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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
紫月はなぜ死んだのか
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117/198

いわゆる、統合失調症


 月曜日、放課後。


 逢坂は目頭を摘まむ。疲労でいっぱいだ。頭の中にはカタカナが跳梁跋扈していて、それから馬の皮が天井から降ってくるグロテスクなイメージがあった。


「来ないよ」


 すでに日は暮れている。

 生徒の下校時刻まではまだ時間はあるが、この時間から部活に参加する人とは、いるのだろうか。


「来ないね」


 相槌は、すぐに来た。ちらと目を横にやると、天知はファッション雑誌を読んでいるようだった。表紙を覗き込んでみる。


『これで彼氏もメロメロ 冬の悩殺ファッション100選』


 だった。


 ばたん、と重量感のある音を出して閉じるのは逢坂が読んでいた本。本が読めない、文字を読むと眠くなる、という質ではない。ないものの、一般的な文庫本や教科書とは違った古めかしい形体の語彙は、読むのに一苦労する。

 天知から、古事記ぐらい読んだほうがいいよ、と言われ、実際、元神様である天知と知り合ってしまったので手に取っているのだが、読み終わるのはいつになるだろう。そもそも読み切れるだろうか。自信はない。


「そういうのって、わざわざ買わなくてもいいんじゃないの?」


 先日は冬のデートスポット100選というものを読んでいた。あのときもいまも、天知なら雑誌を購入して手に持ってページをめくるという行程は踏まなくてはいいのではないか。と、思わずにはいられない。


 天知はぱたんと軽く雑誌を閉じ、テーブルに置く。


「逢坂さんはワールドカップとか、結果だけ見ればいいって思うタイプ? リアルタイムの試合の行方とか、そういう空気感、盛り上がりとか、冷めた目で見るタイプ?」

「そもそもワールドカップとか、あんまり見ないかも」


 翌日のニュースで、ああ昨日試合だったんだーぐらいの興味しかない。


「ワールドカップってあれだよね? 四年に一度の。……あれ、それってオリンピックだっけ?」


 どうしようもないな、やれやれ、といった感じに天知は首を振った。逢坂はすこしムッとなる。


「そういう天知さんは、日本時間で夜中であっても応援するんだ?」

「わたしは結果だけ見るタイプかな」


 いったいどうしてやろうか。この拳はどこに振り下ろせばいいだろうか。

 煽りには乗っていけないぞ、と自分を戒めるようにして、懸命に飲み込んで、息を吐く。席を立ち、後ろの給茶機に紙コップをセット。冷たい水を入れる。


「もう来なそうだし、帰る?」


 この時間から部活動に参加する人はいないだろうし、そうであれば、この時間から相談部に相談しに来る人もいないだろう。ふたりが律儀に部室で待っている道理はない。


「そうだね。っていうか、何してるの? なんで来ないの?」

「なんで私に訊くの。むしろこっちが教えてほしいんだけど」

「えぇ? だって、同じクラスでしょ」


 紙コップから口を離す。何の話をしているのだろう。

 水を飲み込んだ。飲み込んでもわからなかったので、素直に訊くことにした。


「誰の話をしてるの」

「かいくんの話だけど」

「なんでいま、天理くんが出てくるの」

「ここ最近、忙しそうだから」

「気になるなら知れば……は、ダメだったか。いや、そうだったとしても、ふつうに訊いたら? 勝手に知るのがダメなだけで、訊くのはダメじゃないでしょ」


 天知しろあと天理かいというカップルは約束をしている。それは、何でも知れる、知ることのできる天知は、その全知を使って天理のことを知ろうとしないこと。しかしそれは人間としての在り方を説いているのであって、人間として至ってふつうの会話をする方法で知るのであれば、問題はないはずだ。


「なんだ、逢坂さんも知らないんだ」


 その言い方は癇に障る。


「体育祭の準備とか言ってた」

「体育祭? なんでかいくんが」

「ほら、球技大会はクラス一個単位だったけど、体育祭は各学年で三つの団に別けて、三学年合同でしょ? 私たち三組は二年三組とも三年三組とも同じ団。顔合わせとかあって、そのクラス代表に天理くんがなったの」


