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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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とんでもないことにしよう


 朝の出欠確認を済ませ、オープニングセレモニーもそこそこに、逢坂は体育館をあとにした。その足で迷わず一年一組を訪問する。

 扉をノックすると一組の女子がはい? と顔を覗かせる。教室には台本に目を落とす数人がいた。その中には天知もいて、彼女はロミオ役の彼と読み合わせをしている様子だった。

 大勢の視線に息が詰まる思いをするも、天知がすっと立ち上がってくれたので助かった。先に話は通していたのか、すみませんと軽く謝る。ロミオも気にしないでと手をあげて見送りの代わりにした。


「行きましょう」


 頷く。

 ところが、


「……どうしたの?」


 きょろきょろと辺りを見渡す天知に訊くと、眉を寄せて声を潜めてこう言った。


「かいくんは?」

「ああ……」


 これから言う言葉で天知を落胆、呆れ、失望とまあその辺の思いをさせるのだろうと思うが、それは天理当人から寸刻前に逢坂も味わわされた思いだ。

 逢坂に非はないし、天知と同じ気持ちなので、最大限非難がましく、言ってやる。


「店番してる」

「みせばん??」

「そう店番」

「なんで。かいくんの仕事は看板製作でしょ?」

「本当にそう。まったくそう。全面的にそう。でも、こうなった」


 これに関しては、逢坂よりも付き合いの長い天知のほうが理解が早いだろう。


「頼まれたんだ」


 頷く。


「かいくんも部員なのに。これは部活動なのに。先約を無視したんだ。わたしたちよりもあとの頼みを優先したんだ!」


 逢坂たちよりも優先したというより、佐川たちミステリー部の相談よりも、というのが正しいだろうけど、天理への不満がそれを覆ってしまう。


 頷く。それはもう首が取れそうなほど頷いてやった。


「曰く、『逢坂が一緒なら平気だろ?』……だって」

「まるでわたしひとりじゃダメかのような言い方!」

「私がいれば平気っていうのも過信だけどね」

「過信? ズルいね」

「なんで?」


 まあ、これも逢坂が一緒というよりも、ふたりいれば人手は足りているという意味での平気、だろう。


「ちょっとだけ寄っていこう」

「え」

「本当はもしかしたら女の子といちゃいちゃしているかもしれない」

「それはよくない」


 こっちは人の相談を受けて部活動をしているというのに、ひとりだけ遊び呆けているのは到底許せない。

 逢坂は天知と共に一年三組に赴く。




「びえぇぇぇえええん!!」


 泣いていた。

 それはもう泣いていた。


「おーよしよし。怖かったな、ごめんな」


 あやしていた。

 それはもうあやしていた。


「お兄ちゃんこれなんて読むの」

「ん? 古江琉重。るえって読むの」

「変な名前だねー」

「だねー」


 おばけ屋敷前は託児所に近しい。


「何してるの」


 天知が見てるだけで気疲れした様子で言う。


「見ればわかるだろ。店番」


 店番。

 店番は店の番をするものだろう。

 なぜ、おばけ屋敷前で子どもを三人も抱えている。ひとりは泣きじゃくって抱きついていて、ひとりは大人しく天理の膝の上に収まって机の上の用紙を覗き込んでいて、もうひとりは天理の前髪を力一杯に引っ張っている。


 仕方ないな、とペンを置く天理。それをするのはどちらかというと逢坂たちだろうに。


「中でお菊役の佐々木。その家族が来てるんだ。この三人はどれも弟妹」


 言われると三人は似ている気がしないでもない。その佐々木の顔はイマイチピンと来ないが。


「入りたい人と入りたくない人で意見が別れて、この、学くんは入ったんだけど、すぐに出てきてこの有様」


 ほかのふたりは入りたくない側だったらしい。そして入りたいと言った学くんは、いざ入れば怖くて泣き止まないということか。


「いまはお母さんがひとりで回ってる」

「それまでの託児所ってことか」

「まあ、そうなる」


 これは無理やり剥がそうとは思わない。


「はーいわたあめ持って来たよー」


 とは早瀬の声。店番にいなかったと思っていたが、どうやら買い出しに行っていたらしい。

 学くんはそれですこし、落ち着く。


「じゃあこれはなんて読むの」

「んー? 野田文雄。ふみお、だ」

「変な名前だねー」

「だねー」


 それに関してはけっこうふつうだろう。


「……行こっか」

「うん」


 意外と天知は大人しい。年齢性別関係なく、天理に近しい人には敵意剥き出しかと思ったが。さすがの天知も年端もいかぬ子ども相手には敵意も嫉妬もないということか。


「膝の上に座ってる子、女の子だったけど」

「だね」

「いいんだ」

「うん。いいんだよ」

「ちょっと大人になった?」


 眉を吊り上げ、


「わたしをどう思っているか知らないけど、あのぐらいの年齢を相手にはしないよ。かいくんも、あの子も、どちらにも恋愛感情はない」

「あったら困るけど」


 事案だ。


「それに、これで落ち度ができたからね」

「落ち度?」

「うん」


 あんまりよろしくない不気味な笑みを引っ提げている。


「かいくんは部活の活動を放棄したんだ。わたしたちだけに仕事を押し付けた。これはいけない。かいくんも引け目がある。これを前面に押し出して、絶対服従の刑に処す。文化祭の振替休日はとんでもないことにするよ」

「ぜんぜん大人じゃなかった」


 しかも、とんでもないことになるのではなくするとは。


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