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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
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23/99

たまたま股抜き


 天理が去ったあとも、三浦はひとりで試合の成り行きを見守った。


 スリーアウトのうち、ワンアウトを取られてしまった天知。満塁で、打者は三人とも打っていた流れを崩してしまった天知。がっくりと肩を落とす天知のためにと一組の女子は張り切っていた。が、結果は振るわなかった。天知のアウトはピッチャーに勢いづかせるもので、得点は動かず。

 攻守交代をすると早速一点が奪われ、懸命に天知も守備でボールを投げるが、これまた芳しくない。なんとか食らい付いて一組が一点を返すものの、けっきょく、五対一の大差で敗北。天知たちの夏……いや春。……梅雨? は、終わった。


 声をかけようかとも思ったが、先ほどの天理の存在が脳裏にちらついた。三浦が踵を返すと、ちょうど、サッカーは二試合目が始まったところだった。

 岡部と前野の姿も見える。一年三組のサッカーは第三試合だ。いまから移動するには時間もなく、ほかのクラスメイトもちらほら見え始めていた。

 遠くでは、天理の姿も。傍らには、倉賀野の姿もある。


「倉賀野さんの様子は? 試合、いつだったんだ?」


 ふり返れば視界に捉えるだろう。校庭には大勢いるが、三浦が一目で天知を見分けるように、前野も倉賀野の姿は目が勝手に見つけてしまう。三浦は注意を引いた。


「ちょっと前に終わった。これだったぜ、これ」


 親指を立てている。下品な笑みを浮かべている。これ以上は訊かなくてもよさそうだ。


「もうバインバインだったんだからな。バインバイン。あれは絶対ノーブラ」


 な、わけがないだろう。胸も脂肪だ。支えなく激しい運動なんかすれば、ぜったいに痛い。

 訊かなかったのは意味がないらしく、訊いてもいないことを自慢げに話してくる前野に三浦は首を振った。


「結果は?」

「勝ってたぞ。倉賀野って、実は運動できるんだな」


 岡部は感心している。たしかに、三浦にもそんなイメージはない。とはいえ、できないというイメージがあるわけでもない。


「じゃ、僕たちも勝たないとだな。倉賀野さんも、観に来てるし」


 きょろきょろと辺りを見渡す前野。三浦は指をさした。校舎の足元付近に、倉賀野は佐々木と早瀬と三人でいる。


「お前ら、俺にボール、集めてくれよな」


 燃えていそうだ。


 前野の作戦では、三組の勝利は確定している。求められるのは、どう勝つか、だ。ここで前野がクラスを勝ちに導かなければ、勝っても意味がない。

 そして、密かに裏では、三浦も自分自身の作戦を動かしている。前野が求める勝ちには、自分の活躍が必須。その活躍とは、点を決めること。当然だ。スポーツとは、点を決めなくては試合が動かない。試合を動かした人にスポットは当たるもの。

 ならば、そこは譲ろう。

 点を決めた人にスポットライトが当たるとはいえ、必ずしも得点王がMVPに選ばれるわけではない。サッカーは集団スポーツで、ボールはひとつ。シュートの前には、パスがある。三浦は完璧なサポートをするつもりだ。


 倉賀野たちから視線を動かし、ソフトボールのほうへと向ける。一組の、天知含む女子たちは木陰のもと、ゴール裏の木のベンチに腰掛けている。


「光輝が点を決めないと、僕のパスはアシストにならない。絶対決めろよ」

「ふっ。お互い、頑張るぞ」


 すでに三組の男子は集まっていた。二試合目の間に、軽くウォーミングアップをしておく。その中にも、天理はいた。天理と二人一組で組んでいる男子は、急な相方の変貌にドギマギしている様子だった。やはり、彼はいつも髪を上げているわけではないらしい。彼も、この機会を活かして天知にアピールしたいのだろう。


 張り合いが出るというものだ。




 三浦たち一年三組の対戦相手は、二年六組だった。見知った顔もいた。部活の先輩だ。キャプテンとして先攻後攻を決めるコイントスの場で顔を突き合わせたが、特に言葉は交わさなかった。先輩だからといって、忖度はしない。胸を借りるつもりで、全力で挑む。先攻を選んだ。

 キックオフをするのは前野と岡部。フォワード、ツートップに前野と岡部がいる。その後ろに三浦。ボランチと呼ばれるポジションで、攻撃の起点でありつつ、守備としてもいち早くプレスをかける。攻守どちらもやらなければならない重要なポジションだ。しかしひとりではない。ボランチ、ミッドフィルダーはふたりいる。三浦にとっての相棒であり、相方なのが……天理だった。


