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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
古江琉重による全知を出し抜く方法
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超理屈人間


 包帯も取れ、固定も外され、リハビリも終わり、無事に腕は自由となった。これでやっと痒みともおさらばだ。入浴でもそこだけ濡れないように袋をしたり、日常でも細心の注意を払って庇うこともなくなった。開放感で晴れ晴れとしていた。

 しかし看板製作はもう終わっていた。というか、文化祭はもう明日だ。


 衣替えを終え、風が秋の匂いを運び始めてきた十月。文化祭のパンフレットが配られた。

 織田高校文化祭。単に文化祭と言う人もいるし、織高祭やオリ祭と呼ぶ人もいるようだ。表紙にはデカデカと第35回織田高校文化祭という文字がアーチになっている。このアーチは実際に校門に置かれるようだ。男女四名が楽器を持ったり仮装したりと文化祭のシンボルらしき出で立ちで描かれていた。


 逢坂は何の気なしに表紙をめくる。


 一ページには目次が記されている。読み飛ばし、もう一ページめくる。そこには文化祭に出席するクラスや部活の名が並び、一言コメントのようなものも付随していた。



サッカー部 きみは何回できる!? リフティング対決!

吹奏楽部 開幕と閉幕を請け負うことになりました

理科科学部 石 部員が夏休みを捧げ、汗水垂らし血眼になって川で探した最高峰の石

一年三組 お化け屋敷やります けっこう本格的かも?

一年一組 美しすぎて練習がまともに進まなかった…… 『ロミオとジュリエット』 ジュリエット役 天知しろあ

剣道部 主将、緊張しています 来ます、八丘高校

美術部 お題ください 描きます 似顔絵も可

将棋囲碁部 そこのきみいま見たね!? 見たでしょわかってる 初心者? 平気平気!

二年四組 たこ焼きと焼きそばで揉めに揉めた結果、勝者はわたあめ

二年六組 なので、ウチがたこ焼きです

奇術部 消えたのか 最初からいなかったのか なにが本物なのか……

ミステリー部 部長を殺したのは誰だ そして凶器はどこへ消えた え? 俺死ぬの?

軽音楽部 争奪戦に負けたので校庭でやることになりました 不服

三年八組 メイド喫茶やるよ 逞しいメイドいるよ

三年五組 監督 南野文 オリジナル映画 『マーシー 全員善人』

ダンス部 いっぱい跳ねていっぱい回ります

合唱部 カラオケ100点の力をご笑覧あれ 

写真部 富士山を登ってきました 雲海、奇跡のショット

文芸部 厚かましくも評論などをしておりますけれども

スピリチュアル部 あんた、ちょっと占ってかない?

新聞部 文化祭の回り方がわからない? なら新聞を待て!

演劇部 ハムレット

弓道部 部員募集 ずっと募集 丁寧に教えますので一瞬だけ入部してぇ

パソコン部 ゲームも動画もあるよ! ……バ、バグもあるよ涙

家庭科部 お菓子とパンを作ります 一律100円 あらお安い

数学研究部 フラッシュ暗算 パズル 数検 数学オリンピック 勝ったら凄いマジ凄い

歴史部 豊臣秀吉軍師、黒田竹中両兵衛の戦術を解説

空手部 瓦を割り、板を割り、武を演じる

一年七組 オリジナルドリンク 当たり外れあり

二年八組 合法 カジノ 合法

三年二組 俺の財宝をそこら辺に置いてきた 探せ!

ボランティア部 体験談を語ります 一説には入部すると内申点が加算するらしい

チアリーディング部 応援します 誰を、という質問はしないでください

手芸部 渾身の力作を展示

園芸部 だから中庭が多彩でカラフルな花たちで溢れてるのは俺たちのおかげって言ったっしょ!?

放送部 オリ祭のオールナイトニッポン

生物部 カエルを丸裸に(解剖)!

お笑い研究会 古典落語 お笑いコント 

漫画研究会 苦節一ヶ月 血と涙の結晶 『山の麓に住む天使について』

ディベート部 史上最高! 白熱? 激熱!? 魂を削る大大大討論! 源太VS頼綱!




 逢坂はざっと目を通す程度にした。担任であり、いまは逢坂にとって部活の顧問でもある佐白先生が事務的に明日の文化祭のことについて説明しているが、逢坂はそれも聞いているような聞いていない状態で、次のページをめくる。


 二ページ目には部活やクラスが名を並べアピールしていたが、文化祭当日ではほかにも出し物は展開される。有志で店を出したり、個人での発表をしたりするらしい。

 三ページ目にはスケジュールがある。文化祭は金土日の三日間だ。金曜日は関係者のみで基本的に外から人は来ない。土日になってから一般に開放されるため、一日目と二日目三日目では微妙にスケジュールも違っている。出し物の内容も変える場所もあるところはあるようだ。

 次には校内地図があった。文化祭仕様で、どの部活がどのクラスがどこで出し物を展開するのかわかりやすくなっている。逢坂はそれも読み飛ばした。

 後のページも目を通しているだけ。内容は把握していない。気が散っているからだ。


 佐白先生の話が終わる。文化祭前日である今日、木曜日は授業がない。展示のために教室が使えなくなる場所もあるし、一時間二時間では校舎すべてを文化祭色には彩れない。クラスメイトは浮き立っていた。佐白先生の解放の言葉で我先にと動き出す。逢坂も早速、天理のもとへ向かった。


