クラン追放?
それからの優斗は、目の回るような忙しさの中で飛び回っていた。
彼は探索者協会から史上初の『S級探索者』に認定されたのだ。それに伴い、様々な特典が付与される。中でも驚きだったのは、日本政府から特例として『重婚』が認められたことだった。彼女たちとの関係を公に認められた形になった。
とはいえ、やることは山積みだ。メンバーと一緒にA級ダンジョンに潜ってレベル上げをしたり、協会のこれからの体制について会議に出たりと、息つく暇もない。
そんな多忙なある日、クランハウスに帰ると、日向が玄関で腕を組んで待ち構えていた。
その表情は鬼のように恐ろしい。
「優斗! あんたはクランから追放よっ!」
いきなりの宣告に、優斗は目ん玉を飛び出すほど驚いた。
「えっ!? な、なんで!? 戦闘力が低いからか!? 俺、レベル上げ頑張ってるのに…」
優斗はパニックになり、肩を落として落ち込む。
だが、日向は怒鳴るように詰め寄ってきた。
「バカ! 違うわよ! いつまで綾乃を放っとく気!」
その言葉に、優斗はハッとして息を呑んだ。
日向の真意を悟り、肩の力がスッと抜ける。優斗はポケットから、用意していた小さな箱を取り出した。
「…わかってるよ。まずは綾乃からだ」
優斗はリビングへ向かい、ソファで優雅にお茶を飲んでいる綾乃の前に片膝をついた。
「綾乃さん…いや、綾乃。俺は探索者になってから、ずっとあなたに憧れていた。強くて、美しくて、誰よりも俺を導いてくれた。俺の隣にいてほしい。結婚してください」
綾乃は驚いたように目を丸くし、それから幸せそうに涙を浮かべて微笑んだ。
「ええ、喜んで」
次に、優斗は緊張した面持ちで立っている灯の前に歩み寄った。
「灯。あの日、声をかけてくれてありがとう。あの時パーティを組んでくれなければ、俺は今ここにいなかった。今があるのは全部、灯のおかげだ。俺と一緒に、これからもずっと歩んでほしい」
灯は顔を真っ赤にして、涙目で何度も頷いた。「…うん。うんっ!」
そして、まだ怒ったような顔をしている日向の前に立つ。
「日向。いつも突っ込みありがとう。お前のおかげで、俺たちはどんな時もバラバラにならずに済んだ。日向が支えてくれたからここまで来れたんだ。…結婚してください」
「…もう。仕方ないわね」日向は照れ隠しのように鼻を鳴らし、「はい」と答えた。
最後に、少し離れた場所で静かに拍手を送っている静香の前に歩み寄る。
「静香。君は俺の初めての相手だった。俺は…君を絶対に幸せにしたい。ずっと俺のそばにいてくれ」
静香は目を潤ませ、ポロポロと涙をこぼし始めた。「…はい。はいっ!」
その場にいたクランメンバー全員から、「良かったね!」「おめでとう!」と温かい祝福が贈られた。
改めて婚約者となった4人に囲まれ、優斗は実感した。これでようやくスタートラインに立てたのだと。
「さて」と綾乃が切り出す。「ご挨拶に行かなくちゃね。優斗のご両親に」
「ああ、そうだな。とりあえず旅行がてら会いに行くか」
大型バス6台を借り切り、祝福の絆のクランメンバー総勢150名は、香川県への慰安旅行へと出発した。
優斗の実家への挨拶と、念願の讃岐うどんを食べるという二つの目的を兼ねている。
バスの中はすでに興奮と期待に包まれていた。
翌朝、バスは瀬戸大橋を渡り四国へと入った。
最初の目的地は、あらかじめ予約しておいた地元の人気うどん屋だ。
湯気立つ店内で、コシの強い麺と出汁の香りに全員が歓声を上げた。
優斗は得意げに語り始めた。
「いいか、香川県民は朝からうどんを食べるんだ。そして昼ご飯はうどんをおかずに白飯を食べて、夜は鍋にうどんを入れて食べる。これが日常だ」
日向が即座に突っ込む。
「あんたねぇ、香川県の人に怒られるわよ! 」
優斗の冗談に、テーブルを囲んだメンバーたちは笑い転げた。
うどんを堪能した後、一行は高松市内のホテルへとチェックインした。
一息ついた優斗は、綾乃、灯、日向、静香の4人を連れてタクシーに乗り込んだ。
目指すは、優斗の生まれた田舎の実家だ。
到着すると、両親が玄関先で待ち構えていた。
「お帰り、優斗」
「ただいま、父さん、母さん」
嬉しそうに顔を合わせる親子。だが、両親の視線はすぐに優斗の後ろにいる4人の美女へと釘付けになった。
「婚約者を連れてくるとは聞いてたけど…4人も来るとは思ってなかったわ」
母が呆気にとられている。
4人は一歩前に出て、同時に頭を下げた。
「綾乃です」
「灯です」
「日向です」
「静香です」
「「「「これからよろしくお願いします!」」」」
綾乃が顔を上げ、申し訳なさそうに付け加えた。
「政府が特例で重婚を認めてくれたんです。それに…」
彼女は自分のお腹にそっと手を添えた。「ここに孫がいます、だからすぐに式をあげることになって」
その言葉に、両親は目を丸くした後、破顔した。
「孫! 孫ができるのか!」
「まあ、なんてこと!」
その日の夜、実家は親戚総出でのお祭り騒ぎになった。
大勢の親戚が集まり、次々と祝いの言葉が贈られる。
「優斗、テレビでインタビュー見たぞ! 国の英雄じゃないか!」
「綾乃さんも! テレビに出てたA級探索者だったのね!」
大騒ぎの中、さらにサプライズが訪れた。
県知事本人が現れたのだ。
「S級探索者の優斗君が帰省していると聞いて来ました」
県知事は深刻な面持ちで切り出した。
「実は今、県内に出現したA級ダンジョンが誰も攻略できずに困っているのです。もうすぐモンスターが溢れてきてしまう。どうか一度攻略していただけないか」
優斗は即座に頷いた。
「わかりました。俺たちに任せてください」
飲み会はそのまま作戦会議へと切り替わった。
翌日、優斗はホテルからクランメンバーを招集した。
「みんな、せっかくの旅行だが仕事だ。香川県のA級ダンジョンを攻略するぞ!」
「了解!」
150人の探索者たちは意気揚々とダンジョンへと向かった。
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