水着回 結婚式
ダンジョンの詳細を聞くと、出現場所が海水浴場であることもあり、中は常夏の南国のような空間らしい。
「よし! ボスを倒したらそのまま海で遊ぶぞ! 」
優斗の宣言に、乙女たちの歓声が上がった。作戦終了後の海水浴を楽しみに、一行は近くのショッピングモールへと繰り出した。
水着売り場は一瞬にして戦場と化した。色とりどりのビキニやワンピースを手に取り、はしゃぎながら選ぶ少女たち。更衣室から次々と飛び出してくる姿に、優斗は目のやり場に困りつつも、その笑顔に幸せを感じていた。
ただ一人、綾乃だけは控えめなワンピースを選びながら心配そうにお腹に手を添えていた。
「海に入っても大丈夫かしら…」
その声に、隣にいた優斗の母親が笑って答えた。
「大丈夫よ。海に入るくらいなら問題ないわ。私の時もそうだったから」
「本当ですか? ありがとう、お義母さま!」
綾乃の無邪気な笑顔に、母親は頬を赤らめてデレデレとなった。「まあ、お義母さまなんて…」
準備を整えた一行は、ダンジョンへと突入した。
入り口をくぐると、そこには真っ青な空と白い砂浜、そして透き通ったエメラルドグリーンの海が広がっていた。
「すごーい! 本当に海だ!」
だが、敵は待ってくれない。砂浜を埋め尽くすほどのカニの大群が、ザワザワと鋏を鳴らして押し寄せてきた。
「あはは、日向が炙っちゃう?」
日向が手からパチパチと炎を出しながら聞いてくる。
優斗は苦笑しながら冗談めかして返した。
「食えるかな? …でもダメだ。今回はレベル上げと戦闘訓練の為だ。日向と雪乃は控えててくれ。前衛組の出番だ!」
「ちぇっ」「わかりました」と文句を言いながらも下がる二人。
優斗の号令と共に、前衛メンバーたちがカニの群れに突撃した。
強化された彼女たちの動きは速い。カニは確かに素早いが、メンバーたちはさらに速かった。的確にカニの関節や隙間を狙い、次々とひっくり返したり甲羅を割ったりしていく。まさに実戦形式の訓練となった。
砂浜を制圧し、先に進むと今度は海から巨大な影が現れた。
人間よりデカい大ダコだ。触手をうねらせ襲いかかってくる。
「私の出番ですね!」
待ってましたとばかりに雪乃が前に出る。
「絶対零度!」
放たれた極寒の冷気が大ダコを瞬時に包み込み、触手までカチカチに凍り付かせた。あっけなく砕け散り、第2エリアもクリアとなった。
いよいよボスの部屋だ。装飾された大きな扉を開けると、そこには南国のような空間に似つかわしくない、岩のような質感を持つ巨大なカメが鎮座していた。
ボスは苛立ちの咆哮と共に口から猛火を吐き散らしてきた。
「避けて!」
綾乃の指示で散開し、反撃しようとするが、攻撃を加えようと近づくとカメは素早く手足を引っ込め、堅牢な甲羅の中に隠れてしまう。剣も魔法も通じない。
「巴! いけるか!?」
優斗が叫ぶと、巴はニヤリと笑ってハルバードを構えた。
「任せときな!」
巴は驚異的な脚力で跳躍し、甲羅の横腹に着地した。そしてハルバードの柄を甲羅と地面の隙間にねじ込み、「ヨイショッ!」と気合を入れてテコの原理でひっくり返した。
無防備に柔らかい腹を出し、ドンガメになったカメが慌てて首を出した瞬間。
「今だ! 総攻撃!」
凛の斬撃、灯の聖撃、翠の矢などが一斉に降り注ぎ、ボスはものの数秒で沈黙した。
「ボス撃破!」
勝利の歓声が上がる。
「さあ、約束通り海だ!」
一行は最初の砂浜へ戻り、キャンピングカーの中で待機していた水着に着替えた。
次々と砂浜に出てくる乙女たち。それぞれが選んだ水着姿で優斗の前に立ち、「どう?」「似合う?」と感想を聞きに来る。優斗は全員にサムズアップし続け、目がチカチカするほどの極上の景色に笑いが止まらなかった。
