迷探偵にもわかること
現段階、新聞部やラジオ部によって知らされている怪盗エスの犯行は、園芸部で終わっている。盗まれた物は菖蒲。花だ。
しょうぶ。つまり、世間一般からすると、次の犯行は『ぶ』から始まるコメントを出した場所ということになる。野次馬や探偵志望の方々は、漫画研究会には向かわないで、ミステリー部に向かうことになる。
天知はすっかり、自分の知っていることと世間が知っていることを混同していたようだ。その齟齬に頭を悩ませるようにする。逢坂は言った。
「言ったほうがいいんじゃないですか?」
天知が言ったならその意図を訊こうと耳を傾けただろうか。佐川はぐっと不信感を強めた。
「でも、それだと僕らに非難が」
まだ非難されることを気にしているのか、と思う反面、逢坂がへっぽこ迷探偵でなければこうもならなかったのではないか、と思う。
「べつに全部言う必要はないと思います。ノートが消えたこととあのメッセージカードのことだけを言うんです。ほかの被害者と変わらない、ミステリー部も怪盗エスにやられたひとりなんだって」
「あくまで被害者というスタンスを貫くのか。……でも、法則がバレたんだし、美術部の前を考えてミステリー部に辿り着いたら、……それこそ、一巻の終わりだ」
「申し訳ないですけど、佐川先輩。それはないと思いますよ」
「え……?」
苛立ち半分、同情半分の顔をする。
「美術部の前から、という推測でミステリー部に辿り着くには、野田文雄という名前を知っていないといけません。ミステリー部の皆さんにとっては、部長の名前が野田文雄というのは当たり前なのかもしれないですけど、私は知らなかったですし、一年生のほとんどが知らないと思いますよ。これはちょっと、公平とは言いにくいです」
「でも天知さんは」
その天知は硬直している。
逢坂は時間稼ぎのつもりで、天知の助け船を待っている状態だったのだが、出航する気配はなさそうだ。
「天知さんは例外ですよ。それもかなりの。特例です。じゃあ佐川先輩は、全校生徒の名前と顔を、どこの部に所属していて誰が部長を担っているかとか、知ってます?」
煽るようにならないように、丁寧な口調にすることは心がける。その甲斐あってか、佐川は返す言葉もないと息を飲むが、激昂することもなかった。
「その野田文雄という人が天知さんみたいにめちゃくちゃイケメンとかめちゃくちゃ美女とか、とんでもない金持ち、とんでもない天才とかでうわさがひっきりなしとかならわかりますけど……違いますよね?」
名前からして男だろうとは思うものの、それも確実ではない。イケメンと美女を使ってしまう。それぐらいの認識なのだ。
怪盗エスのしりとりという法則性に気付き、それをミステリー部と繋げるには二年三組を訪れてあの事件を解決しなくてはならない。それで初めて部長の名前を知り、美術部の前の被害と繋がるのではないか……? と、一考の余地が生まれる。
逢坂が迷探偵であることを考慮しても、乗り越えるハードルが多すぎる。
「さっき天知さんが言ったように、無料の衆人環視という監視カメラが殺到してからじゃ遅いですよ。いつ、どうやって。言い訳の余地も立たない。ほかの盗品やメッセージカードが見つかる可能性も出てくる」
彼らカメラは、文字通り監視の目をするだろう。後ろの棚は本来気付かれないし、二年三組の生徒も無闇に触れないが、あそこには戸があるわけでもないのだ。机と椅子に隠れているとはいえ、屈んでその隙間を縫えば怪しいと思われる。盗品のひとつひとつは言い逃れができるが、それらすべてが一堂に会している状況は、疑わずにはいられない。
それで犯行声明であり予告でもあるメッセージカードを、白紙のメッセージカードが出てこようものなら、黒認定だ。
逢坂だけの言い分ではやはり信用が薄かったのか、最後に天知の言葉を持ってくるのは大きかった。佐川は悩んでいる様子だったが、
「園芸部の菖蒲。ぶから始まるのは?」
「ってことは次はミステリー部? 行ってみっか」
という会話が真横を通っていったのも相まって、腹を決めたようだ。
「そうする」
そして、
「僕らがオリジナルだってことも、いまが模倣犯だってことも、ミステリー部で検討してみる」




