集団戦
「静香の後ろに凛とカグヤ! 千尋の後ろに巴と美月! 二つの盾を軸にして敵を分断する!」
「「了解!」」
少女たちが即座に動き、二つのグループに分かれる。
「確実にタンクが弾いて硬直した敵だけを狙え! 欲張るな、一体ずつ確実に仕留めていくんだ!」
優斗は後衛の方を向き直った。
「日向、雪乃! 初級魔法で牽制してくれ! 翠は弓で弱点を狙え! 灯、美鈴、回復は絶対に切らすなよ!」
「了解よ!」「はいっ!」「任せてください!」
覚悟の声が重なる。
「行くぞ!!」
優斗の号令と共に、静香と千尋が同時に前に出た。
「ウオォォン!」
犬の群れが一斉に襲いかかってくる。赤い目が殺意に満ちて光っていた。
「はあぁっ!」
静香が盾で先頭の一匹を受け止める。重い衝撃と共に犬が硬直したその瞬間、後ろに控えていた凛が抜刀術で横薙ぎに斬り裂き、カグヤが双剣で急所を突き刺す。一匹沈黙。
一方、千尋の方は激しい防戦だった。
「きゃっ!」
三匹の犬が同時に飛びかかってくる。初心者の千尋では捌ききれない――そう思われた瞬間、彼女の身体から黄金色の光が溢れ出した。
「不屈の砦!!」
スキルが発動し、防御力が大幅に上昇しノックバック無効の効果で千尋は踏ん張る。犬たちの牙と爪がその盾に弾かれ、硬直した。
「今だ!」
巴がハルバードを振り下ろし、美月が刀で斬り伏せる。見事な連携で二匹が倒れた。
「すごい…千尋ちゃん、いけたわね!」静香が目を見開く。
「はいっ! なんとか!」千尋も自分の力に驚いているようだった。
「調子に乗るな! まだ来るぞ!」
優斗の声に、再び犬たちが押し寄せる。
「ファイアーボール!」「アイスアロー!」
日向と雪乃の初級魔法が犬たちの足元で炸裂し、怯ませる。翠の矢が正確に犬の目を射抜き、動きを止めていく。
「灯さん、美鈴さん、お願いします!」
千尋が盾を構えながら叫ぶ。回復魔法の光が絶え間なく降り注ぎ、前衛たちの傷を癒していく。
静香が一体を弾き飛ばし、凛が斬る。千尋が二体の突進を受け止め、巴と美月が叩き潰す。
二つの盾を中心とした波状攻撃は、次第にリズムを生み出していった。連携していた犬たちの動きも、的確な迎撃によって統制を失い始める。
最後の一匹が、巴のハルバードによって胴体を貫かれ、絶命した。
広間には荒い息遣いだけが残された。
「はぁ…はぁ…終わった…か?」
美月が膝に手をつきながら呟く。
優斗は周囲を見回した。全員無事だ。傷はあるが、致命傷はない。
「ああ、全員無事だ。よくやった」
千尋はへたり込むことなく、まだ盾を構えたまま震えていた。
「千尋、もう下がっていいぞ」
優斗の言葉に、彼女ははっと我に返り、「はいっ!」と元気よく返事をしてからようやく力を抜いた。
「休憩だ。少し整えよう」
優斗の指示で、一行は広間の隅で体勢を立て直した。
水を飲み、傷の手当てをし、食料を少しつまむ。
「レベル確認だ」
優斗が測定器を取り出す。数値を見て、彼は思わず口元を緩めた。
「全員レベル2上がった。これで15だ」
「15…! 私もさらに上がったわ!」カグヤが驚喜する。
「千尋ちゃんもすごい伸びよ。さすがね」静香が千尋の肩を叩く。
千尋は照れくさそうに笑いながらも、その目には確かな自信の光が宿っていた。
「私…やれます。みんなと一緒なら、もっと強くなれます!」
優斗は頷いた。
「ああ、行ける手応えを感じてる。この調子なら、どんな敵が来ても対応できるはずだ」
秩父ダンジョン攻略への道筋は、少しずつだが確実に開かれつつあった。休憩を終えた14人は、更なる深部へと歩みを進める。その足取りは、入り口をくぐった時よりもずっと力強くなっていた。
「よし、ここなら安全そうだ」
