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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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チキンプリンセス


 一般棟四階、一年一組の教室。

 体育館を出たところは見たと佐川から聞いていたので、逢坂は天知の教室である一年一組の教室に向かっていた。そこはなんというか、熱気に包まれていた。

 廊下が人集りで詰まっている。

 一年一組の教室の出入り口である扉に、大勢が詰め寄っている。あれでは出るのも入るのも叶わないだろう。


 ざわざわと群衆がひそめく中、


「ここに天知さんはいません! お帰りください!」


 と、大声が響く。

 顔は知らないが、おそらく一年一組の誰かだろう。ずいぶんと面倒な役目を引き受けたものだ。

 詰め寄った人は織田高校の制服やジャージもいれば、他校と思しき若い男女、仮装していたり一般客と入り乱れている。天知が体育館からここに戻ってくるまで、コバンザメよろしく付きまとっていたのだろう。まさしくハリウッド俳優。


 逢坂が見ているだけでも疲れた気分にもなり、教室内の天知を憐れんでいると、佐川が言った。


「これ、取り次ぎできる?」


 苦笑いで逢坂は答えた。


 この光景までは予想していなかった。教室の扉をノックすれば、天知の部活仲間だと知っている一組の誰かが繋げてくれると思っていたし、そうでなくても、アイコンタクトで天知が出てきてくれると思っていた。

 しかし、一組の人に逢坂の存在を見つけてもらうのは不可能。天知にも同様だ。


 ぴょん、ぴょん、と群衆の後ろから逢坂は存在の主張をしてみる。門番の役目を引き受けた女子生徒はそれどころではなさそうだ。教室の中は、当然見えない。


「どうしよう」

「なにがですか?」

「いや。天知さんに話があるって人が…………ん?」


 ぐるりと身体ごと後ろに回す。そこには天知がいた。

 となりでは佐川があんぐりと口を広げている。まだ天知は、ドレス姿だったのだ。


「ああ、たくさんいらっしゃいますね」


 逢坂にも敬語で恭しいのは、佐川がいるからだろうか。天知が言ったのはあの群衆だったらしいが、逢坂が言ったのはただひとり。この佐川だけ。


「あの人たちじゃなくて。こっちの……佐川先輩。覚えてる? ミステリー部の」

「はい。部長さんですね」

「や、役だけどね」


 なんとか、佐川は訂正を絞り出せたようだ。しかしそれが逆効果と働いたのか、堰を切ったように吐き出す。


「そ、それで天知さん! 大変なことになったんだ! もう一度、名探偵天知しろあさんのお力を」

「とりあえず、場所を変えよう」


 群衆は未だ教室にいると思い込んでいるようで、ふり向けば気付ける真後ろの天知に気付いていない。それでも大声で叫んで天知天知と名を連呼すれば、いつか誰かが気付くだろう。煌びやかなドレスを着ているし、通行人が叫んでしまうおそれもある。


 誰も異論のない提案をしたのは、天理だった。




「話は聞きます。でもその前に、更衣室に行きたいです」


 とのことで、逢坂は天知に付き添って更衣室に軍行していた。

 更衣室は男女共に連絡通路にある。道中、行き交う人々は自ら道を開けてくれた。付き添いは、天理に任せればよかったと、逢坂は後悔していた。


 彼らが道を開けるのは好意的なものから来るものではなかった。恐れから来るものだった。きっと、逢坂もこれを見れば廊下の壁のギリギリに寄るだろう。まだ間に合うのであれば、道を変える。

 誰も彼も、この中身が天知だとは気付きまい。知っている逢坂ですら、疑ってしまう。

 天知は、まあ、端的に言えば変装をしていた。首から下はドレス姿のまま、頭だけ、鶏だった。言葉を選んでも奇怪が相応しい。


 鶏姫とでも言えばいいのか、チキンプリンセスなのか。くぐもった声がした。


「かいくんの匂いがするよ」

「き」


 気持ち悪い。

 飲み込めた逢坂は褒められるべきだろう。くぐもった声から嬉々とした態度が伝わってきて、逢坂は嘆息する。


「一組にいたんじゃなかったの?」

「ベランダから移動したの。昨日もああやって追っかけがいて、更衣室に行くのに小一時間ほど格闘があったから。三組に話を通しておいて、許可をもらってね」


 三組は天理のいるクラスだ。話も通しやすいだろう。


「でも、びっくりしただろうね。おばけ屋敷から天知しろあが、それもジュリエットの姿で出てくるんだから」


 ふふふ、と笑っている。


「エスコートしてもらっちゃった」


 きゃっと喜んでいる。鶏が。


 逢坂は天知のことを深く知らないが、それでも周りより一足先んじている自負はある。裏の一端は見知っているし、周囲への評判が建前で、意図しているのは天理の関係性を匂わせることであることも知っている。


 逢坂は疑って掛かった。


「わざわざ三組にしたのは、それが狙いだ?」

「ふふん、そういうこと」


 よくわかったね、と褒められる。鶏に。


「二組を飛ばして、おばけ屋敷をやっている三組に頼み込む。それも、天理くんを通して。三組は親しい仲なのかと勘ぐるし、エスコートまですればいよいよ。ただならぬ関係ではないと思ってしまう」

「それにこの頭だよ。かいくんの独占欲の現れだね」


 有頂天といった風の鶏だ。

 天理はいま、佐川と一緒にいる。女子更衣室に男子がついていくというのもあれなので、先に二年三組、つまりミステリー部に向かってもらっている。別れ際、鶏の着ぐるみだった天理が、頭部を天知に被せたのだ。


『これで騒ぎにならないだろう』


 とのことで、天理の態度から察するに、更衣室までエスコート、ボディガードができないから顔を隠せ、とのお達しだったのだろうけど、天知はそれを都合よく解釈したらしい。曰く、この姿を誰にも見せたくないという独占欲の現れ。

 産んだ卵を眼前で目玉焼きにするような残酷な所業はしない。気分のいい鶏にあえて水を差すこともしない。


 逢坂は話を変えた。


「もう浮気の件はいいんだ?」


『ロミオとジュリエット』の上演前にはあれだけ意気消沈としていたのに、すっかり欣喜雀躍といったところだ。


「……すっかり騙された!」


 そういうことではなかったらしい。頭を抱えていた。鶏が


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