クラン祝福の絆全員で攻略
その日だけで、祝福の絆のクランメンバー全員がレベル2に到達した。
「ゲームと同じで、レベルの低い内は上がるのが早いんだな」
優斗がステータスボードを見ながら呟く。面白いことに、戦闘に直接参加していない灯や沙織といった回復職のメンバーたちにも、しっかりと経験値が入っていた。どうやら経験値はパーティ全体で均等に分配される仕組みのようだ。これは非常にありがたい。支援に徹しているメンバーが置いてけぼりにならずに済む。
夜になり、クランハウスで夕食を終えた優斗たちは、リビングに集まって作戦会議を開いていた。テーマはもちろん、S級ダンジョンの攻略だ。
「カグヤ、このダンジョンについてもう一度詳しく教えてほしい」
優斗が大型モニターにS級ダンジョン内で撮影した映像を映しながら尋ねる。
「ああ、私が転移罠を踏んだダンジョンだね」
カグヤは懐かしそうに、少し悔しそうに画面を見つめた。
「ここはちょっと特殊でね。ボスの部屋に続く階段が、ランダムで出現するんだ。だから、しらみつぶしに探すしかない」
「しらみつぶし…か」巴が難しい顔で唸る。
「あの広大なダンジョンをか?」
「あの広さだと、私たち12人だけで探していたら何日かかるかわからないわね」凛も眉をひそめる。
優斗は別の懸念も口にした。
「それと、転移罠だ。それは沢山あるものなのか? 歩くたびに踏みそうで怖いんだが」
「いや、中級ダンジョンにはほぼ無いはずなんだ」カグヤは首を振る。「だから私も油断したんだよ。見たらすぐに罠だってわかる魔法陣が床に描かれているから、それさえ踏まなきゃ大丈夫。ちゃんと注意して歩けば問題ない」
優斗が映像を進める。遺跡に到着し、巨大な水晶を映した場面だ。
「水晶だ…」雪乃が呟く。
画面の中の優斗は、水晶の中のカグヤをじっと見つめている。
「…キレイだ」
当時の優斗の声がスピーカーから流れた。
「えっ」
カグヤの動きが止まる。画面に映っているのは、水晶の中で一糸まとわぬ姿で眠る自分だ。
「えっ、えっ、ええっ!?」
カグヤの顔が一気に真っ赤になる。
映像はさらに進み、水晶が消えて倒れ込む裸のカグヤを、優斗が慌てて抱きしめる姿が映し出された。
「な、なんで裸なの!? いやぁ! 見ないでっ!」
カグヤは両手で顔を覆いながら、指の隙間からチラチラと画面を見ている。
「ご、ごめん! 記録用にカメラを回してて、そのままになってたんだ!」優斗も真っ赤になってリモコンを操作するが、なかなか止められない。
「あなた…私の裸見たんだから…責任…取ってよね…」
カグヤが消え入りそうな声で呟く。
「責任!?」
日向がニヤニヤしながら茶化す。「おー、カグヤちゃん、優斗のお嫁さんになっちゃう?」
「ち、違う! そういう意味じゃ…ああもう!」
騒動が落ち着いた後、優斗は真剣な表情で作戦を発表した。
「S級ダンジョンは、人海戦術で攻略する」
「人海戦術?」
「ああ。クランメンバー150人全員を連れてダンジョンに向かう。そして15人ずつ、10個のパーティに分かれて探索するんだ」
「ちょっと待って」沙織が口を挟む。「優斗、150人全員に祝福の絆をかけ続けるの?」
「ああ。レベル2に上がったおかげで、体感的に150人でも余裕ができた。それに…」
日向が悪戯っぽく笑いながら言葉を引き継ぐ。
「メンバー全員優斗に裸を見せてるからね」
「なっ…」
カグヤがギョッとして周りを見渡すが、誰も否定しない。
「それって…」美月が計算するように指を折る。「当初の10倍強化された私たちの状態に、ほぼ匹敵するステータスになっているはずです。それに、モンスターを倒せばすぐにレベルも上がって、もっと楽になるでしょう」
優斗は大きく頷いた。
「そういうことだ。ただし、8時間探して階段が見つからなかったら、必ず一度入り口に戻ってくること。何より、床に魔法陣を見つけたら絶対に近づかないこと。これを全員に徹底させる」