 小学生中学生の頃は運動会だった。あかぎ団、はるな団、みょうぎ団。それぞれ赤、青、黄に別れて鎬を削る。高校では運動会ではなく体育祭になったが、それでも団の名前、色の名前は変わっていない。

 しかし天知はまだどこか納得がいっていないようで、腕を組む。


「それは知ってるよ。でもなんでかいくんが?」

「クラス代表は学級委員。ウチの男子の学級委員は、三浦くん。でも不登校で穴が空いている。それを埋めたのが天理くん」

「だからなんでかいくんが」

「それは私に言われても」


 いつの間にかそうなっていたのだ。

 担任の佐白先生から頼まれたのかもしれないし、男子の中での話し合いがあったのかもしれないし、ただ単に押し付けられたのかもしれないし。男子の事情を、女子である逢坂が知る由もない。


「というか、学級委員なら天知さんもでしょ」

「うん。お昼休みとか放課後とか、集まりがあったりするよ」


 逢坂が部室に来ても天知が来ないときというのは、そういう事情があったりするからだろう。


「でも、にしても、部活に来なさすぎる。これは、あれか……?」


 口許はにやり。目はきらり。アンニュイな雰囲気。


「浮気か?」


 今度は逢坂がやれやれ、と首を横に振る番だ。


「天知さんとは団が違うんだから。方針も違うんじゃない? それに」

「それに?」


 言おうか言うまいか、すこし迷ったが、


「まあ、天知さんに仕事を投げられるかって言われたら、とてもとても。逆に、天理くんは都合よく扱われそう」


 一年生は下っ端だ。おい後輩、と天理には言えそうだが、天知さんに雑用を押し付けるような真似は、あらゆる勢力から反感を買いそうで誰も実行しないだろう。その差な気がしないでもない。


「たしかに。かいくん、平気で引き受けるからね」


 ふたりと付き合いが増えてきてわかったが、天理は何でも抱え込むきらいがあるし、天知は何も引き受けないきらいがある。どっちもどっちだ。


「それより私は、渡辺先輩の話をしてたんだけど」

「ああ、そっちね」


 組んでいた腕を解く。愛する天理のことを考えていたときは深刻そうだったのに、その表情からは苦慮が消え、かなり暢気だ。天知がそういう態度であるなら、逢坂も気を配る必要はなさそうだ。


「天知さんが部室に来ないとき。私がひとりだけのとき。かなり神経消耗した。五分が限界だったかも」

「わたしも同じ。逢坂さんが部室に来なかったときは、十分でギブアップした」

「いちいちマウント取らないで」


 なぜ微妙にマウントを取ってくるのか。


「あれって、……何なの? ずっと、ひとりでしゃべってるんだけど。ナツキ? で、合ってるんだよね」

「うん。名前はナツキ。漢字だと、夏に希望の希」


 そして、天知は渡辺からもらった入部届を二枚、テーブルに置いた。片方には入部を希望する部活の名前、つまり相談部と書いてあり、生徒名には渡辺美穂と書いてあり、保護者氏名の欄も埋まっている。もう一枚のほうは、相談部と書いてあるのは同じなのだが、その下には名字なしで夏希とだけ書かれてあり、保護者氏名欄も空白になっている。


「筆跡は同じ。つまりこれ、渡辺さんが夏希のほうも書いてるね」


 入部届を両方、手に取って見比べる。相談部という文字は鑑定なんてせずにも逢坂の目でも同じ筆跡だとわかる。氏名にあるとめやはね、はらいにも同じ癖がある。


「どうしてこんなことを?」

「そりゃあ、夏希って名前の生徒はいないんだから。いない生徒に署名はできない。渡辺さんがするしかない。まあ、本人にはその自覚はないんだろうけど」


 いない生徒の署名をする。


「それってつまり……幽霊、とか?」

「ちょっと違うね」


 天知は視線を天井にやった。目は閉じなかった。予め知ったことを、思い返しているのか。


「この織田高校には夏希っていう生徒はいない。ナツキはいるけど、漢字が違うし男だし三年生だし。渡辺さんの生活では関わりがない。もちろん、中学校、小学校の頃にも、渡辺さんの人生では夏希という女の子と関わりを持ってない」

