。
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