 三浦はちらと横目をやる。


「どっちにする? 上がり目か、下がり目か。合わせるよ」


 ふたりで攻撃にのめり込めば、守備が薄くなる。防御にふたりで回れば、攻撃が軽くなる。あの仮入部のときを考えれば、まったくの素人ということでもないだろう。三浦はすくない説明で、経験者の片鱗を見せてやった。


「俺もどっちでもいい。ただ、……攻撃的だな」


 経験者をフォワードに二枚置き、その下に一枚置く。キーパーも、ディフェンスも、センスのある人はいるが、全員未経験者だ。


「攻撃が最大の防御、ってね」


 肩をすくめた。天理は頷く。


「なら、ふたりとの連携のある三浦が攻撃に回ったほうがいいんじゃないか」


 異論はなく、そういうことに決まった。

 審判が腕時計を確認し、タイマーを起動。ホイッスルを鳴らす。岡部が触り、試合は始まった。



 

 天理の言う通り、三組は攻撃的だった。超攻撃的といってもいいかもしれない。守りを捨てた、全員サッカーの全員攻撃。三浦がボールの流れを予測し、前線から刈り取る。瞬時に岡部が前野にパスを出す。シュートで終わるか、キーパーに阻まれるか、ディフェンスに取られるか。


 三組のディフェンスがセンターラインまで上がっていた。彼らにラインを上げるという意識はないだろう。ディフェンスラインも揃っているわけではない。無意識に、ボールに注意していたら足が進んでいた、といった感じだ。キーパーも、同様。ペナルティエリアを、出ている。

 それは、相手からすれば絶好の機会だったに違いない。

 どうやら、二年六組のサッカーはバランスよく経験者を割り振っているらしい。キーパーの飛び出し、シュートコースの切り方は、あからさまに経験者だった。


 前野がシュートを放ち、がっちりとキーパーが胸の前で受け止める。気のせいかもしれないが、目が合った。瞬間、嫌な予感がする。キーパーはペナルティエリアのぎりぎりでボールを手放すと、強く蹴った。急ぎ自陣に走るものの、ボールは軽々と頭上を飛び越えていく。パスではない。それは、一組のキーパーの目の前でバウンドした。

 ゴールネットが揺れた。失点だった。


「くそっ……!」


 前野が息を切らしながら悪態をつく。仲間に向けたものではないだろう。決めきれない自分に苛立ち、キーパーが直接入れるという珍しいゴールに焦っている。三浦も気持ちは同じ。遠くでは、天知のクラスメイトがあ~と残念がっている。天知は、落ち着いていた。その揺らぎない瞳に、まだ時間はあると自分に言い聞かせる。


 再度、試合は一組のボールから再開した。


 岡部はすぐにボールを下げる。三浦の足元に来る。しかし、最初の流れとは違った。相手の選手が、凄まじい勢いで迫ってくるのだ。前線から速いプレッシャーはサッカーとしては常識だが、球技大会で受けるとは思っていなかった。前野にも岡部にもパスコースはない。視界に最初に入った、天理に出す。身体が自然と動く。天理はダイレクトで返してくる。三浦の足元に、ぴたりと収まった。綺麗なワンツーだ。


 敵陣にまで切り込む。しかし、前野にも岡部にもパスコースはない。すでに対策されているようだ。両サイドにもふたりいて、それぞれパスコースはあるし出せるのだが、彼らが受け止められるか心配だ。すると、ふたたびちょうどいいところに天理が現れた。考える間もなく、三浦は彼にパスを出していた。

 天理は、前野にパスを出した。ディフェンスが貼りついているし、体勢的に無茶だとも思われた。だが、ボールはディフェンスの股下をすり抜けていった。そして、前野の足元にこれまたぴたりと収まった。


 ゴールネットは揺れる。得点だ。


「……うっし!!」


 フリーで受け、キーパーと一対一になった前野が外すはずもなかった。得点を喜び、そのアシストをしてくれた天理に駆け寄る。


「お前、すげぇな!」

「たまたまだよ」

「たまたまでも、ナイス股抜き!」


 謙遜する天理に、岡部は背中を叩いた。あれはたまたまではないだろう。狙ってやったに違いない。狙っていないのなら、相手にパスしているようなものなのだ。


 同点に戻った。イーブンならば、超攻撃的な一年三組が負ける道理はない。防御を捨てた三浦たちはなんとか一点をもぎ取る。二対一で、辛くも勝利した。


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