「……つまり?」

「完全なる妄想。幻覚だね」


 頭を抱える。

 否定はしなかった。なぜなら、ここ二、三週間、逢坂はその渡辺とすくなからず交流を持ち、ひとり芝居をしている風景を目の当たりにしていたのだから。


「渡辺先輩、ひとりで誰かと、虚空に話しかけてた。おそらくその夏希って人も、渡辺先輩の中では私たちに話しかけてたんだろうね」


 渡辺が主体で話をしているのならば、ある程度話の流れは読めたものだが、彼女が相槌を打っているときはさっぱりだった。もしかしたら逢坂も天知も気付かないうちに、その夏希の質問は無視していたのかもしれない。


「ちょっと、怖かった」


 誰もいないのに、楽しそうに会話しているのだ。急なリアクションを取られたり、大きな独り言を言っていたり。びっくりしたし、正気とは思えないというのが、正直なところだった。

 渡辺の目も、ギラギラしてたり焦点が合ってなかったりした。ふたりきりで狭い部室は、五分が限界だったのだ。


「わたしたちでさえ、これ。一週間に多くても三日、放課後の一時間だけでこれ。朝から放課後まで、六時間もあんな状態の彼女と一緒のクラスメイトは、それはもう、迷惑だっただろうね」

「う、ん……」


 歯切れ悪く頷く。

 迷惑、という言葉にはすこし引っかかりを覚えるが、ほかに適切な言葉は? と言われるとちょっと困るので、歯切れ悪く頷くしかなかった。


「だからクラスメイトが相談にやって来た」

「ちょうどそのタイミングで本人が来たのはびっくりしたけどね……」


 渡辺と同じクラスの男子が、クラスメイトの女子がデカい独り言を話していたり、急に叫び出したりと奇怪な行動に出ているのだがどうしたらいいか、と相談があった。担任には話したようだが、そっとしておいてあげなさい、としか言われなかったらしく、このままではいじめにも発展するのではないか、と危惧していたのだ。


「まあ、天知さんがまさか入部を許可するとは、もっと思ってなかったけど……」

「一緒にいるのが誰なのか、何人なのか、どんな名前なのか知るにはいい手段だと思ったの。それに」

「物的証拠、揺るぎない事実、でしょ?」


 天知のやり口はわかっているつもりだ。言うと、天知もこくりと頷いた。


「この入部届の筆跡は同じ。鑑定してもいい。目の当たりにすれば、渡辺さんは自分で夏希の入部届も書いた、と自覚できるはず」

「じゃあ、あの廃墟での写真撮影も?」

「うん。渡辺さんは、わたしと逢坂さんと渡辺さん、それから夏希の四人でいると思っていた。でも、この通り」


 しっかり現像し、日付時間も右端に記入された写真を、天知は見せつけてくる。


 土曜日に廃墟を訪れ、何の変哲もない水面に浮かぶ睡蓮の葉と、木々とにわかに感じる陽光の風景画。その前に、逢坂、天知、そして渡辺の三人だけが映っている。もちろん、夏希という人は映っていない。配置を指定したのは渡辺で、夏希のためにもちゃんとスペースを空けたはずなのに、映っているのは三人だけ。


「逢坂さんが頑なに、肝試しと同じ状況にしなかったのも、これが理由だね?」

「……まあ。だって、肝試しは四人なのに、私たちは三人だよ? 同じ条件にしないと結果が、なんて言うけど、だったらもうひとり必要。そもそもひとりだけで行くなんて。天知さんが行ったら私は渡辺先輩と夏希と一緒になる。あの廃墟でそれは無理」


