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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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厄介な力


 また同じやり取りを繰り返すつもりは、逢坂にも天知にもなかった。怪盗の犯人がミステリー部だということはわかったのだが、はてさてどうしようか。


「怪盗は自らをエスと名乗り、展示、出し物から小道具を華麗なる技で盗み出す。盗まれた被害者はその鮮やかな手腕に被害に気付けず、いざ出番となったときに発覚。大きな支障はいまのところないが、穴を空けることになるのも時間の問題だろう。

 怪盗エスが残したのは予告状だったのか犯行声明だったのか。はたして犯行は二日目三日目と続いていくのだろうか。そして、怪盗エスの正体とはいったい!? 仮面の下は単なる愉快犯、あるいは義賊。怪盗エスの訴えたいメッセージとはいかに……。

 新聞部は怪盗エスの動向に目を光らせて参ります。なにか情報があれば特別棟二階、物理室まで! あなたの情報が真相に一歩近づく!」


 天知が新聞を読み上げるようにした。最後は、新聞部としての決め台詞か何かなのだろうか。


「物理室か……遠いなあ」


 通り過ぎてきたようなものだ。地図で見ると、たしかに物理室に相当する場所には新聞部と記されている。実習室の下のようなもの。最初に新聞部に寄るべきだったか。失敗した。


「行くの?」


 目を丸くする天知に、逢坂は当然だと頷く。


「愉快犯でも義賊でも、やってることは泥棒、窃盗だよ。盗まれて被害に遭って困っている人たちもいる。答えも知った。怪盗エスはミステリー部。黙ってる道理はないでしょう?」


 犯人を知っているというのに黙ったまま腹に抱えているというのも気持ち悪い。続報が入ったときに、逢坂が伝えていれば防げた被害だったのに。と悔やむぐらいなら、いま行動すべきだろう。


「で、誰が犯人なの?」


 何の茶番だ、と疑問符を浮かべながら答える。


「ミステリー部」

「どうしてそう思ったの?」

「それは」


 自分が言ったのだろう、と口を突いて出そうになって、思いとどまった。

 はっとすると、天知はようやく気付いたかと鷹揚に頷く。


「わたしが言ったから。天知しろあが言ったから。たしかに個人的にはそれで信じてくれる人もいるだろうけど、それが公にされることはない。相手は新聞部。マスメディア。情報を世間に流布するからには、それなりの信憑性がないとやらない。もしも間違っていたら、ごめんなさいでは済まされないからね。いまは、一般客にも校内新聞は目につく。ミステリー部は濡れ衣を着せたと言って、抗議するよ」


 失念していた。


 何でも知れる全知を持つ天知しろあ。正確には全知の名残だったか。まあ細かくは違わないだろう。その不可思議で超常的な力を持つ天知しろあは何でも知れる。どんな難事件でも複雑怪奇な未解決案件でも、ミステリー部と言い当てたようにものの三秒程度でたちどころに見通してしまう。


 しかし、それこそが、強みであって弱みでもある。


 逢坂や天理のように天知しろあの全知の名残を知っているのであれば信じるのだろう。天知しろあのファンクラブは彼女の言葉を天啓として恩賜として傅くのだろう。だが当事者とあっては話が違ってくる。

 お前が犯人だ、と名指しされ、物証も根拠もなくわたしは知っているからだ、と言われてなるほど俺が犯人だったのか……とはならない。彼らはファンではあるし天知は偶像崇拝の的ではあるが、盲目の信者ということではないのだ。独裁を認めているわけでもないし断罪を求めているわけでもない。そんなことをしそうにないからこそ、天知しろあは人気である、とも言い換えられるのだが。


「逢坂さんのときもそうだったでしょう? わたしは犯人を知ってたけど、病室では言わなかった。かいくんにつかせた嘘、消えたバッグという物証を説明して、言い逃れできないようにした」


 言い逃れができないから、逢坂は自白したのだ。言い逃れの余地があればそうしていただろう。ミステリー部もそうするに違いない。だから、新聞部はまともに取り合ってくれない。


 歯がみする。


「厄介ね、天知さんのその力」

「わたしはもう人間だから。神様だったら威厳とか威光とかあるんだろうけど、この通り。ただの美少女だから。拝まれこそすれ、傾聴はしてくれないかな」

「うん。所詮お転婆娘の戯言って思われそう」

「それ褒めてる?」

「もちろん」

「あんまり嬉しくないんだけど……」


 なにやらぶつぶつ言っている。

 軽口を叩いていたが、そんな場合ではなかった。逢坂は内心、地団駄でも踏みたい気分だった。


「じゃあ、どうすればいいの?」


 天知は全知の名残を使ってこの怪盗エスの正体もその手腕も盗んだ品々も知ったのだろう。だが逢坂にそれはわからない。最初から順を追って話してもらうには時間的問題もあるし、説明されても覚えきれるし自信も、どうすればいいのかもわからない。

