綾乃の離脱 パーティ編成
翌朝、巴のステータスを再度測定した。
「おおっ! 7倍になってる!」
日向が画面を指差して叫ぶ。昨日の5倍からさらに上昇していた。
「マスターのスキル、すげえな!」
巴は豪快に笑った。「気持ちいい事して強くなれるって最高のスキルだな!」
その時、リビングの隅で綾乃が青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「どうしたの? 綾乃」優斗が心配そうに声をかける。
「あのね…あれが来ないの」
「え?」
「生理が…遅れてるの。それで病院に行ってきたんだけど…」
綾乃は震える手で診断書を差し出した。そこにははっきりと『妊娠』の二文字が書かれていた。
「えっ…」優斗は言葉を失う。
「ごめんなさい。これじゃあ、探索にはついて行けないわ…」綾乃が目を伏せる。
「綾乃…」
優斗は彼女の手を強く握りしめた。そして、真剣な眼差しで言った。
「帰ったら結婚しよう」
「優斗…」綾乃の瞳から涙がこぼれる。
「おめでとう!」「よかったね!」
クランメンバーたちから歓声と拍手が上がり、二人を祝福した。
「第一夫人になるけど、独り占めする気はないわ」
綾乃は涙を拭い、みんなに微笑みかけた。「みんなと支え合っていきましょう」
「そうだ! 綾乃ちゃんのステータスも測ってみようよ!」
日向が提案し、早速測定を行った。
「10倍…」
沙織が息を呑む。A級ダンジョン探索前まで7倍だった綾乃のステータスが、さらに跳ね上がっていたのだ。
「妊娠したからなのか、それとも…中に出したからなのか…」優斗が呟く。
「検証が必要ね」凛が言う。「でも、これ以上妊娠する人が増えたら、戦力不足になっちゃうわ」
探索者として活動できなくなるメンバーが増えるのは致命的だ。皆が困り顔になる。
「ピル飲んだらいいじゃねえか」
巴が唐突に言った。
「ピル?」
「ああ。避妊薬だ。それ飲めば妊娠せずに済むだろ?」
巴の言葉に、全員が「そうか!」と手を叩いた。
「じゃあ、次は誰が?」静香が尋ねる。
その時、灯がおずおずと手を挙げた。
「あの…私がやりたいです…」
彼女の顔は真っ赤だったが、瞳は決意に満ちていた。「綾乃さんに続きたいんです。それに、10倍になればもっとみんなの役に立てますから」
「灯…」優斗は彼女の覚悟に胸を打たれた。「わかった。頼む」
その夜、優斗と灯の甘い夜が過ごされた。灯は優斗に抱かれながら、彼への想いを確かめ合う。
翌朝。灯のステータスを測定した。
「10倍です!」沙織が興奮した声を上げる。
灯は恥ずかしそうにしながらも、誇らしげに微笑んだ。
「これで最強の戦力が整うわね」綾乃が言う。
「ああ。S級ダンジョン攻略も夢じゃないぞ」優斗も力強く頷いた。
綾乃は美月を自室に呼んだ。二人は緊張した面持ちで座っている。
「今日は単刀直入に話すわ」
綾乃はそう切り出すと、A級ダンジョンのボス戦の録画映像を再生した。画面の中で、かつて人だったボスと激闘を繰り広げる綾乃たちの姿が映し出される。
「これがA級ボスよ。そして、これが7倍強化された私たち」
画面の中の綾乃が苦戦し、仲間たちが傷ついていく。
「A級ダンジョンのボスにすら7倍じゃ歯が立たなかった。これが現実よ」
綾乃は映像を止め、二人に向き直った。
「S級ダンジョンはもっと過酷だわ。10倍にまで上げられないなら、あなたたちは着いて来ない方がいい」
「綾乃さん…」美月が息を呑む。
綾乃は続けた。
「クランメンバーで優斗を拒む者はいない。あなたたちが迷うなら、私たちの方から彼の元へ出すわ」
「そ、それは…」美月が俯く。
「でもね、美月ちゃん」
綾乃は美月に近づき、彼女の手を握った。
「あなたは私と同じ実力を持つ剣士。もしあなたが10倍になってくれたら、これほど頼もしいことはない。私はもう前線には立てない。だから…」
綾乃は深く頭を下げた。
「私の大事な人を、どうか守ってほしい」
「綾乃さん…」美月はしばらく考え込み、やがて顔を上げた。
「わかりました。私、やります」
「ありがとう」綾乃は涙を浮かべて微笑んだ。
クランハウスの広い庭。日向が雪乃を連れ出していた。
「雪乃ちゃん、ちょっと見てて、ここで魔法を使うから」
「え? ここでですか?」
雪乃は戸惑いながらも、日向の指示に従う。日向にはあらかじめ優斗から《祝福の絆》がかけてあった。
「いくよ…《ファイアボール》」
日向が初級魔法の詠唱を完了した瞬間、彼女の掌から想像を絶する火球が飛び出した。
ドォォォォン!!
