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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
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24/99

幻影、爪を噛む


 初戦は勝ち上がったものの、二回戦は負けた。それでも三浦はクラスメイトを誇らしく思う。初戦は二年生、二回戦は三年生とぶつかったのだ。一年生で二回戦まで勝ち上がったクラスはいない。高校生の一年の差は大きい。体格においても、経験においても。そんな中、二年生相手に白星をあげ、二回戦まで勝ち進んだのだから、褒められこそすれ、貶される筋合いはないだろう。

 優勝は目指していたが、それはあくまでも目標であり、一年生が二年三年を打破できるとは、誰も本気で思っていない。

 前野の作戦通り、得点を奪い、チームを勝利に導くことはできたのだから、球技大会は有意義なものとなった。


 けっきょく、順位台は三年生が埋めることになった。倉賀野たちバレーも、早々に敗退していた。豚汁が、美味かった。


 球技大会運営実行委員の端くれでもある三浦も片付けに借り出された。校庭には生徒会か体育委員、それから三浦たち学級委員と、あとは教師が数名しか残っていない。生徒は校舎内にいるか、すでに帰路についているか。

 日が傾いている頃、テントを畳んでいると、そのどれにも属さない人の姿が目に留まった。もちろん、実行委員のすべてを把握しているわけではない。個人的に、ふたりを知っていただけだ。


「天知さん」


 近くで同じく、長机を折り畳む天知に声をかける。


「あれ」


 指をさす。ふたりの後ろ姿には見覚えがあるだろう。


「ちょっと、見に行かない?」


 三浦に野次馬精神はないし、人の告白を覗き見盗み聞きする趣味はない。結果なら、あとで訊けばいいことだし、なんなら火を見るより明らかだし。しかし、ここに天知がいるとあらば、話は違ってくる。是非とも、利用させてもらう。ふたりきりの時間を増やすために、三浦は天知を誘った。


 前野が倉賀野を連れていったのは、部室棟のほうだった。告白の定番は校舎裏か中庭か体育館裏、あとは教室が思い当たるが、校舎裏は下校時間で人目につくし中庭も校舎から丸見え。体育館裏は片付けをしている実行委員がいる。教室も、残っている人が多そうだ。となると、部活がない今日ならば、部室棟に来る人はすくなさそうだ。

 前野は告白を誰かに見せつけようとするほど、演出家ではない。部室棟の裏は静かで、小石を蹴る音がよく聞こえた。三浦は、天知と壁を背にして、そっと聞き耳を立てる。


 足音が止んだ。こっそりうかがえば、前野は俯いていた。その拳は震えている。


「倉賀野!」


 ばっと顔を上げる。きっと視界には倉賀野でいっぱいだろう。緊張で顔は赤い。張り詰めた空気はこちらにも伝わってくるのだから、倉賀野本人も自覚しているだろう。これから、前野が何を言うか。


「……倉賀野のことが、好きだ。俺と付き合ってくれ!」


 頭を下げた。

 ド直球で、真正面から。素直で簡潔でわかりやすい思いの丈。

 三浦からすると短い沈黙は、前野からするとどれだけ長かったか。


「ごめんなさい」


 倉賀野もまた、これ以上ないほどきっぱりと、断った。

 ゆっくりと、前野は顔を上げる。苦笑いで、頭を掻く。


「理由を、訊いてもいいか。好きな人が、いるとか?」


 訊いておきながら、自分で言っている。前野の心情が手に取るように感じ取れる。

 倉賀野は軽く顎を引いた。


「うん。好きな人、いる。でも、前野くん……」


 倉賀野は、そこで区切る。

 となりから、爪を噛むような音がした。しかし天知はいたってふつうに静観している。気のせいだったようだ。


「前野くんって、わたしのどこが好きなの?」

「……」


 前野は黙った。一番ダメな選択だろう。どこでもいいからすぐに言えよ、と三浦は内心でツッコむ。

 ふっと、倉賀野の肩が軽くなったように思えた。


「気持ちは、嬉しい。ありがとう。でも、ごめんなさい」


 改めてそう告げると、倉賀野は前野に背を向ける。三浦たちはこっそり移動し、倉賀野が離れていく背中を見送った。


「まあ、わかっていたことだけど」

「わかっていたことですね」

「でも、ちょっと残念」

「ちょっとだけ、ですか」

「ちょっとだけ、だね」


 倉賀野の好きな人とは、きっと天理のことなのだろう。

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