解決へ
犯人を知っていて、これからも被害に遭う人がいるというのに我関せずと放置するのは逢坂の性には合ってない。
事の発端はそれだ。
興味本位で怪盗エスの正体も天知ならと訊きに行き、本当にわかってしまったからお前のやっていることはお見通しだと告げに行った。すると怪盗エスことミステリー部は待ってましたと言わんばかりに舞い上がり、名探偵を現実で見たかっただけだから盗みはやめると約束してくれた。しかし実際には模倣犯が現れ、その罪まで着せられることを危ぶんだ佐川から天知への相談があり、天知は部活の活動の一環として引き受けた。
模倣犯の正体は天知がたちどころに見抜いてしまったのだが、なにせ証拠がない。ならばその決定的瞬間を捕らえようと逢坂たちは奔走していた。
その結末は、毒殺未遂に終わった。
模倣犯である野原の本懐はこれで遂げられただろう。アヤが無事だったことを考えるとそうでもないのかもしれないが、とにかく怪盗エスを演じる目的はこれで終わっただろう。
あとは上手い具合に天知と話を合わせ、無事に解決したと佐川に伝えるだけ。もう怪盗エスの犯行は行われない。
水筒の中に花菖蒲もなければ毒も感じられないとわかった逢坂は屋上をあとにした。野原とアヤをふたりで残す形になったが、今頃は喧嘩でもしているだろうか。言い合い殴り合い、逢坂はそこまで止めるつもりはなかった。むしろするべきだろうと考え、邪魔者の逢坂は退散したのだ。
友達に戻るか戻らないかはふたりが決めることで、その前には儀式が必要だ。言い合って殴り合って罵り合って、本音をぶつけ合うべきだ。それをしなくては友達に戻れないし、それをしないで友達に戻らないという選択は、禍根を残すだけとなる。
逢坂と柚奈のことだ。
とにかく、逢坂がいまこうして、柚奈と一緒に肩を並べて体育館で『ロミオとジュリエット』を観ていられるのは、あの時、天知と天理が速やかに退散してくれたからでもある。
何でもかんでも手を出せば良いというわけでもないということを逢坂は学び、そして実践した。
「……けっきょく、どういうことだったんだろう」
「……たぶん、どっちも目的は同じで、どっちも方法は同じで、……単なる勘違い?」
天知は一日目二日目三日目と同じ公演はしないと言っていた。たしかに一日目の逢坂が観た『ロミオとジュリエット』と、三日目の今日観た『ロミオとジュリエット』はまったくの別物だった。
なぜかロミオとジュリエットが政権争いをしているのだ。ふたりは政敵のようにお互いを認識していて、どちらが国家を主導していくか、それぞれの観点から言い分をぶつけていく。ふたりは徹頭徹尾、言葉で論じていくのだが、身内が暴走する。ティボルトとマキューシオが剣で激突するのだ。そしてその戦いを止めようと間に入ったジュリエットを、ロミオが身を挺し庇う。
『なぜ』
と尋ねるジュリエットに、
『好きだから』
と答えるロミオ。
けっきょくのところ、ふたりの政権争いはふたり共が、自分たちが結ばれるために現状を変えていくためにやっていたことなのだと判明する。
政敵などではなく、すれ違いの勘違いの両片思いだったのだと判明する。
コメディ色の強いラブコメだったというオチだ。
公演が終わると、案の定天知は人集りに囲まれ、それをロミオを始めとしたクラスメイトがSPよろしくガードする。
体育館に逢坂がいることからもわかるし、三秒の隙ぐらいあっただろうから天知は独りでに知ってしまっているかもしれないが、事の次第を伝えようと思っていた。しかしこの分では無理か。
人集りから一歩、二歩、……十歩以上離れてついていく。すると、天知はいた。たったいま人集りが通り過ぎていき、人集りは今尚遠のいていくというのに、天知は、いた。
「天知さんがふたり?」
「失礼ですね。こっちが本物ですよ」
まだジュリエットの装いをしている。人目が気になる。皆が見ている。
「私にボディガードは無理」
「集るほどの人はもう行ってるから」
「なるほど」
いまは遠巻きに見る人しか残されていない、と。
華々しく煌びやかなプリンセスラインが特徴的なドレス。ほかにお姫様はいないだろうと思わせられる天知しろあ。近寄りがたさがあるかもしれない。逢坂も、できれば着替えてほしいぐらいだ。
「体育館に来てたってことは、終わったんだよね?」
「わからない。でも、そうだと思った。野原先輩、毒殺しようとしてたみたいだから。もしも成功してたら、怪盗どころじゃないでしょ?」
「へえ? 毒殺」
「というか、自分で知れば?」
「疲れたジュリエットの身体をさらに働かせるなんて」
「たしかに。けっこう派手な動きが多かったね」
一日目のジュリエットは活発で自由奔放でお転婆娘な天知しろあを封印されていたが、三日目の今日は、剣で戦うふたりの男の間に入るぐらい、活動的だった。
とはいえ、逢坂も疲れていないわけではない。肉体的に、というより、精神的に疲れた。気苦労した、というやつだ。
「まあ、話すけど、私の知ってることはすくないから。あとでちゃんと知ってね?」
「うん」
ということで、逢坂は説明した。
かくかくしかじか、こーであーで。
「ふむふむ」
あれこれどのその、云々かんぬん。
「ふむふむ」
なんやかんや。
「なるほどね」
「大丈夫そう?」
「まあなんとなくは。足りないところは補うとして。そんな感じなら、野原さんも認めるから簡単に終わりそう」
「だろうね。野原先輩は失敗に終わった。下手な悪足掻きも、もうしなそう」
「よし、佐川さんのところに行こう」
「いまから? その格好で?」
「さっさと終わらせたいの」
「……わかった」
言っても聞かないだろうと、逢坂は渋々とついていく。




