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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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頓珍漢には任せない


『部長を殺したのは誰だ そして凶器はどこへ消えた え? 俺死ぬの? 

                 ノートブックは頂戴した 怪盗エス』




 そういえば初めて犯行声明見たな、と思う反面、これは犯行声明でよかったのか、と思う。


「ノートブックって何ですか」

「パソコン部から失敬したノート。彼らの間では台本らしい」


 失敬と格好つけているがただの盗みだろう。

 逢坂は目を丸くした。


「台本を盗んだんですか」

「いくつかある中の、使われないことになっている台本だよ。台本第一稿。パソコン部の友達から、『まっ、どうせ捨てるだけだったからいいんだけどな』って聞いた人がいるし。僕らはたしかに失敬したけど、文化祭を壊したいわけじゃない。使わないものを取ってるんだ。怪盗エスの犯行声明がなかったら単になくしたって思うばかりだったと思うよ」


 だからと言って犯行が許されるわけではないだろうけど、逢坂はひとまずそこは置いておいた。


「それで、天知さんに繋いでどうするんですか」


 話は読めるな、と思う反面、そうでなかったらいいな、と思う。


「それはもちろん、名探偵天知しろあさんに、この怪盗エスの名を騙り、文化祭を破壊せんとする不届き者を見つけてほしいんだよ。ノートブックも回収してもらわないと、僕らはみんなに盗品を返せない」


 怪盗エスが盗んだ品々を綺麗に元通りに返却すれば誰も怒りはしないし、文化祭の一時の突発イベントか、と見過ごしてくれる人もいるだろうけど、盗んだ品々が返ってきたと情報が出回ったのに、パソコン部だけが返ってこないとなれば印象は悪くなり、パソコン部は業腹だろう。その台本だかノートブックだかが要らない物だったとしても、だ。


「それに、まだ盗んだのは僕たちミステリー部からだからいいけど、もしも犯行が続いたら困る。偽物の怪盗エスは、すべての罪を僕たち最初に始めた怪盗エスになすり付けられるんだから。一線を超えてしまう可能性だってあり得る」

「警察沙汰にもなりうる、と」

「そういうことだね」


 具体的に言えば、お金だろう。財布を盗む。あるいは高価なものを盗み出す。怪盗エスというスケープゴートがいて、自分は罪に問われないとなれば、過激なことを始める人だっていないとは言えない。

 佐川の言い分には全面的に同意するし、何なら逢坂も協力したいぐらいだが。しかし、すこし気に食わない部分がある。


「なんで自分で行かないんですか」


 頼み事をするなら自分で直接すればいいのに。逢坂を使うことも気に食わないし、迂遠的な方法も気に食わない。


「それができたら一番だったけど……天知さんは体育館でジュリエットを演じてたし。終わりを見計らって体育館を覗きにも行ったんだけど、とても近寄れなかったんだ。まるでハリウッド俳優だ」


 それは昨日、逢坂が見たのと同じ光景だろう。クラスメイトに囲まれて逃げていくように人目を避けていくように移動する天知の姿。


「まあ、そこはわかります。じゃあ、もうひとつ」

「なに?」


 これが一番、気に食わない。


「なぜ私じゃないんですか」

「え?」

「怪盗エスを見破ったあの場に、いちおう私もいました。なのに、なんで私には名探偵を頼まないんですか」


 推理を披露したのは天知だったが、佐川からすればその推理に逢坂が一助していたか、尽力していたか、判別つかなかったはずだ。だというのに、佐川は逢坂を天知と繋げるためのパイプとしてしか認識していない。

 べつに、逢坂は名探偵に憧れているわけでもミステリーにも通暁しているわけでもないのだが、取るに足らない雑兵と見做されていることに対しては、腹が立たないでもない。


「……はは」


 笑われた。


「いや、そんな怖い顔しないで」


 元々そういう顔なのだっ。


「だって、まあ、……うん」

「はっきり言ってください」


 逢坂から申し出れば、仕方ないと佐川は一息ついた。


「屋敷に第三者がいた、なんて頓珍漢な推理をするような人に、任せようとは思わないよ」

「と、とんちん、……か」

「うん。頓珍漢」


 逢坂が自信を持って披露した推理は、ミステリー部というその道に通じた者からすると頓珍漢と笑われるほどのものだったらしい。


 かぁ……と顔から火が出そうな思いをしながら、逢坂はなんとか言葉を絞り出した。


「物事を頼む相手にそんな言い方、ないんじゃないですか」

「自分ではっきり言ってって言ったんだよね?」


 それでも言葉は選ぶべきだろう。


「というか、ミステリー作家志望もそう言ってたんですよ。だから私は、そうじゃないかと」

「あれは、ミステリーとしての定石を考えた場合の話。モデルとなった事件の容疑者が実は生きていた、屋敷が広いからいまも隠れられている。それだと、新たな疑問にぶつかる。どうやって警察の捜査の目を掻い潜ったのか、どうやってその犯人は生き伸びたのかって話になる。当然、食料の問題があるよね?」