 それに、天知の語りと逢坂の理解に齟齬がないとも言い切れない。

 天知が見知ったものを具体的に細部まで語ったとしても、逢坂が思い描いた図がそれと同じであるとは限らないのだ。


「だから言い逃れができないようにすればいいんだよ」

「具体的には」

「物証、証拠。動かぬ証拠。決定的瞬間」

「この場合、それに該当するのは……」


 指を折りひとつずつ数えていく。


「犯行声明、予告状」

「それと同じもの、失敗作、予備、まだ使ってない物を持っているのは、犯人以外いないね」


 まだそういった話は聞いていないが、昨日の最後の新聞には二日目も三日目も続くのかと書かれていた。これで終わりとは言っていないのだ。続かないかもしれないが、続くかもしれない。

 続くなら、未使用の予告状、犯行声明を持っているはず。


「それから、盗んだ物」

「消耗品や大量生産された物じゃなければいいね。名前が書いてある、手作り。持ち主が一目でわかったり世の中にふたつとないもの」


 家庭科部のパンやお菓子は胃に詰めれば特定はできない。そうじゃなくてもトイレやゴミ箱に捨てればもうわからない。逢坂のペンも文房具店に立ち寄ればいくらでもある。目立った傷があるわけでもないため、もしも盗まれそれを持っている人を問い詰めても、買ったんだけど? と言われればそれまでだ。


「決定的瞬間……そうか。盗む瞬間か」

「現行犯逮捕。これ以上言い逃れできないね」

「でも……それはさすがになあ」

「心が痛む?」

「も、あるけど……恥ずかしい」

「ええっ」


 笑われた。それも恥ずかしい。仕方ないだろう。

 逢坂は探偵志望でもなければ特別正義感が強いわけでもない。目立ちたがり屋でもない。どちらかというと、最近は目立ちたくないのだ。


 ミステリー部の連中を監視して、盗む瞬間にとっ捕まえる。


『こいつが怪盗エスです!』


 と叫ぶ。


『くそぉ』


 と怪盗エスは観念して拳を打ち付ける。


 おぉ、と歓声があがりぱちぱちと拍手が起こり、新聞部からのインタビューと写真が載せられる。

 そこまで想像通りにいくかはわからないが、近しい未来になることはわかる。ふつうに、嫌だ。


「そうなると、三つの中で妥当なのは……盗品、か」


 天知は、逢坂の恥ずかしいという私情を汲んでくれた。


「盗品の居場所も知ってるんだよね?」

「ちょっと待ってね」


 また、目蓋を静かに閉じる。時間にしてはやはり、三秒もない。


「うん、わかった。敵の本拠地にある」

「つまり二年三組?」

「そういうこと」


 言うと、行動は早い。


「何してるの、行くんでしょ」

「一緒に?」

「ひとりがいいの?」

「いやいや。ぜひ一緒に居てほしい。ありがたい。ありがとう天知様」

「様ってやめて。本当に」


 こめかみがぴくっとした。拒否感抵抗感は相当ありそう。本当に嫌そうだ。神様にするように拝んだのだが、天知しろあに対してはこれは冗談にならないのだろう。何せ、彼女は元神様なのだから。

 逢坂はこういった怪盗と相見える経験はない。ある界隈では名が通っている天知しろあは経験豊富なのだろう。彼女には付き添ってほしい。機嫌を損ねないように、逢坂は口を噤む。


「あ、ちょっと待って」

「んー?」


 一年三組のおばけ屋敷は今日も賑わっていて、店番には骸骨がいたが早瀬ではなかった。

 逢坂は廊下にあるロッカーを開け、王冠とメダル、それから似顔絵を仕舞っておいた。


「よし、行こう」


 きゃぁあ! とおばけ屋敷の中から悲鳴が聞こえる。一組とは教室がけっこう近い。時折、天知の耳にも届いていたのかもしれない。迷惑だったか、それとも興味が湧いただろうか。


「気になる?」

「うん。時間を見つけてかいくんと来よう。それで御札はビリビリに引き裂く」

「可哀想に。南無三」


 呪われてしまうかもしれない。呪われているのかもしれない。

 逢坂は片手で手刀を切るようにした。


「それ使い方違うよ」

「どういう意味なの?」

「しまったとか大変だ、とか」

「じゃああってる」

「わたしの愛が迷惑だ、ってことになっちゃうよ?」


 迷惑とまでは言わないが、重いのは事実だ。一緒に呪われて永遠におばけ屋敷から出られなくなってもいい、という意味で、御札は引き裂かれるのだろうから。


「なっちゃうよ?」


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