翌朝、祝福の絆の総勢150名は、S級ダンジョンの入り口に集結した。
誰もがまだ経験したことのない、前人未到の大規模攻略作戦の始まりだった。
優斗の号令で、全員が入り口から扇状に広がり、森の中を慎重に探索していく。
「こちら第3班、異常なし」
「第5班、軽い戦闘があったが問題なく撃破」
通信機から次々と報告が上がる。レベル2でこれだけ戦えているなら、このままレベルが上がっていけばダンジョン攻略はどんどん楽になるはずだ。
そして、探索開始から5時間が経過した頃。
「こちら第7班! 階段を発見した! 遺跡の西側、大きな岩の裏に隠れるように出現している!」
その報告に、全パーティから歓声が上がった。
「よし、全員、第7班の場所に集合! 絶対に転移罠に気をつけろよ!」
優斗の指示で、150人の探索者たちが一斉に動き出す。見つかった、ついにボスへの道が開かれたのだ。
下り階段の前には、150人の探索者たちが集結していた。
「行くぞ!」
「灯、日向、静香、凛、藍、沙織、翠、美鈴、巴、美月、雪乃! 俺に続け!」
「はいっ!」「おうっ!」「任せて!」
11人の乙女たちが力強く応える。
優斗が先頭を切り、冷たい石畳の階段を下りていく。その後ろに、最強の女戦士たちが続いた
階段の先に広がっていたのは、巨大な円形の闘技場のような空間だった。
中央に鎮座していたのは、先日のA級ダンジョンで苦戦したレヴナントの上位種と思しきボスモンスター。漆黒の鎧を纏い、禍々しいオーラを放つ巨体がゆっくりと立ち上がる。
「なぁにこれぇ…」日向が呆れたように呟く。
「瞬殺よ」凛が刀を抜き放ちながら冷徹に告げる。
ボスが咆哮を上げようと口を開いた、その瞬間。
11人が一斉に動いた。10倍に強化された彼女たちの動きは、もはや音速を超えているかのようにすら見えた。
凛の斬撃がボスの首を刎ね飛ばし、巴のハルバードが胴体を貫き、美月の剣閃が四肢を切り裂く。
ボスの準備が完成するよりも早く、日向と雪乃の最大出力魔法が轟音と共にボスの残骸を消し飛ばした。
現れた瞬間に蹂躙された。
それが、S級ダンジョンボスの末路だった。
「えっ…終わり?」美鈴がポカンとする。
「ああ、終わりだ」優斗も呆気にとられながら頷いた。
あまりにも呆気ない。これがカグヤたちの世界の「中級」の戦力なのだと痛感させられた。
ダンジョンから出た優斗はすぐに気持ちを切り替え、協会長に電話を入れた。
「ボスの討伐に成功しました。このダンジョンは都心部に出現しているため、脅威となる前に消滅させる方針で進めます」
「わかった。まだ君たち以外の部隊には攻略できないからね。安全な内に消滅させてくれ給え」
翌日も、同じ作戦でダンジョンに潜った。150人の総力を挙げてボスを連続討伐する。
1日目よりもさらに短時間でボスを撃破した。
「これで、あと1日攻略すれば多分消滅するはずだ」
カグヤの助言通りなら、明日にはこのS級ダンジョンはこの世界から消え去るだろう。
その夜。優斗は自室で報告書をまとめていたが、ふと重い溜息をついた。
「綾乃…」
呼ばれた彼女が振り返る。
「どうしたの?」
「ごめんな。戦闘させてあげられなくて」
優斗は申し訳なさそうに眉を下げる。今回の攻略戦は、彼女はただ後ろで見ているだけだった。
綾乃は優斗の頬にそっと手を添え、優しく微笑んだ。
「気にしないで。私は優斗の子を産む事の方が大事だから」
その言葉に、優斗はドキリとした。綾乃の瞳は本気だった。
「それにね」綾乃は悪戯っぽく笑う。「ダンジョンを消滅させた後の結婚式、楽しみにしてるから」
「ああ…必ず準備して行くよ」
優斗は彼女の手を握り返し、固く誓った。この戦いが終わったら、必ず彼女を幸せにすると。
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