凱旋
綾乃のA級ダンジョンからの帰り道は、静香の背中の上だった。
「ごめんね、静香…」
綾乃は申し訳なさそうに呟く。ボス戦で《祝福の絆・改》を発動した代償は大きく、彼女は激しい筋肉痛で一歩も歩けなくなっていた。
「いいのよ。綾乃なんて羽みたいなものよ」
静香は軽々と綾乃を背負い、先頭を歩く優斗たちの後を追う。
「スーパー綾乃の代償はデカかったわね…」日向が苦笑する。
ダンジョンの入り口が見えてきた。そこには、大勢の人だかりがあった。
「あっ、帰ってきた!」
誰かが叫ぶと、歓声が上がった。
クラン「祝福の絆」のメンバーたちが勢揃いして待っていたのだ。
「おかえりなさい!」「みんな無事だった!」
手を上げて凱旋する10人。残っていたテレビカメラがその様子を捉えていた。
レポーターが駆け寄ってくるが、綾乃が代わりに答えた。「インタビューはまた後日お願いします! みんな疲れてるから」
彼女らはクランハウスへと急いだ。
クランハウスに戻った10人は、シャワーを浴びてさっぱりした後、リビングでゆっくりとしていた。
すると、残してきたメンバーたちから「A級ダンジョンの録画データを見せて!」と頼まれたのだ。
優斗はカメラのデータを取り出し、大型スクリーンに写した。
映像が流れ始めると、部屋は興奮に包まれた。
「うわっ、あのスライムでかっ!」「この湿地帯ヤバそう…」
モンスターとの戦いや過酷な地形を見ながら、みんなが感想を言い合う。
だが、映像が2日目の探索に移った時、悲鳴が上がった。
「きゃっ! 優斗さんが倒れた!」
優斗が突然崩れ落ちるシーンで、若いメンバーたちは目を覆った。
「大丈夫だよ、その後静香におんぶしてもらったから」優斗が苦笑いして説明する。
そして、いよいよボス戦の映像になった。
画面の中で、かつて人だったモンスターと戦う少女たちの姿が映し出される。
「速い…」「強すぎる…」
圧倒的な強さを見せられ、全員が唖然としていた。
しかし、戦況が悪化し、優斗が叫ぶシーンになった。
『綾乃! こっちに来てくれ!』
画面の中の綾乃が岩陰へ駆け寄る。
すると、筋肉痛で寝ていた綾乃が「待って待って待って!」と叫んだ。
「え? なんで?」凛が首を傾げる。
画面の中で、優斗と綾乃が重なり合う影が映し出される。
音声もバッチリ拾っていた。
『綾乃の中に俺のを出したら、もっと強くなれると思う』
『わかったわ。5分よ』
「ひゃああああ!!」
綾乃が顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
「ちょっ! 優斗! そのシーン飛ばしてよ!」
「えっ? あっ…!」
優斗も慌てて操作しようとしたが、映像は止まらず、二人が合体している所までバッチリ撮れていた。
「うわぁ…」「こ、これは…」
若い子たちは両手で目を覆いながら、指の隙間から凝視している
部屋中が沈黙し、そして爆笑に包まれた。
「あははは! 公開する時は編集で消しますね!」沙織が腹を抱えて笑う。
「私たちが命懸けで作った5分で、こんないいことしてたのかー!」静香が目を涙で潤しながら揶揄う。
「さすがマスターと副マスターだね!」凛もニヤニヤする。
綾乃は顔を両手で覆い、「ううぅぅ…」とうめくしかなかった。
しかし、みんなの心の中では深い感謝があった。あの5分間がなければ、全員死んでいたかもしれないのだから。
「まあ、これでA級ダンジョン攻略は完了だ」
優斗が映像を止め、改めて宣言した。
「これからも、《祝福の絆》は最強のクランとして進んでいくぞ!」
「おーーうっ!」
全員の声が重なり、クランハウスは歓喜と笑い声に包まれたのであった。
A級ダンジョン攻略の影響は絶大だった。数日後、優斗たちは再びテレビのインタビューを受けることになった。
「見事な攻略、おめでとうございます! どのようにして未踏の地を攻略できたのでしょうか?」
リポーターのマイクを向けられ、優斗は緊張でガチガチになりながら答えた。
「えっと、その……仲間と力を合わせて成し遂げました」
無難すぎる、あまりにも無難すぎる回答に、リポーターも苦笑いするしかなかった。
インタビュー終了後、クランハウスにて。
「優斗の答え、面白くなさすぎ!」日向が大爆笑する。
「せっかくの全国放送なんだから、もっと気の利いたこと言えないの?」綾乃も呆れ顔だ。
「いや、マジで頭が真っ白になってさ…」優斗はシュンと肩を落とすしかなかった。
しかし、その放送効果は絶大だった。クラン「祝福の絆」には、加入申請が殺到したのだ。
「うわっ、すごい量…」沙織が書類の山に圧倒される。
中には男性探索者の申請書も混じっていたが、綾乃は迷わずそれらを別の山に分けた。
「男子はごめんなさいね」
その中に、一人の女性が直接クランハウスを訪ねてきた。
「あの、優斗さんですか?」
「はい?」
「私、以前あなたにパーティに誘われたことがあるんです。でも、あの時は冷たく断ってしまって…」
彼女は深く頭を下げた。「今からでも、入れていただけませんか?」
優斗は驚きつつも、「もちろん、歓迎するよ」と笑顔で答えた。
その後、綾乃、静香、灯、日向の4人で書類選考が行われた。基準はただ一つ、「女性であること」。書類選考を通過した女性のみ面接が行われた。
面接の中で、彼女たちの多くが過去のひどい境遇を語った。パワハラ、セクハラ、リーダーの横暴…。探索者の世界は、まだ女性にとって過酷だった。
優斗は彼女たちの話を聞き、即座に決断した。
「ひどい境遇の女性は、すべて入れていいか?」
「ええ、もちろんよ」綾乃も頷く。「私たちはそんな彼女たちを救うために、クランを大きくしたんだから」
こうして、新たに50人の女性メンバーが加入することになった。
「祝福の絆」は一気に最大クランとなり、その規模と実力は他の追随を許さないものとなった。
最大クランとなった今、女性メンバーにちょっかいを出す男性探索者はいなくなり、平和な日々が訪れた。
探索のやり方も変わった。150人を半分に分け、探索に行くパーティと、ハウスに残り食事の準備や掃除、アイテム整理を行うパーティを交代で務めることにしたのだ。
《祝福の絆》の効果で、彼女たちは実力以上のダンジョンに潛ることができ、半分の稼働でもその稼ぎはかなり大きかった。金銭的に余裕ができ、ハウスの設備も充実していく。
そんな平和な時間を過ごしていた優斗の元に、1本の電話が鳴った。協会からだ。
「もしもし?」
『クランマスターの白夜優斗様でしょうか? 緊急の連絡があります』
受付の緊張した声が響く。
『新たにS級ダンジョンが出現しました。場所は都心部です。至急、協会へ来てください』
優斗は電話を握りしめた。S級ダンジョン。それはA級よりもさらに凶悪な、人類の脅威だ。
「みんな! 緊急事態だ!」
優斗が叫ぶと、リビングにいたメンバーたちが一斉に振り向いた。
平和は終わった。新たな戦いが始まる。
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