いきなり走るなんて思わないじゃん!
駅に到着する。
三浦は配られていたティッシュを受け取り、広告を一瞥してポケットに入れた。
「天理なら、もしかしたら……僕よりも足は速いかもしれないし、スタミナも、あるかもしれない」
「そうですねー。サッカーでも大活躍だったようですし」
やさぐれている。
「天知さんは、天理のことを知ってるの?」
ぴたりと止まったかと思えば、すぐに歩き出した。
天知は何も言わなかった。三浦も、問い質そうとはしなかった。そんな空気ではなかったから。
空きテナントがある。いつもはやってるカフェが、今日はやっていない。どうやら定休日らしい。そろそろ歩き慣れた道は、三浦も周りの建物に気を配れるほどだった。そうしながらも、周囲の警戒は怠らない。
ここ最近はなりを潜めているらしいが、だからといって今日も安全、というわけではないのだ。
何階だろうか。立体駐車場の横を通り、信号で止まる。この信号が境目。横断歩道を渡れば、駅の喧噪から離れていく。前方には歩く人も車通りもほとんどないが、後方には人いきれがするほどの人混みと車の行列がある。
ここは、三浦がストーカーを見失った場所でもあった。
三浦は歩行者用の信号が点滅し、赤になるのを眺める。黄色になり、赤になると、車も止まる。三浦は小声で囁いた。
「信号。青になったら走って」
「はい?」
青になる。三浦は、天知の手を取って走った。
「な」
「いる。今日、いるよ。後ろ見て!」
三浦は前方を注意しながら、天知の手を引いて走った。三浦の叫びに反応して天知がふり返り、その姿を見つけたのが強張った手からわかった。
公園を素通りするのではなく、公園の中を通って横断する。曲がり角を多用して死角を作り攪乱しながら走る。アンダーパスの上は隠れられる場所がないので、そこまでが勝負だ。
物陰に潜み、アンダーパスを正面にする。となりで天知は息を整えていた。
「まだ探してるのか、ここには来てないみたいだ。でも、ここは見通しがいい。全速力で、駆け抜けよう」
「はぁ、はぁ。……ちょっと、待っ」
待ちたいのはやまやまだが、そうも言ってられない。三浦は天知の手を取る。
「行くよ」
汗だくだ。しかし、ここを抜ければ切り抜けたようなもの。もうすこしの辛抱だ。
慎重に、再度周囲を確認。三浦は、走った。アンダーパスを迂回するようにして、U字道路を走る。天知の自宅であるマンションが見えてきた。すぐさま角に引っ込み、様子をうかがう。待ち伏せもなく、ストーカーの姿ももうない。
「ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ」
肩で息をして、両膝に両手をつく天知。三浦は背中を撫でた。
「ごめん、無理させて」
「ほんと、……ですよっ」
「うん、でもおかげで」
「こんなことなら……もっと早くケリを、つけるべきでした……ぁあ」
ふらっとよろめいたのは、三浦の手を払うためだった。天知は壁に手をつく。
「三浦くん……。もう、茶番は終わりです……よ」