「た、たしかに……」

「それに、ミステリーの住民が全員本当のことを言って、隠しごとは一切しない、嘘もまったくつかないなんてことはない。名探偵は、彼らの独白を聞いて、読んで、それでおかしいと思うところから仮説を立てていくんだ」


 ぐうの音も出ない。


「じゃあ、どうするのが正解だったんですか……?」


 ギブアップだと、大人しく逢坂は師事した。

 佐川は教えたい欲が刺激されてご満悦なのか、口角をあげる。


「あのキャラたちが、探偵の言葉に反して独白を進めたりしているのはわかっていると思う。ゲームとかでもそうでしょ? ステージを進まないと、敵を倒さないと、台詞が変わらない」

「関係ない話だとNPCみたいに繰り返してましたね」

「そう。つまり、関係のある話なら、情報を出してくれるんだよ」

「あぁ……」


 そういうことだったのか、と頭を垂れる。白旗をあげたほうがいい。


「じゃあ、あのミステリー志望作家の人に、もしも事件の容疑者が生きてたら、どうやって餓えを凌いでいたのか、と投げかければ、否定されてたってことですか」

「そういうことになる」


 彼らがNPCのように言葉を繰り返したときとは、話の終わりでも情報を聞き終えたのでもなく、次の質問を待っている状態だったのだ。

 となると、高校生記者も医者の卵も、まだまだ聞ける話はあったということになる。


「じゃあ、あの部長さんを殺したのはけっきょく誰で、凶器はどこに消えたんですか」

「そこも訊いちゃうの?」


 ミステリーを好む人からすれば、結末だけ聞くような真似は御法度なのだろうけど、逢坂はすでに白旗をあげている。それに、佐川が言ったように、逢坂の推理は頓珍漢でその推理力もお察しの通りだ。何度足を運んでも、彼らキャラクターの嘘に翻弄され、隠しごとも暴けないだろう。


 後々天知から訊くか、いま佐川から訊くかの違いでしかない。逢坂はじろっと見上げる。


「天知さんに繋げないですよ?」


 言うと、早かった。


「犯人は医者の卵だ」

「医者の卵……ああ、あの人だけですもんね。死因とか誤魔化せるの」

「違うよ」

「……」


 もう逢坂は自分の考え、推理は口にしないようにすることを心に誓った。


「彼は言ったんでしょ? 高校生記者の悲鳴が聞こえて飛び起き、駆け付けたって」

「言いました」

「なのに、参考書は持ってたんだ」


 ……たしかに。そして彼は、どこでも勉強はできると言った。それはまるで、


「まるで、あの場所から長時間出られないことになる、と……わかっているようでしょう?」

「じゃあ、凶器は? どこに消えたんですか」

「違う。消えたのは凶器じゃないよ。部長が消えたんだ」

「どういう意味ですか」

「ミステリー作家志望は言ったでしょう? 屋敷は広い。部屋の数も多い。迷ってしまうぐらいだった。医者の卵の言葉から合わせると、いまは夜ということになる。つまり、遺体を移動させても早々、人目につくことはない」

「殺されたのは違う場所で、凶器もそこにある……と」

「そういうことだね」


 よくわかったねと認められるが、ここまで丁寧に手を引いてもらったのだ。嬉しくも何ともない。


「でもそれだけで医者の卵と断言できるんですか」

「ほかにもいろいろあるよ。たとえば、高校生記者。彼は部長と屋敷を探索する約束だったんだ。けど時間になっても現れず、部長を捜し回っていた。その末、第一発見者となった。早々見つからないとは言ったけど、人を捜索して出歩いている人がいれば、不自然なものを見つけることもある」

「なるほど……」


 高校生記者から、あの部屋に訪れるまでに何か不審な人を、変なことはなかったかと訊けば、有力な情報が得られたということか……。


「最短で特定するには、まず、その一日目の各人の行動を洗うことが重要だったってわけ。その点、あの解き明かした名探偵は手際がよかった。相当ミステリーを読み込んでいるんだろうね。順序立てて嘘を暴いてたから」


 あの眉目秀麗な一年生のことを言っているのだろう。

 彼が逢坂と同じく一度目の参加だったかはわからないが、もしも一回で情報を引き出しつなぎ合わせ、嘘に気付き隠しごとを暴いたのだとしたら、洞察力も推理力も卓越している。


「で、天知さんと繋いでもらえるかな」


 喉に魚の骨が刺さったような気分だが、佐川に瑕疵があるわけではない。無理にでも飲み込む。


「いいですよ」


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