優斗がそう判断し、アイテムボックスからキャンピングカーを出現させた。ダンジョンの冷たい石畳の上に、突如として最新鋭の車両が鎮座する。シュッと自動ドアが開きみんなで中に入り、次に出すのは濃厚な香りのシチューと温かいパンだった。
「はい、あーん」
「んまっ! 美月、これすごいよ!」
仲良く食事を始めるメンバーたちを見て、カグヤは呆気にとられていた。
「ちょっと…信じられないわ。上級ダンジョンで、温かい食事なんて…冒険者の常識を覆してるわよ」
優斗はニカッと笑った。
「腹が減っては戦はできねえだろ? 遠慮しないで食ってくれ」
カグヤも恐る恐るスプーンでシチューを口に運ぶ。その瞬間、極上の味が広がり、彼女の顔も思わず綻んだ。
食後、簡単な作戦会議が行われた。
「今日の戦いの感じは良かった。このフォーメーションで行こう」
優斗がホワイトボードに図を描きながら説明する。
「モンスターが単体の時は静香と千尋でローテーションを組みながら耐え、複数の時は二つの盾で分断する。臨機応変に切り替えていくのがベストだ」
全員が頷き、今日の作戦でまとまった。
就寝時間になり、キャンピングカーの中は静まり返った。優斗は別室で休んでおり、女子たちは一つの部屋で雑魚寝していた。
暗闇の中、日向が隣に寝ていた千尋に小声で話しかけた。
「ねえ千尋ちゃん、一般のクランメンバーたちは、優斗のことどう思ってるの?」
千尋は少し考えてから、穏やかな声で答えた。
「みんな、優斗さんのこと好きですよ。本当に」
「好き、かぁ…」
「ええ。レベル解放される前は…日向さんのように魔法が使えたり、美月さんのように剣の修行をしたりしてない限り、戦闘で女性は男性には絶対に勝てませんでしたからね」
千尋の声が少し沈む。
「女性の扱いはそりゃ酷いもんでした。荷物持ちか、あるいは…最悪な扱いを受けることも珍しくなかった。そこから救い出してくれたのが優斗さんだったんです。レベル解放もしてくれて、それでも私たちに『無茶はするな』って言ってくれて…」
千尋は布団の中で少し身じろぎした。
「私の初めても…すごく優しくしてくれて。痛くないどころか、気持ちよかったです。今は幸せです。優斗さんのことが大好きです。男性は優斗さんだけでいいって思ってます」
その言葉に、日向は少し照れくさそうに笑った。
「もうわかったわよ…。私も自分の結婚相手が優斗で良かったって、しみじみ思うわ」
灯も隣から顔を出し、「ふふ、優斗さんが褒められると私も嬉しいです」と同意した。
しかし、一人だけ複雑な心境の者がいた。カグヤだ。
彼女は布団にくるまりながら、千尋の言葉を聞いていた。
(10倍の祝福の絆…このままじゃ、この子たちに追い抜かれるのも時間の問題ね)
実際、今日の戦闘で彼女たちの連携は目覚ましいものがあった。レベル10で自分と同等の動きをしているのだ。いずれ抜かれるだろう。
そしてもう一つ。
(優斗…ダンジョンから救い出してくれた彼には、惹かれている。でも…)
「初めて」が怖いのだ。長年、戦い一筋で生きてきた彼女にとって、それを晒け出すことは未知の領域だった。
(でも…千尋は気持ちよかったって言ってたわね…)
カグヤの中で、好奇心と好意が恐怖を上回り始めた。
彼女は意を決して起き上がった。
「…ちょっとトイレに行ってくる」
カグヤは音もなく部屋を抜け出し、優斗がいる部屋のドアの前に立った。
心臓が早鐘を打つ。だが、背中を押すのは仲間たちの信頼と、自身の秘めた想いだ。
ノックをすると、すぐにドアが開いた。
「カグヤ? どうした?」
優斗の心配そうな顔を見て、カグヤは覚悟を決めた。
「あなたに…頼みがあるの」
彼女は深呼吸をして、真っ直ぐに優斗を見つめた。
「私にも…その『10倍の契り』をしてほしいって言ったら、引き受けてくれる?」
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