攻略完了、消えたダンジョン
3日目にして最後となる攻略の日だ。いつも通り150人を10パーティに分け、広大なS級ダンジョン内で階段を探して散開した。
優斗を中心とした最強の12人は、ボス部屋へ続く階段が見つかるまで、入り口付近で待機することになっていた。
手持ち無沙汰な優斗は、ふと漏らした。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!」
映画の主人公のようにボソッと言ったつもりだったが、すぐ隣にいた灯に聞かれていた。
「知ってますよ」
灯は呆れたように返す。
日向も苦笑しながら口を開いた。
「ちょっと、それフラグって言――」
言い終わる前に、ポーン!と花火が打ち上がった。非常信号だ。
直後に通信機から切羽詰まった声が響く。
『5班!アリに囲まれた!助けて!』
日向がキッと優斗を睨みつける。
「優斗のせいだからね!」
そう叫ぶと同時、彼女は猛スピードで森の中へと走り出した。
「マスター!乗れ!」
巴が優斗の前に背中を向けて屈む。
「お、おう!」
優斗が飛び乗ると、巴はハルバードの柄で地面を蹴り、日向を追いかけて疾走した。10倍強化された巴の脚力は凄まじく、景色が歪むほどのスピードで森を駆け抜ける。
現場に到着すると、第5班がアリの大群に取り囲まれていた。だが、ここへ来たのは最強の12人だ。
「どけぇぇっ!」
巴が優斗を降ろしながら突っ込み、ハルバードを大回転させる。日向と雪乃の広域魔法が炸裂し、アリたちは一瞬で黒い炭と化した。
祝福の絆対アリ軍団。まさに一方的な蹂躙だった。あっけなく殲滅を終えた彼女らは、安堵する第5班を残して再び階段探しに戻っていった。
だが、優斗には待っていたものがあった。
「正座!」
日向に怒鳴られ、優斗は森の中で正座させられた。
「冗談でもフラグは立てちゃダメ! 本当に死ぬかもしれないんだからね!」
日向に指を突きつけられ、優斗はシュンと縮こまる。
「まあまあ、みんな無事でレベルも上がったんだからいいじゃねぇか」
巴がニカッと笑って擁護してくれたおかげで、どうにか許してもらえた。
それからしばらくして、無事に階段が発見された。
いよいよ最後のボス戦だ。12人は階段を下り、再び闘技場のような空間へと出た。
現れたのは、先日と同じ漆黒の鎧のレヴナント上位種だ。
「雪乃!」
「はいっ! 絶対零度!」
雪乃が放った極寒のブリザードがボスを包み込み、瞬時に氷漬けにした。動きを封じられたボスは為す術もない。
「日向!」
「任せて! 天を裂き、地を砕き、世界を焦がす終焉の炎よ! 我が呼び声に応えよ! 全てを灰燼へと還せ! エクスプロージョン!!」
日向がうっとりとした表情で詠唱を唱え、最大級の爆裂魔法を解き放った。
轟音と共に氷塵と紅蓮の炎が舞い上がり、ボスは跡形もなく消滅した。
あっけない勝利に、誰もが肩透かしを食らった気分だった。
ダンジョンの外に出ると、入り口の漆黒の渦がフワリと光り出し、大気に溶けるように消えていった。
「よし! 攻略完了だ!」
優斗が拳を天に突き上げた。
長く苦しい戦いだったが、ついにS級ダンジョンを消滅させたのだ。
優斗は振り返り、仲間たちに満面の笑みで言った。
「今日はみんなでパーーっと焼肉でもやるか!」
「おおーっ!」
150人の歓声が都心部に響き渡り、一行は勝利と焼肉の約束に胸を躍らせてクランハウスへと帰還した。
クランハウスの広大な庭には、無数のバーベキューセットが並べられ、香ばしい肉の焼ける匂いと楽しげな笑い声に包まれていた。S級ダンジョン攻略の祝賀会であり、日頃の労をねぎらう焼肉パーティだ。
そこには巴の父である鬼塚剛蔵の姿もあった。ちょうどダンジョンの探索から帰ってきたところを優斗が招待したのだ。
「いやぁ、優斗君には感謝してもしきれんよ! おかげでワシもレベル3になったんじゃ!」
剛蔵は大きな体を揺らして喜んでいる。レベル解放は年齢に関係なく効果があるようだ。
しかし、巴がポツリと零した。
「親父、私たちもうレベル5なんだけどね」
「なんだって!?」
祝福の絆のメンバーたちが、たった数日でレベル5に到達していることを知ると、剛蔵は山のような大きな体を少しシュンと縮こまらせて寂しそうにした。「娘に追い抜かれるとは…」とブツブツ言う姿に、周囲は温かく笑いかけた。
パーティの輪の中には、カグヤの姿もあった。彼女は探索者協会での研究者たちからの容赦ない質問責めに疲れ果てて戻ってきたばかりだが、目の前に並ぶ肉には瞳を輝かせていた。
「ん〜! こっちの世界のお肉、美味しいなぁ!」
その声に釣られて優斗が近づく。
「だろ? こっちは美味い肉を作るために品種改良して、餌にもこだわってるからな。この肉、結構高いんだぞ」
「へぇ〜、さすがね! 異世界のグルメ万歳!」
カグヤが次々と肉を頬張る様子を見ながら、優斗はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「そういえばカグヤは、いつから冒険者やってるんだ?」
「私? 15からだから、6年目になるかな」
「6年……? レベル35になるまで6年もかかるのか?」
優斗は驚いた。この数日の成長スピードを見ていると、あまりにも遅く感じるからだ。
カグヤは肉を飲み込み、少し真面目な表情になった。
「レベル35くらいになるとね、才能の差がハッキリと出てくるの。ここまでは誰でも地道にやれば到達できるけど、この先に進めるかどうかは…才能次第なんだよ」
その言葉に、優斗は遠くで騒ぐ仲間たちへ視線を向けた。レベル解放されたとはいえ、いつか来るかもしれない「壁」。才能の有無で格差が生まれる未来。
優斗は心の中で固く誓った。
(才能があろうとなかろうと、戦いについてこれなくなったメンバーがいたとしても、絶対に見捨てない。俺たちが全員で支え合っていくんだ)
夜が更け、宴もたけなわになり酒も回ってきた優斗は、心地よい眠気に襲われ自室へと戻った。
ベッドに倒れ込もうとすると、そこには先客がいた。
「あ…日向?」
日向がベッドの布団の中に潜んでいた。
彼女は少し顔を赤くしながら、そっぽを向いて言った。
「…たまには、私と2人でイチャイチャしなさいよ」
その声は少し震えていて、可愛らしくも必死なツンデレっぽさが滲み出ていた。
「えっ、いや、その…」
「ピルは飲んだから…」
日向はそう呟くと、恥ずかしさを隠すようにスッと目を閉じた。
その姿にドキリとした優斗は、そっと彼女の肩を抱き寄せる。静かな夜に二人の鼓動だけが響いていた。
翌朝、さわやかな朝日と共に新たな一日が始まった。
祝福の絆のメンバーたちは、さらに高みを目指して動き出す。
「さあ、次はA級ダンジョンでのレベル上げだ! 怪我するなよ!」
優斗の檄が飛び、一行は更なる飛躍のために出撃した。
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