建御雷神
S級ダンジョンの入り口である漆黒の渦から出てきた12人を待っていたのは、ダンジョンを封鎖していた自衛隊の隊員たちだった。
彼らはたった2日で帰還した一行に驚きつつも、即座に車を出してくれた。
クランハウスに戻った一行を、綾乃を筆頭に残ったクランメンバーたちが出迎えた。
「もう帰ってきたの!?」
綾乃は目を丸くして驚く。無事な姿を見て安堵すると同時に、あまりにも早い帰還に戸惑いを隠せないようだった。
優斗は綾乃に事情を手短に説明し、保護した少女を空いている部屋の布団に寝かせた。
その直後、優斗のスマートフォンが鳴った。協会長からだ。
「優斗君、S級ダンジョンで少女を保護したそうだね? そして一旦帰還したと」
情報の早さに驚きながらも、優斗は事実を伝えた。
「その少女を協会で預かりたいのだが」
「いえ、それはできません」優斗は即座に断った。「彼女が何者かわからない以上、ここで見ていた方が安全です。もし敵だったとしたら、戦力が集まっているここで対処した方がいいでしょうから」
協会長は少し沈黙した後、「わかった。何かあったらすぐ連絡してくれ」と電話を切った。
リビングに戻ると、クランメンバーたちにS級ダンジョンの様子を聞かされた。
「アリの大群ですって!?」「遺跡があったの!?」
大騒ぎの中、ふと寝室から気配がした。
全員が息を呑んで見守る中、少女が目を覚ました。
「ここは……?」
きょろきょろと周囲を見回す少女に、優斗が緊張した面持ちで問いかけた。
「ニホンゴ ワカリマスカ?」
「ちょっと優斗! なにその片言!?」日向がすかさず突っ込む。
少女はキョトンとした後、普通に日本語で答えた。
「わかるよ? ここは…ニホンだよね?」
「えっ、日本語ペラペラじゃん」巴が目をパチクリさせる。
「私はカグヤ。ニホンで冒険者をしているの」
「冒険者? 探索者じゃなくて?」優斗が首を傾げる。
「探索者? 違うよ、冒険者だよ。ダンジョンでドジ踏んで、転移罠にかかってしまって…その後の記憶が無いの。」
綾乃が顎に手を当てて呟いた。
「パラレルワールドの住人かもしれないわね」
「パラレルワールド?」カグヤも首を傾げる。
話を進めるうちに、不可解な点が浮き上がってきた。
「あなたが囚われていたダンジョンは、私たちにとって最高難易度のS級ダンジョンよ」
綾乃の言葉に、カグヤは目を丸くした。
「えっ? あのダンジョン? あんなの、駆け出しを卒業した冒険者が行く中級ダンジョンだよ?」
全員の頭上に「?」が浮かぶ。最高難易度じゃないのか?
「あんなダンジョン、ドジ踏まなきゃ私のパーティで攻略出来るわよ」カグヤはケロリと言った。
「異世界のニホンジンはそんなに強いの?」凛が驚いて尋ねる。
「強いって…私のレベルは35だよ? 中堅どころだし」
「レベル?」またもや全員が首を傾げた。
綾乃が深く息を吐き、前へ出た。
「どうやら私たちは、あなたたちの世界について何も知らないみたいね。一から教えてくれる?」
カグヤは不思議そうに頷き、説明を始めた。
「冒険者になる時に、神様の神殿にある水晶に手を触れて、レベル解放を願うんだ。そしたら魔物を倒したらレベルが上がって、ステータスが上がるんだよ」
優斗はハッとして手を打った。
「なるほど! それで納得がいったよ」
「納得って?」灯が尋ねる。
「俺たちの世界のA級ダンジョンでさえ、7倍に強化したA級探索者が手も足も出なかったんだ。それを考えたら、人間がいくら鍛えても絶対攻略出来ない難易度だ。でも、レベルという概念があるなら、何千、何万と魔物を倒して底知れぬ力を得た存在なら、あのダンジョンを中級呼ばわりしてもおかしくない」
優斗の考察に、全員が納得した。
この世界の人間にはレベルがない。だから、どれほど鍛えても限界がある。だが、異世界の人々には成長の果てがないのだ。
「そのレベル解放を願う神様の神殿って、どこにあるんだ?」
優斗が身を乗り出して尋ねる。もしそれが真実なら、人類の戦力は劇的に変わる可能性がある。
カグヤは当たり前のように答えた。
「初級ダンジョンの入り口にある祠だよ。そこにある水晶に手を触れて、タケミカヅチ様にレベル解放してくださいって願えば、適性があれば解放してくれるの」
「タケミカヅチ様……?」
その名前に、美月がハッとして目を見開いた。
「建御雷神か! 日本神話に出てくる武神だ! 剣術、武力、雷を司る神じゃないか!」
「日本神話…?」カグヤが首を傾げる。「私たちの世界でも昔から伝わる神話と同じなら、やっぱりパラレルワールドなのかな」
「ああ。神話の時代までは同じ歴史を歩んでいて、そこから分岐したのかもしれないな」
優斗はそう結論付けると、すぐに行動に移った。スマートフォンを取り出し、協会長に電話をかける。
数回のコールの後、協会長が出た。
「優斗君か? 何かあったのかね?」
「協会長、お聞きしたいことがあります。初期に出現したダンジョンの入り口に、祠や水晶のようなものはありませんでしたか?」
電話の向こうで、協会長が息を呑む気配がした。
「…なぜそれを知っている? たしかに初期に出現したダンジョンの入り口には古びた祠があったそうだ。今は国の研究施設で厳重に保管され、調査されているが」
電話を切った優斗は、興奮を隠せない様子で振り返った。
「あったぞ! 初期ダンジョンに! 今は研究施設にあるそうだ!」
その言葉に、室内がどよめいた。
美月が握り拳を作り、力強く言った。
「建御雷神はこちらの日本でも信仰されている神です。私たちの世界でも、レベル解放できる可能性がある!」
「もし本当にレベル解放できるなら…」
優斗の声が震える。10倍強化された今でさえS級ダンジョンは過酷だ。だが、レベルという無限の成長可能性を手に入れられればどうなる?
「探索者の時代が変わるぞ!」
その言葉は、その場にいた全員の心に重く響いた。人類の命運を変える鍵が、今ここに現れたのかもしれない。
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