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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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第35回織田高校文化祭

 翌日、金曜日。


 家から高校に近づくにつれ、見慣れた制服姿と、本来この時間、通学路では見ないであろう姿と、なかなか珍妙な格好をしている姿が増えてきた。

 制服は逢坂も着ているしこれが高校生としての標準的な格好だ。体操着やユニフォーム姿は、逢坂は普段見かけないが土日や朝練の時間ならそう珍しくもない格好だろう。しかし……なんだ、あれは。


 織田高校の校則はそこまで厳しくない。県内の高等学校の中で緩い校則として真っ先に名前が挙がってもいいほどだ。それでもあれは……ないだろう。


 顔全部が白い。目は黒で色濃く縁取られ、赤い口紅で唇を塗り、口の端には赤い丸が膨らんでいる。カラフルでレインボーなアフロを被り、服装もそれに似た色。靴の先は尖っている。

 ピエロだ。

 ホラー映画の印象も強いが、ピエロとは道化だ。逢坂もそのピエロから、スプラッターやテラーよりもミュージカルやサーカスを彷彿とさせた。校庭でテントを広げてなにかやるのだろうか。ライオンに火の輪くぐりをさせたり、ゾウにバランスボールの上で歩かせたりするのだろうか。

 ほかにも、仮装はいた。というよりこっちは、コスプレと言ったほうが適切か。

 なにかのアニメか漫画か映画か、それらしい奇抜でユニークで風変わりな様相を呈した衣装に身を包んだ男女が多くいた。残念ながら逢坂はウィットに富んでいるわけではないので、目を白黒させるしかない。


 ただ、アイドルに関してならば一家言ある。逢坂も適当にアイドルをやっていたわけではない。勉強し、研究してきた。チケットの販売でサイトを落としてしまうトップアイドルから、知れ渡っていない駆け出しのアイドルまで、男女関係なく逢坂はそれなりに知っている。ドレスを着た彼らがなにかパフォーマンスをするのなら、観に行ってみることにする。


 あとで、パンフレットを見返してみよう。


 校門もすっかり毛色が変わっている。昨日の段階で設置は終わっていたのだが、時間は夕暮れだったし正面ではなく背後にあったし、明日のために取っておこうと見ないようにもしていた。

 アーチには織田高校文化祭と書かれ、紙で作られた花、お花紙で彩られている。生徒玄関に向かうまでの短い道中にも、屋台の準備はしてあった。両脇をすっかり固められ、さながら夏祭りの歩行者天国。


 パンフレットの案内地図ではこうはなっていなかった。それとも、逢坂の見落としだろうか。まあ、これら屋台まですべて記していてはごちゃごちゃしてかえって見づらいという判断だろう。いい意味で逢坂たち生徒にとってはサプライズだし、まだパンフレットに記されていないだけでなにか催し物があるのではないか、と興奮と期待はせずにはいられない。

 昨日の準備の段階で校舎は中も外も様変わりし、空気も雰囲気も文化祭色に染まっていたが、いざ当日を迎えるとやはり違う。じわじわと実感が湧いてくる。

 校舎内を歩く同級生や先輩たちの緩さ、教室の華やかさが非日常感満載だ。


 逢坂は見かけた柚奈に声をかけた。


「柚奈」

「愛花。おはよう」

「おはよう」

「どこ回るか、決めてる?」

「ううん。まだ」

「って、そっか。愛花のクラス、やるんだもんね。お化け屋敷」


 柚奈は右手に持った文化祭パンフレットを示した。


「けっこう本格的らしいよ」


 胸を張る。


「らしい?」

「うん、らしい」

「他人行儀だねぇ。それは書いてあるからわかるよ。ほら、制作者的にどのくらい怖いかとか、アピールポイントとか、ないの」

「わからない」

「わからない?」


 それはおかしいだろ、と取り沙汰されるが、これはどうしようもない。腕を組む。


「私、ほとんど関与してないから」

「サボってたんだ」

「ベッドの上にいる間にお化け屋敷って決まってたし、分担は看板製作だったからどんなギミックなのかわからないし、片腕が使えなかったからその看板すらできなかったし」

「いじわる」

「サボり扱いするから」


 誰のせいだと思ってる。

 とまあ、そう言えるまでの関係性には戻っているし、腕も組めてもう支障のない程度まで回復しているので、逢坂はなにも気にしていない。和解したのだ。

 終わったことなので柚奈も気にしない。気にしていても、逢坂が気にしていないのだから表には出さないだろう。振る舞いはふつうだ。


「じゃあ、自分たちの出し物を自分で体験できるってことだ。愛花はお化け屋敷とかダメタイプだっけ?」

「というか、経験がない」


 遊園地には家族親戚となにかの経験で行った覚えがあるが、それがどういう経緯だったか覚えていない。どんなアトラクションに乗ったのかも覚えていない。お化け屋敷で怖い思いをした、という記憶もないので、逢坂には恐怖意識もなかった。


「ホラー映画とかの耐性は強いほうだと思うけど」

「なら行ってみようよ」

「戦慄迷宮レベルとかじゃなければいいけど」

「それはあたしもそう。ってか、高一で戦慄迷宮レベルは才能だね」

「柚奈は戦慄迷宮、行ったことあるんだ」

「ない」

「なんだ」

「愛花はあるんだ」

「ないけどね」

「ええ……」


 階段を上りきり、文化祭、ひとまずはお化け屋敷の約束をして、クラス前で柚奈とは別れた。

 一年三組は廊下からもわかるほど黒い。暗いではなく黒い。窓に暗幕が貼り付けられている。頭上にも逢坂と天理が作った横長な看板が掲げられている。黒い板に赤く血が垂れたような文字で、お化け屋敷、と。

 すこし扉を開いて覗いてみる。薄暗い。足元がかなり弱い光量のライトで照らされているようだ。矢印で道順を記している。それらしい井戸のようなものが見えた気がしたので、すぐに首を引っ込めた。楽しみはあとに取っておこう。




 オープニングセレモニーは体育館で行われる。


 体育館には千人以上が集まっていた。ステージ上は舞台幕が降りている。逢坂はパンフレットを繰った。吹奏楽部の一言コメントには、開幕と閉幕を請け負ったとある。なにを演奏するのかは不明だが、あの幕の後ろには楽器たちがずらっと並んでいることだろう。


 話し声がざわざわとしていたが、キャットワークにいる人がカーテンを引き、天井の照明が落とされ暗くなり、壇上にマイクを持ったひとりの男子生徒が上がっていくと、皆、自重した。

 誰だろう。あいにく逢坂の記憶にその男子生徒の名前はなかった。緑のネクタイをしているから三年生であることは間違いないだろう。開幕の宣言をするぐらいなのだから、生徒会長とかその辺りだろうか、と予想する。


 おそらく生徒会長は注目を集めるように間を取ってから、口を開いた。


「これより、第35回織田高校文化祭を開催します」


 すると、舞台幕が上がった。やはり後ろには楽器が並んでいる。指揮者が指揮棒を振ると演奏が始まった。煌びやかな響きは文化祭の開幕として相応しい。逢坂はその曲には聞き馴染みがあったが、曲名まではわからなかった。

 壇上にのみ光が当たっていて、逢坂たち一般生徒のいる場所は薄暗い。座っていた彼らも、吹奏楽部の演奏には興味が惹かれなかったのか、自分たちの出し物の準備があるのか、静かに体育館を出て行った。

 逢坂は、どうしようかとすこし考えたが、いまお化け屋敷に行っても稼働してなさそうだし、客一号というのも恥ずかしいと思い、もうすこし吹奏楽の演奏に耳を傾けることにした。

 


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