初めてのクランでの探索 ラッキースケベ
D級ダンジョン「風鳴りの洞窟」は、その名の通り絶えず風が吹き抜ける洞窟型ダンジョンだった。入り口からして、冷たい空気が三人の頬を撫でる。
「冷えるな」
優斗はアイテムボックスから防寒用のマントを取り出し、灯と日向に手渡した。準備は万全だ。
「ありがとう、優斗さん!」
灯は早速マントを羽織りながら、嬉しそうに呼び名を変えた。つい先ほど、クラン設立を機に互いを名前で呼び合うことに決めたのだ。灯は月島灯、日向は橘日向。二人とも一人暮らしで探索者をしている。境遇が似ているからか、すぐに打ち解けられた。
「優斗、あんたも一人暮らしなんだ? 意外と苦労してんだね」
日向もマントを受け取りながら、少しだけ口調が柔らかくなった。
「まあな。親は遠方だし、探索者一本で食ってるから」
「じゃあ家事とか全部自分で? 偉いじゃん」
「お前もだろ」
「ま、まあね!」
軽口を叩き合いながら、三人は洞窟の奥へと足を踏み入れた。
「じゃあ、最初からいくぞ。《祝福の絆》!」
優斗が手をかざすと、金色の光が灯と日向を包み込む。親密度に応じて光の強さが微かに違う。灯の光は強く輝き、日向の光はまだ少し控えめだった。それでも、初めてスキルを受けた日向は目を丸くする。
「なにこれ、体が軽い…魔力が湧いてくるみたい!」
「これが優斗さんの力だよ! すごいでしょ!」
灯が自慢げに言う。
「へえ、口だけじゃなかったんだ。じゃあ早速試させてもらうわよ!」
日向が杖を構えた。前方から、洞窟に住み着く大型のコウモリ型モンスターが群れをなして飛来する。D級のモンスターだ。昨日までの日向なら、初級魔法で一匹倒すのがやっとだった。
「喰らいなさい、《ファイアボール》!」
日向が放った火球は、彼女が想像していた三倍以上の大きさで炸裂した。轟音と共に、コウモリの群れが一瞬で焼き尽くされる。
「うっそ!? 私のこれが初級魔法!?」
自分の手を見つめて驚愕する日向。彼女の戦闘力は今、明らかにC級相当以上に跳ね上がっている。
「やったね日向ちゃん! 優斗さんのおかげだよ!」
「あ、あんた、本当にすごいスキル持ってたんだ…」
日向が優斗を見る目が少し変わった。疑いから興味へ、そして微かな信頼へ。
「まだまだいくぞ。俺が前を塞ぐ。灯は俺の回復を頼む。日向は後方から魔法で殲滅だ」
「はい!」
「了解!」
三人は完璧な連携で洞窟を進んでいった。優斗が盾となり、傷を負えば灯の《祝福の絆》で強化されたヒールが瞬時に癒やす。日向の火力は圧倒的で、道中のモンスターは為す術もなく蹴散らされていく。D級ダンジョンとは思えないほどの快進撃だった。
やがて正午近くになり、安全な小部屋を見つけた三人は昼休憩を取ることにした。
「腹減ったな。飯にするか」
優斗がアイテムボックスに手を入れる。すると、湯気の立つ弁当箱が二つ、三つと取り出された。
「えっ、あったかい!?」
灯が驚きの声を上げる。
「アイテムボックスの中は時間が止まるんだ。朝作った弁当がそのままの状態で保存できる」
「ちょっと優斗、これ全部手作り? 卵焼きに唐揚げ、ちゃんと彩りも綺麗だし……」
日向がまじまじと弁当を覗き込む。
「一人暮らしが長いと自然とな」
「すごいすごい! いただきます!」
灯がぱあっと顔を輝かせて箸を取る。日向も一口食べて、無言で親指を立てた。美味い、のサインだ。
優斗も自分の弁当を広げながら、二人の嬉しそうな顔を見て口元が緩む。こんな風に誰かと飯を食うのはいつぶりだろうか。
