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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
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28/99

いきなり走るなんて思わないじゃん!


 駅に到着する。

 三浦は配られていたティッシュを受け取り、広告を一瞥してポケットに入れた。


「天理なら、もしかしたら……僕よりも足は速いかもしれないし、スタミナも、あるかもしれない」

「そうですねー。サッカーでも大活躍だったようですし」


 やさぐれている。


「天知さんは、天理のことを知ってるの?」


 ぴたりと止まったかと思えば、すぐに歩き出した。


 天知は何も言わなかった。三浦も、問い質そうとはしなかった。そんな空気ではなかったから。


 空きテナントがある。いつもはやってるカフェが、今日はやっていない。どうやら定休日らしい。そろそろ歩き慣れた道は、三浦も周りの建物に気を配れるほどだった。そうしながらも、周囲の警戒は怠らない。


 ここ最近はなりを潜めているらしいが、だからといって今日も安全、というわけではないのだ。


 何階だろうか。立体駐車場の横を通り、信号で止まる。この信号が境目。横断歩道を渡れば、駅の喧噪から離れていく。前方には歩く人も車通りもほとんどないが、後方には人いきれがするほどの人混みと車の行列がある。


 ここは、三浦がストーカーを見失った場所でもあった。


 三浦は歩行者用の信号が点滅し、赤になるのを眺める。黄色になり、赤になると、車も止まる。三浦は小声で囁いた。


「信号。青になったら走って」

「はい?」


 青になる。三浦は、天知の手を取って走った。


「な」

「いる。今日、いるよ。後ろ見て!」


 三浦は前方を注意しながら、天知の手を引いて走った。三浦の叫びに反応して天知がふり返り、その姿を見つけたのが強張った手からわかった。

 公園を素通りするのではなく、公園の中を通って横断する。曲がり角を多用して死角を作り攪乱しながら走る。アンダーパスの上は隠れられる場所がないので、そこまでが勝負だ。

 物陰に潜み、アンダーパスを正面にする。となりで天知は息を整えていた。


「まだ探してるのか、ここには来てないみたいだ。でも、ここは見通しがいい。全速力で、駆け抜けよう」

「はぁ、はぁ。……ちょっと、待っ」


 待ちたいのはやまやまだが、そうも言ってられない。三浦は天知の手を取る。


「行くよ」


 汗だくだ。しかし、ここを抜ければ切り抜けたようなもの。もうすこしの辛抱だ。


 慎重に、再度周囲を確認。三浦は、走った。アンダーパスを迂回するようにして、U字道路を走る。天知の自宅であるマンションが見えてきた。すぐさま角に引っ込み、様子をうかがう。待ち伏せもなく、ストーカーの姿ももうない。


「ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ」


 肩で息をして、両膝に両手をつく天知。三浦は背中を撫でた。


「ごめん、無理させて」

「ほんと、……ですよっ」

「うん、でもおかげで」

「こんなことなら……もっと早くケリを、つけるべきでした……ぁあ」


 ふらっとよろめいたのは、三浦の手を払うためだった。天知は壁に手をつく。


「三浦くん……。もう、茶番は終わりです……よ」


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