新しい盾
秩父の山々の隙間から差し込む朝日が、禍々しいダンジョンの入り口を照らし出していた。再びこの地に戻ってきた14人は、昨日とは違う決意と新たな仲間を連れて立っている。
「行くぞ!」
優斗の力強い掛け声が響き渡り、一行は再び闇の彼方へと足を踏み入れた。冷たい魔力の風が肌を撫でる中、新たな盾、神崎千尋は緊張した面持ちで周囲を見回している。
「沙織、頼むぞ。囲まれたら終わりだからな」
優斗が先頭の偵察役に声をかける。沙織は振り返り、小さく笑った。
「任せてって! 絶対に見逃さないから」
彼女の自信に満ちた声に、チーム全体の緊張が少しだけ和らぐ。慎重に、しかし確実に歩を進めていくと、沙織が手を挙げた。
「前方、モンスター単体! まだこちらには気づいてない。今なら奇襲できる!」
「よし! 日向、雪乃、魔法の準備を!」
優斗の指示に、二人の魔法使いが闇の中で魔力を集中させる。紫と紅の光が彼女たちの周囲に揺らめき、洞窟の壁に不気味な影を落とした。
「いつでも行けるわ!」日向の目が魔力的な輝きを帯びる。
「打ち込め!」
轟音と共に、爆裂魔法と氷結魔法が同時に放たれた。モンスターが振り返る間もなく、二つの魔法が直撃する。爆炎と氷の破片が舞い散る中、すかさず前衛が動いた。
「行くわよ!」カグヤが先陣を切る。
美月、凛、巴がそれに続いた。4人のアタッカーが一斉に飛び出し、魔法の衝撃で怯んだ敵に斬りかかる。一太刀、二太刀と浴びせ、深追いせずに素早く離脱する。
「前に出る!」
静香が大盾を構えて前進した。そして、そのすぐ後ろに千尋が続く。
「千尋、最初は静香の後ろでフォローだけでいい! 無理するな!」
「はいっ!」
敵の反撃が静香の盾に炸裂する。鈍い衝撃音が洞窟に響き渡るが、静香は歯を食いしばって耐え抜く。
「灯、美鈴! 静香の回復!」
灯と美鈴から放たれた温かな回復魔法の光が、静香の身体を包み込む。傷ついた箇所が癒され、再び力を取り戻していく。
「もう一度静香が受け止めたら、魔法だ!」
「了解!」日向と雪乃が返事をする。
静香が再度、敵の猛攻を受け止めた瞬間、前衛が後退する。
「今よ! エクスプロージョン!」
「絶対零度!」
二つの最上級魔法が再び炸裂した。先ほどよりも大きな爆発が敵を包み、氷の結晶が全身を覆う。そして、その隙を逃さず、翠の矢が真っ直ぐに飛んだ。
「そこっ!」
弓から放たれた一矢が、刀では届かない敵の急所を正確に射抜く。断末魔の咆哮が洞窟を震わせ、巨体が地面に崩れ落ちた。
「やった…!」
千尋が感嘆の声を漏らす。静香は額の汗を拭い、静かに微笑んだ。
「レベルが上がったからか、最初の戦闘より楽に感じるな」凛が刀を鞘に納めながら言う。
優斗がステータス測定器を確認すると、驚きの声を上げた。
「またレベルが3上がってる…これで13だ!」
「すごい…私も1上がったわ! しばらく上がってなかったのに!」
カグヤが自分のステータスを確認し、目を輝かせている。彼女は長い間、レベル35で停滞していた。それがたった二度の戦闘で36に到達したのだ。
優斗は千尋に向き直った。
「どうだった、千尋?」
彼女は興奮冷めやらぬ様子で、早口に答えた。
「みんな、すごいです! 連携が完璧で、見ていて感動しました! 私、あの敵なら防御だけに専念すればなんとか行けそうです! 次は前に出られます!」
「よし、その意気だ。でも、しばらくは一回戦闘したら戻って休憩する。安全第一で行くぞ」
優斗の指示に全員が頷く。
入り口まで戻ると、優斗はキャンピングカーをアイテムボックスから取り出した。広々とした車内には、パーティ会場で料理人たちが心を込めて作った最高級の料理が並んでいる。
「さあ、腹ごしらえだ。プロが作った料理で英気を養おう」
「待ってました!」巴が嬉しそうにテーブルにつく。
温かなスープに、柔らかな肉料理、色彩豊かな野菜のグリル。14人は美味しい料理を囲み、一時の休息を楽しんだ。緊張の糸が緩み、笑顔が戻ってくる。
千尋は緊張しながらも、先輩たちとの会話を楽しんでいた。灯と日向が優しく話しかけ、彼女の緊張をほぐしていく。
「千尋ちゃん、無理しないでね。怖かったらすぐに言うのよ」
日向の言葉に、千尋は力強く頷いた。
「はい! みんなの役に立ちたいんです。これが私の生きがいだから」
食事を終えると、優斗は立ち上がった。
「よし、もう一度行くぞ。次は千尋にも前に出てもらう。実戦で経験を積むんだ」
「任せてください!」
次のアタックを開始してからしばらくの間、ダンジョン内は不気味なほど静まり返っていた。
先ほどの激戦から一転、何の障害もなく通路が続いていく。足音だけが洞窟の壁に反響し、張り詰めていた緊張の糸が、少しずつ緩み始めていた。
「敵が出ないな…」凛が周囲を警戒しながら呟く。
「モンスターが強力な分、うじゃうじゃ居るわけじゃないんだな。縄張り意識が強いのかもしれない」優斗が推測を口にする。S級以上のダンジョンでは、モンスターの数よりも質が問題になる。一匹一匹が凶悪なため、群れで襲ってくることは少ない――そう思っていた。
気が緩みそうになった、まさにその時だった。
沙織がピタリと足を止め、鋭い息を吸い込んだ。
「みんな、止まって! 前方、広間にモンスター…だけど、数が多い!」
「何体だ?」優斗が問う。
「10体…いえ、11、12…増えてる!」
沙織の声に引き寄せられるように、一同は広間の入り口から中を覗き込んだ。
そこには、牛ほどの大きさがある犬のようなモンスターの群れがいた。赤黒い毛皮に覆われた筋肉質の体、口からは鋭い牙が覗き、涎を垂らしながら低い唸り声を上げている。
「くそっ、群れかよ! さっきのトカゲとは訳が違う!」巴がハルバードを握りしめた。
「どうする、優斗?」カグヤが短剣を構えながら問う。
優斗は瞬時に状況を判断した。数が多い以上、長期戦は不利だ。だが、ここで引くわけにはいかない。
「やるぞ! 陣形を変える!」
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