そんな中、雪乃が涼しい顔で立っていた。なぜかスクール水着である。
「雪乃…なんで?」
「動きやすいですから」
キョトンと答える彼女にツッコミを入れつつ、砂浜での自由時間が始まった。
バレーボールをしたり、砂のお城を作ったり。綾乃も浅瀬に入り、波打ち際で微笑んでいる。「大丈夫そうだな」と優斗はホッと胸を撫で下ろした。
存分に泳ぎ、遊び尽くした後。
「そろそろ帰るぞー!」
優斗の声に名残惜しそうにしながらも、全員が着替えてダンジョンの外へと出た。
外で待機していた県知事や関係者たちに手を振り、香川県の平和を守った英雄たちは、夕日に染まる讃岐のダンジョンを後にした。
ホテルに戻った優斗たちは、待たせていたバスに乗り込み、東京への帰路についた。
出発前、優斗は両親を呼び止めた。
「父さん、母さん、すぐに式をするから準備しておいてくれ。日時はまた知らせる」
「わかったわよ、任せておきなさい」
母が涙を拭いながら笑う。
「金は全部出すから、来れる親戚は全員呼んでくれ! 恥ずかしくない式にするから!」
「おう! 任せとけ!」父が力強く胸を叩いた。
クランハウスに帰り着いた頃には、さすがの150人も疲労の色を隠せず、それぞれの部屋へと散っていった。
優斗はリビングのソファで寛ぎながら、隣に座る綾乃と静香にふと尋ねた。
「二人の両親には……もう連絡したのか?」
その言葉に、二人の動きがピタリと止まる。
綾乃が少し寂しげに微笑んだ。
「私の両親は…あの大災害で亡くなったの」
「私も…です」静香も目を伏せる。「津波で…家も流されて」
重い沈黙が流れる。だが、その空気を打ち破るように灯と日向がリビングに飛び込んできた。
「優斗! 私たちが育った施設の先生を呼んでもいい?」
「先生たちもきっと喜ぶわ!」
優斗は二人の明るさに救われた思いで頷いた。
「ああ、もちろんだ。何人でも来れるようにしよう」
優斗は立ち上がり、皆に告げた。
「式はクランハウスの庭で立食形式のパーティにする! 思いっきり騒ごう!」
「やったー!」
翌日から、優斗は金に糸目をつけずに準備を進めた。
世界トップクラスのデザイナーに4人のウェディングドレスをオーダーし、格式高い教会から神父様を招き、最高級の料理人を集めた。
国中が注目するS級探索者の歴史的結婚式だ。関係各所も最優先で動いてくれた。
そして迎えた結婚式当日。
クランハウスの広大な庭は、美しい花と装飾に囲まれ、極上のパーティ会場と化していた。
探索者協会の関係者、優斗の両親と親戚、クランメンバー150人、他クランの幹部たち、そして灯と日向が育った施設の先生方。大勢の来賓が集まり、5人を心から祝福していた。
純白のドレスに身を包んだ4人の花嫁は、どれも似合いすぎて言葉を失うほど美しかった。
神父の前で誓いの言葉を交わし、4人との誓いのキスをする。
「夫、優斗」
「妻、綾乃」「妻、灯」「妻、日向」「妻、静香」
「「「「はい」」」」
拍手と歓声が嵐のように巻き起こり、幸せの絶頂にいた。
だがその時、協会長のスマホがけたたましく鳴り響いた。
協会からの緊急回線だ。
「優斗君! 緊急事態だ!」
協会長の声が震えている。
「秩父の山中に…とてつもない魔力を噴き出しているダンジョンが現れた! 規模からして…S級どころではない!」
その報せがもたらしたのは、新たなる戦いの幕開けだった。
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