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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
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25/99

ダブル告白


 玉砕した前野に声をかけるのは野暮というもの。そっとしておく。三浦は天知と片付けに戻った。自分たちの持ち場が終わった者から順次解散ということで、終わり次第校舎に戻る。自分の下駄箱を上げて、かさっという音に眉をあげる。上履きに履き替えて廊下に出たところで、同じ格好をしている人がいた。


「天知さんも?」

「そういうことみたいです」


 ふたりして、紙を持っていた。三浦の物には、一文だけ。放課後、教室で待っててください、とのこと。


「差出人の名前がない」


 三浦は天知に見せるよう、傾けた。


「でも、なんとなくわかった」

「思い当たる節があるんですか」

「まあね。この書き方から」


 天知の好奇心を刺激したようで、三浦は得意顔になる。


「待っててください、だからね。ふつうは、待ってますじゃないかな。すくなくとも、僕だったら告白する相手を待たせはしない」

「なるほど。つまり、待たせてしまうかもしれない理由があるんですね」

「うん。片付けとかでね」


 球技大会運営実行委員の中の誰か、ということになる。そこまでは、断言の域だ。


「でも、実行委員の誰かって言われると、ちょっと難しいかな。天知さんだったら嬉しいんだけど」

「違います」

「そうもきっぱり言われると悲しい」

「違うものは違うので」


 三浦は傷が浅い内に退くことにした。


「で、天知さんじゃないとなると、実行委員で関係があったのは、ひとりだけだね」

「それは?」

「佐藤さんかな」


 天知とは積極的に、時間を見つけてふたりきりになった。しかし同じクラスの学級委員である佐藤とは、自然とふたりになることが多かった。


「とはいえ、まだ可能性が高いってだけだけどね」

「いえ。ですが、間違ってないと思いますよ。行事が終われば距離が遠くなる。それで自分の気持ちを自覚した。理解できます」


 となると、すでにもう、佐藤は教室にいそうだ。片付けの持ち場は同じで、先に校舎に戻っていく姿も見たから。


「そういう、天知さんは? 誰からか見当は付いてるの?」

「はい」


 即答。確固たる根拠もありそうだ。


「ちなみに、誰からか、訊いても?」

「こんな文面でした」


 覗かせてもらう。


「……放課後、すこし待っていてほしい。……これだけでわかったの?」

「はい。ひとりしかいません」


 差出人なし。どこで待っていてほしいかも言われていない。三浦と同じ理屈で、文面から察するに実行委員であろうことはわかるが、それ以上は。この文面から、たったひとりに絞られるのか。

 皆目見当がつかない、と首を捻っていると、天知はくすりと笑った。


「なにか、ヒントない?」

「ヒント、そうですね……。わたしはべつに、文面に着目したわけではありません。この文じゃなくても、わかったと思います」


 反対方向に首を捻ったときに、閃いた。


「ああ、字か」


 天知は静かに頷く。


「ご名答」

「ってことは、天知さんも知ってる相手なんだ」


 顔色をうかがう。


「……同じ学級委員の、男子」

「違います」


 違った。どうやら、三浦と同じケースではないらしい。

 あと、三浦が知っている限り、天知と関係のある男子は、ひとりしかいない。


「生徒会長?」

「ご名答」


 問題集を解いた子どもに向けるような優しい笑みで、天知は頷いた。


「じゃあ、二度目になるってこと?」

「そうですね。前回は、名前もありましたしもうすこし丁寧な文でしたけど」


 実行委員の集いの際、生徒会長は天知を気にしていた。未練が残っているのだろう。わからなくもない。

 三浦は肩を回した。


「じゃあ、お互いに頑張ろう」



 

 教室に入る。さすがに、残って駄弁っている人はいなかった。ひとりだけ、窓際に立って何もしていない人がいた。それが自分を呼び出した人だと、信じて疑わなかった。案の定、佐藤だった。


「いちおう、確認する。これ、佐藤さん?」


 紙を掲げてみせる。内容も見えていないだろう。それでも頷いたのだから、信じる。

 後ろ手で扉を閉め、自分の席まで歩いた。ほぼ、教室の真ん中に立つ。夕暮れの空を背景にしながら、佐藤は立っていた。表情は、判然としない。大きく息を吸うのだけ、感じ取れた。


「一緒に学級委員をやってて」


 そう佐藤は語り出す。告白が始まった。


「わたしの苦手なことを察してくれたり、代わりにやってくれたりしてくれる、そういう優しいところを、……好きになった。実行委員として、クラスを盛り上げてくれるところもいいなって思って…………三浦くんが、天知さんのことを好きなのはわかってる。でも、球技大会が終わって、ただの学級委員になったら、もう接点がなくなると思ったら、伝えずにはいられなかった」


 佐藤は、大きく息を吐き出す。


「好きです。付き合ってください」


 真正面から、三浦は受け止めた。佐藤の瞳がまっすぐ自分を見ていることを強く実感した。揺れそうで、それを自制心で支えるような瞳に、大きな勇気も感じた。しかし。


「ごめん」


 三浦は、先に目を逸らした。


「佐藤さんの言う通り、僕はいま、天知さんのことが好きなんだ。だから……ごめん。気持ちには、応えられない」

「……うん」


 とだけ、佐藤は言った。笑っていたのか、泣いていたのか、三浦にはわからない。走って教室を出て行く姿だけ、視界の端に映った。

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