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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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タイムリミット


 12時になった。


 文化祭は後夜祭も含めてまだまだ時間があるが、天知は14時から出番があり16時に終わる。二時間の拘束があるのだ。準備の時間もある。事実上、タイムリミットだ。


「にしても、野原先輩はスマートだ」

「そうだね。あれだけの衆人環視がいたっていうのに、犯行は10分とかかってない。まあ、今回に関しては何も盗まないでふつうに買い物してちょっと落とし物と忘れ物をしただけっていうのもあるけど」

「漫研での犯行は阻止できなかった。……盗まれてないからこれでいいはずなんだけど、現行犯逮捕はできなかったから私たちとしては目的を達成してない」


 天知は全てを知っている。つまり彼女の見てきた、知ってきたことが揺るぎない事実で厳然たる正解。誰も彼女に嘘はつけない。しかし、逢坂や天理は信じ、個人としては崇めようと、人間社会は天知しろあを正解とはしない。

 だから天知は苦労しながらも物的証拠、決定的瞬間を捕まえ、言い逃れができないよう逃げ道を潰す。

 その観点で言うと、失敗だ。何も盗まなかった犯人は犯人にならない。


「でも、天使で『し』で終わってるから、次は『し』で始まるコメントを出しているところってことになる。模倣犯はちょっとメッセージを変えてるみたいだけど、ノートブックの『く』から始まる漫研ってのは変わってないから、ここも変わってないはずだよね」

「だと思う」


 天知からの同意も得られ、逢坂はパンフレットをめくる。


「なら、ひとつだけだ。『し』から始まるコメントはふたつあるけど、ひとつはティベード部ですでに被害に遭ってる。もうひとつは、剣道部。主将で始まってる」


 天知からの異論もなさそうだ。


「野原さんはいまからフリー。いつ犯行に及ぶかはわからない。監視するべきだろうね」


 なら、と逢坂は提案する。


「じゃあ、天知さんは戻って」

「え?」

「もう12時を過ぎてる。準備しないと」

「13時まで平気だよ」

「それは無理をすればって話でしょ。クラスメイトも困ってるだろうし、天知さんのジュリエットを楽しみにしてる人は多い。それとも、ステージの上でお腹の音をみんなに聞かせるの?」


 想像したのか、お腹を抑えて頬を赤らめる。さすがにそれを恥ずかしがるぐらいの感性はあるらしい。


「天知さんが言ったように、野原先輩はいつ犯行に及ぶかわからない。あと一時間で犯行に及ぶかな? 私はそうは思わないけど」


 それに、実際には一時間後では遅い。現行犯逮捕してから天知は理路整然と野原に推理を披露しなければならない。彼女に観念させないといけない。そしてミステリー部に連行して佐川にことの次第を説明しなくてはならない。それらを考慮すると、一時間後では遅いのだ。

 いまの、漫画研究会で失敗に終わった時点で、引き際だ。


「あ、天知さん! いた!」


 ジャージ姿はいつか見た顔で、その呼びかける声も構図もいつか見た姿で、天知を呼びに来たのは例に漏れずロミオ役の彼だった。


「そろそろ準備に入りたいんだけど……」


 遠慮がちに、逢坂をうかがうロミオ。

 逢坂と天知は目を合わせる。やがて、にこりと微笑んだ。それはみんなが知る天知しろあだ。


「では、逢坂さん。お願いします」

「うん。頑張ってね」

「はい」


 恭しくぺこりと頭を下げて見送る。

 よし頑張るぞと両の拳を握って、


「あ!」


 思い出す。


「天知さん! いまどこにいるのかだけ教えて!」


 野原を監視するとは言ったが、天知がいなければまず探し出すところから始まることになってしまう。一度二度顔を見ただけで碌に言葉も交わしていない先輩を、この群衆から見つけるのは容易ではない。絶対に見逃す。


「屋上です!」


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