「優斗さんって、料理上手で優しくて、やっぱりいい人だね」
灯が唐揚げを頬張りながら言う。
「そうか?」
「でも優斗、あんた戦闘力はほんとに普通なんだね。さっきもコウモリに何回か斬られてたし」
日向が容赦なくツッコむ。
「うっ…まあな。俺の役目はお前たちを強化することだから」
「それ、あんたがいなかったら私達も普通以下ってことでしょ? わかったわよ、守ってあげるから安心しなさい!」
「それは心強いな」
和やかな昼食を終え、休憩が続く。
「あの、優斗さん」
灯がもじもじと切り出した。
「ちょっと、お花を摘みに…」
「あ、私も!」
日向も立ち上がる。どうやら生理現象だ。
「わかった。ここで待ってる。あまり遠くに行くなよ」
「はーい!」
二人は少し奥まった岩陰へと消えていった。
優斗は一人、残りのコーヒーを啜る。洞窟に吹く風の音だけが静かに響いていた。
――その静寂を破ったのは、鋭い悲鳴だった。
「きゃあああっ!」
灯と日向の声だ。
優斗はコーヒーを放り出し、剣を手に走り出した。岩陰を駆け抜け、二人の元へ飛び込む。
「二人とも無事か!?」
そして――固まった。
岩陰の先、少し開けた場所で、灯と日向が二人並んでしゃがみ込んでいた。正確には、下半身の装備を下ろした状態で。目の前には小型の蛇型モンスターが鎌首をもたげている。
「ひ、優斗さん、こっち見ちゃダメです!」
灯が真っ赤な顔で叫ぶ。
「見るな馬鹿! こっち向くな!」
日向も耳まで赤くして怒鳴った。しかし二人とも動けない。蛇から目を離せないのだ。
優斗は慌てて視線を逸らしたが、一瞬、見てしまったものは仕方ない。白くて柔らかそうな太股と、淡い色の布地が脳裏に焼き付いて離れない。
「火よ! 《ファイアボール》ッ!」
日向の怒りの魔力が爆発した。蛇モンスターは一瞬で炭になる。ついでに周囲の岩壁も少し溶けた。
「つ、着替えるから絶対に振り返るな!」
「わかった、悪かった!」
優斗は背を向けたまま、冷や汗を流した。
数分後、装備を整えた二人が戻ってきた。灯はまだ顔が赤いが、なぜか少し嬉しそうでもある。
「優斗さん、わざとじゃないですよね?」
「当たり前だ。すまん」
「いいですよ。優斗さんなら、その…いいです」
「灯ちゃん!?」
日向が驚愕の声を上げる。
「なに言ってんのあんた! 私はよくない! しょうがないけど次同じことしたらファイアぶつけるからね!」
「理不尽じゃないか?」
「うるさい! 乙女の恥を何だと思ってるの!」
日向は怒りで杖を振り回す。優斗は両手を上げて降参した。
探索を再開しながら、優斗は心の中で固く決意した。絶対に簡易トイレを買おう。アイテムボックスに入れられるタイプのやつだ。女子二人との探索には必須アイテムに違いない。
「優斗さん、何考えてるんですか?」
「今度、アウトドア用品店に寄ろうと思ってな」
「…まさかと思うけど今の件でしょ。気を遣わせちゃってごめんなさい」
灯が申し訳なさそうに言う。
「いや、俺が気を回せなかったのが悪い。仲間の快適さは大事だ」
「優斗ってば結構紳士なんだか変態なんだかわかんないわね」
日向が呆れたように言った。
「でも、まあ…助けてくれたことには感謝してる。ありがと」
その言葉に、優斗は小さく笑った。少しずつ、確かに絆は深まっている。
「さあ、ボス部屋までもう少しだ。気を引き締めて行くぞ」
「はい!」
「了解!」
三人の声が洞窟に響く。クラン「祝福の絆」最初のダンジョン攻略は、もうすぐ佳境を迎えようとしていた。
読んでいただきありがとうございます