轟音と共に庭の先にあった岩の的が一瞬で溶解した。凄まじい熱気が周囲を包み込み、雪乃自身もその威力に驚愕して後ずさる。
「こ、こんな…初級魔法で?」
「すごいでしょ?」日向が熱気に顔を向けながら笑う。「あなたも魔法使いならわかるはず。自分の魔法で殲滅する気持ちよさが」
雪乃の瞳が揺れる。魔法使いとして、自らの魔法の威力に魅了されない者はいない。
「2倍のままじゃ、S級ダンジョンじゃ役にも立たない。でも、10倍まで上げたら、あなたもこんなすごい魔法が打ち放題で使えるようになるのよ」
日向が雪乃の肩を抱き、耳元で囁く。
「それに、優斗は優しいし…気持ちよくしてくれるわ」
雪乃の顔が紅潮する。彼女は燃え残りの岩を見つめ、やがて決心したように頷いた。
「わかりました…優斗さんと…させてください」
「いい返事ね」日向がウィンクする。
こうして、美月、雪乃の2人もまた、10倍強化のために優斗と契りを結ぶことに
その夜、2人は優斗の部屋に行き、優しくされ、世界が変わっていった
攻略メンバーが全員10倍まで上げることが出来て、準備が整っていく
翌朝、全員のステータスを測定すると、見事に10倍の数値が並んだ。いよいよS級ダンジョン攻略の準備が整った。
「パーティ編成を発表する」
優斗がホワイトボードに陣形を書き出す。
「前衛アタッカーは巴、美月、凛の3人。タンクは静香。中衛で状況に合わせて攻撃と援護に回るのが翠。後衛火力と回復は日向、雪乃、灯、美鈴。スカウトは沙織。俺は後方で指揮を執る。そして、後衛の護衛に藍が付く」
「了解!」全員が力強く頷いた。
編成が決まり、クランハウスは出発準備で慌ただしくなった。
キッチンではメンバーたちが次々と料理を作り、出来上がったそばから優斗がアイテムボックスに放り込んでいく。
キャンピングカーをもう一台購入。2台体制での長期戦に備えた。
また、力が強くなったことで武器が壊れる可能性も高まったため、予備の武器や防具も山ほどストックした。
出発前夜、綾乃が凛を自室に呼んだ。
「凛ちゃん、これを」
彼女が差し出したのは、白鞘に収められた日本刀だった。綾乃が愛用していた業物である。
「えっ、綾乃さん? これじゃないと…」
「私はもう前線には立てないから。だから、私の代わりに優斗を守って」
綾乃の瞳には真剣な光が宿っていた。凛は刀を震える手で受け取ると、強く握りしめた。
「うん…! 絶対に守ってみせる! 綾乃さんの代わりに、優斗さんを守り抜く!」
「頼んだわよ」綾乃が微笑む。
S級ダンジョン入り口
ダンジョンの前には、大勢の人だかりができていた。
先頭に立つのは、お腹に手を当てた綾乃だ。彼女の後ろには、「祝福の絆」のクランメンバーたちがずらりと並んでいる。そして、その横には鬼塚剛蔵が仁王立ちしていた。熊のような巨体は、彼女たち以上に場の空気を圧迫している。
「行ってきます」
優斗が綾乃の前に立つ。
「うん…気をつけて」綾乃は優斗の手を握りしめた。「絶対に、全員で帰ってきてね」
「ああ、約束する」
綾乃は凛の前に進み出た。凛は腰に綾乃から託された日本刀を差している。
「凛ちゃん」
「はい!」
「頼んだわよ」
「任せてください! 綾乃さんの代わりに、優斗さんを守り抜いてみせます!」
凛の目には揺るぎない決意が宿っていた。
巴が父の剛蔵の前に立つ。
「親父」
「おう」剛蔵は短く答える。
「行ってくるぜ」
「ああ。死ぬなよ」
言葉は短いが、その中には深い信頼と愛情が込められていた。巴はニカッと笑い、親指を立てた。
美月と雪乃も、クランメンバーたちに頭を下げた。
「お二人も、どうか無事で」
「私たちがついてますから!」
メンバーたちから次々と激励の言葉がかけられる。
「行こう」
優斗が前を向く。彼の背中には、仲間たちの命と未来がかかっている。
「おうっ!」
12人の声が重なる。
優斗を先頭に、藍、凛、巴、美月、静香、翠、日向、雪乃、灯、美鈴、沙織の12人が、漆黒の渦へと足を踏み入れた。
背後から聞こえる綾乃たちの声援を背に、彼らは未踏の領域へと消えていった。
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