「どうした?」

「え、なにが」

「顔色よくなさそうだから。遠足の前は眠れないタイプなのか」

「だったらいま顔色悪いのおかしいでしょ」


 遠足の前の前の日から眠れないのはさすがに勇み足が過ぎる。


「そうじゃなくて……ちょっと」


 文化祭に興奮しているのではない。

 逢坂には思い当たる節があった。クラスメイトには特に聞かれたくないので、顔を近づける。


「天知さんが襲われかけた? ストーカーされかけた? とかなんとか……」

「……ああ」


 天理は納得したようだ。しろあ話したんだな、といった風だった。

 逢坂がクラスメイトの目と耳を気にするのも当然だろう。天理は察し、場を変えようと一年三組を後にする。

 距離を取り周りを気にしつつも、逢坂は言った。


「前田くんと岡部くんがクラスにいると、なんていうか……気が落ち着かない!」


 やっと吐き出せた、と肩を下げる。


「なにがあったか、訊いても?」

「あんま面白い話じゃないぞ。いまさらだし」

「天知さんには訊けなかった。天知さんのことを気にしてるとかならそれでいいけど、私のことを気遣ってるなら、言ってほしい。よくわからないままだと、対応もよくわからなくなっちゃうから」


 クラスメイトだ。避けられない接触も訪れるだろう。必要以上に警戒してこっちが気疲れしてしまう。


「しろあは何て言ってたんだ?」

「ストーカーを、自作自演? もうすこしで殴られて押し倒されて逮捕だったのに、かいくんが助けに来たから襲われずに終わっちゃった……みたいな」

「まだそんな風に言ってるのか」


 どうしようもないなと天理は首を振った。


「私の勘違いじゃなければ、その……天知さん、自分が襲われてほしかった、みたいな風に聞こえたんだけど。襲われる前提というか、襲われなくて残念、助けが来ちゃって残念ってニュアンスに感じたんだけど…………これって、私がおかしいよね?」


 はは、と乾いた笑いを漏らす。

 あの場は混乱していてなにも訊けなかったし、いまでも天知相手には訊こうとは思えない。天知の語り口調は、自分が襲われれば事件になったのに、と惜しいことをしたという風に感じられたのだが……まさか、そんなはずがないだろう。どこに自分が傷つくことを前提に動き、傷つかなかったことを残念に思う人がいるのか。


「おかしくない。しろあは、襲われたかったんだ」


 天理は自分の言葉を奇妙そうにした。あるいは、不機嫌だったのかもしれない。頭を掻いて、付け足す。


「って言うと、しろあが変に聞こえるけど。なんていうか、しろあは三浦の逮捕を目的に動いていたんだ」

「そこからおかしい」


 口を挟むと、天理は驚きつつも自分の非を認めた。


「ああ、そうだな。そこからおかしい。順を追って説明するか」


 ぜひそうしてほしい。


「まず、三浦はしろあを狙っていた。アプローチしてたんだ。だけどしろあは興味がなかった。ただ、諸事情で相手のことを知ることになった」


 ここまで言っても諸事情と省略するのだから、その経緯は関係ないのだろう。


「その過程で、しろあは知ってしまった。三浦の中学の悪行を」

「悪行?」

「前田と岡部の三人でグルになって、ふたりがストーカー役、残りひとりが支える役になったんだ。支える役の人が相談を受けて助言をする。その通りにすると、ストーカーはなりを潜める」

「三人がグルだから、って寸法か」

「だが被害者が違う行動を取ったり、その助言役から離れようとすると、ストーカーが過激になる。そうなると、被害者は助言役の人を信じるしかない」

「言いなりってこと」

「しろあは、中学の頃の被害者を知ってしまった。その子は人間不信で家から出られず、高校にも通ってない」

「ひどい……」


 彼ら三人は人ひとりの人生を、心を壊したのか。


「だからしろあは、三浦たちの作戦を知りながらも望み通りの動きを取った。最終的にはいろいろ暴露するぞと脅した。そこで押し倒され、その……強引にされていれば、単なるストーキングではないもっと上の罪を問えると踏んだんだろう」

「それが、逮捕を目的に……」

「……ああ」


 いまの天理の姿を見せてやりたいぐらいだ。

 もちろん目は見えない。黒髪のフルフェイスを被っている。だが、わかる。悲しい目をしているに違いない。これでどうして、天知は天理に文句が言えるのだろう。


「天知さんは、自分がどうなってもいいと思ってるの?」

「というより、超理屈人間なんだろうな」

「人間?」

「人間」


 とても逢坂は天知を人間とは言えなかった。やはり、神様。神様が自分を犠牲にすることを前提に動くものかはわからないので、元神様とでも言っておこう。かなりズレている思考回路、価値観だ。


「大変だね、天理くん」

「だから止めてくれる友達がいると、助かるんだけどな」


 事態は深刻だ、と思う反面、だからこそ、と思う。

 逢坂が思ったよりも天知しろあというのは重傷だ。大半が荷が重いと投げ出しそうなほど、天知しろあという元全知全能の神様は面倒だ。だからこそ、逢坂はやるべきだと使命感に駆られた。もしも天知しろあがこれから先、同じような場面に遭遇し同じような選択肢をし、天理が間に合わなかった場合を想像すると、逢坂はここで投げ出した自分を一生恨み後悔するだろう。

 まあ、天理が間に合わないのに自分になにができるのか、とも思わないでいられないが、人手はないよりもあったほうがいい。


「半分、持つよ」

「助かる」


 空き教室に置いていたお化け屋敷の看板たち。骨折も癒えたいまなら、逢坂も軽々持てる。



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