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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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律儀で誠実な盗人


 翌日。


「さぶっ」


 秋本番を通り越して冬ではないかと思うほどの風に吹き付けられる。逢坂は未だ開かない生徒玄関前で両腕を擦った。


 スマホで確認する。時刻は、もうそろそろ七時を指す。

 ほかにも生徒は何人かいた。彼らは文化祭の前準備のために来ているのだろう。逢坂とはちょっと事情が違いそうだ。

 朝練でもしに来たかのような早い時間に登校するのは初めてのことで、寒さと眠気でぼんやりとしながら愚痴った。


「いないみたいだけど」


 ほかの生徒とちょっと違う事情でこの時間に訪れた逢坂は、その事情がまったくの無意味だったことに苛立ちを覚えないでもなかった。


「みたいだな」


 その他人行儀の言い方にも、苛立ちを覚えないでもない。


「天理くんが呼び出したんでしょ!?」


 怒りで叫んだものの、そこまで大きな声は出なかった。


「発案者は俺じゃないから」


 と、天理はとなりで身体を支える天知を示す。

 天知は逢坂よりも眠気を感じているようで、うつらうつらとしている。天知は逢坂よりも寒気を感じているようで、赤い鼻から水を垂らしている。

 夢の中にいる天知は必死に、弱々しく反論した。


「べつに、わたしは逢坂さんは呼んでませんけどね……」


 つまり、天知と天理のふたりでことに当たろうとしていたというわけだ。


「仲間外れ。それはそれで、いい気はしないけど」

「だから呼んだんだろ?」

「というかなんでまだ、連絡先を持ってるの……浮気?」


 夢の中でも思考回路は同じらしい。


「ふつうに友達の連絡先ぐらい持ってるだろ。それに、しろあはこの件、部活として引き受けたんだろ? なら、逢坂とも一緒に動くべきじゃないか?」


 逢坂は天知とは単なる部活仲間だが、天理とはそれと同時に友達でもあるらしい。


「犯行の阻止という建前のもと、朝の学校でいちゃいちゃする算段が……」

「本音が漏れてるよ」

「はっ!」


 ずびっと水が鼻に戻っていった。

 まともに意思疎通は取れなさそうな天知は諦め、逢坂は天理に向き直る。


「つまり、朝っぱらからの張り込みは、人がすくないという絶好の機会での犯行を阻止するためのものだったってわけね?」

「そういうことだな」


 天理と天知でどんな会話が成されたのかは逢坂の知るところではないが、昨日の夜に突然、七時前に学校でと言われたのだ。理由は張り込みとだけ言われた。やり取りしている時間も惜しく、逢坂は朝に備えて布団に入り、いまに至る。


「まあ、ほぼほぼあり得ないとしろあは踏んでたらしいけど」

「なんで?」


 実際その通り、野原らしき姿はどこにもない。


「怪盗エスの模倣犯で、怪盗エスに罪を着せたいなら、怪盗エスのルールは踏襲しないといけない。一日目二日目と、すでに盗んでいた、なんてことはしてないからな。文化祭中に彼らは盗んでいる」

「なんていうか、律儀」


 怪盗エスこと佐川は、盗まれても問題にならないような、気付かれないものを盗んでいる、失敬しているらしい。ならば犯行声明を残せばいま正に盗まれたかのように演出できるが、そうしなかったらしい。


「佐川先輩たちは名探偵が見たかったんだ。なら、フェアにする。ルールの中で犯行を行う。ミステリー好きなら、そこら辺もしっかりするだろう」

「なるほどね」


 オリジナルの怪盗エスはただの愉快犯でもなければ義賊的な立ち位置でもない。名探偵が見たい。言うなれば、罪を暴いてほしいのだ。ならば、律儀なのもそうなのか。


「じゃあ、誠実なのか」

「たしかに」

「盗人に誠実も何もないけど」

「たしかに」


 校舎の中、生徒玄関からひとりの用務員がやってくる。扉の鍵をひとつずつ開けていった。


「ほら、しろあ。開いたぞ」

「んん~」


 こういうときなら、天理は優しい。天知を支えながら、生徒玄関に入っていく。訳のわからない男だ。

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