 反対に、逢坂がひとりで廃墟の最上階、最奥を目指すのも無理。渡辺先輩が向かえば、夏希がどうなるのかがわからない。


「二手になるのも正直、反対だったんだけどね」


 渡辺は四人で、自分は夏希と一緒だと思ったのだろうが、その夏希はいないのだ。渡辺が転倒しても逢坂たちは気付けない。


「っていうかさ」

「うん?」

「あの話、なに」


 ジトッとねめつける。天知はこてん、と可愛らしく小首を傾げる。天知の本性を知っている逢坂にそれは通じない。


「廃墟の心霊現象。幽霊がいないことを確かめてくれ。なにがこだまよ。なにが音の反射数よ。とんだペテンじゃない」


 さて何のことでしょう、と反対側に小首を傾げる。つぶらな瞳だ。しかし逢坂には通じない。


「本当は、そんな相談自体、なかったんじゃないの」


 圧をかける。威圧に威圧を重ねる。やがて、


「……てへっ」


 天知は自分の頭を小突くようにした。


「はぁ」


 と逢坂は背もたれに寄り掛かる。


「でもよかったよ。逢坂さんの低い声。面白かったよ」

「最後が本音でしょ。それって滑稽って意味でしょ!」


 思い返すだけで恥ずかしい。顔から火を吹きそうだ。

 あの晩、渡辺とおそらく夏希が一緒になって階段を降りていって、下から叫んでもらった。渡辺の叫び、天知を呼ぶ声は、たしかに反響して何重にもなって四階の逢坂のもとに届いた。そこで、終わった。


『……おーいなんて、ないじゃない』


 しかし、天知が終わらなかった。


『いまだよ逢坂さん。おーいって。限界まで低い声で。野太い声で。腹の底から!』


 などと要求されたのだ。


『え? え?』

『早く早く!』


 困惑する逢坂だったが、急かされれば言うしかなかった。結果、なんとも不細工な野太い声を披露したのだった。


 渡辺が聴いたという幽霊の声、天知が言ったこだまの正体とは、逢坂でしかなかった。


「しかも一階に降りてからまたやるし……」

「でもそのおかげで、渡辺さんは信じたでしょ?」

「面白がってただけでしょ!」


 あれはこだまです、と自信満々に力説したあとに、疑うならもう一度どうぞ、なんて自信満々に言いのけた。そりゃあそうだ。なぜなら、天知は頃合いを見計らって、録音を流すだけだったのだから。

 渡辺が四階に注視しているのをいいことに、恥ずかしくて耳を塞いでいる逢坂を、嘲笑ってきた天知。逢坂はあのサディスティックな顔が頭から離れない。

 身体の内側、顔から火が出そうなほど熱を孕んでいるというのに、身体は寒気に襲われた。両腕を擦っていると、となりにはあのサディスティックで狂気な笑みがあった。手に持ったスマホをタップすると、


「おーい……」


 と、逢坂の不細工で野太く腹の底で唸る声が響く。


「いやぁああ!」

「あははは!」


 首をぶんぶんと振る。どんな幽霊よりもこれのほうが何倍も恐ろしい。


「これは永遠に残しておこう」

「いつか絶対に仕返ししてやるから」

「かいくんにも見せてやろう」

「最悪……」


 机に頬を乗せ、しくしくと涙を流す。甘々なカップルの一時のお笑い種になるなんて。


「……今回は丸っきり嘘で、肝試しに行った四人組も、幽霊がいないことを確かめてくれっていう相談もなかったわけだけどさ、私がいないときに相談を受けることってあるの?」

「ないね」

「そう……」


 喜んでいいのかよくわからないが。


「相談部だからね。わたし個人の問題じゃないから。勝手に引き受けたりしないよ」

「そう……」


 それも、信じていいのかもよくわからないが。


「だからさ、逢坂さん」

「ん?」

「今後、ああやって質問責めしないでね」

「質問責め?」

「うん」


 いつ、どこの、何について言っているのだろう。すぐには出てこない。


「わたしが渡辺さんにその幽霊相談の件を話しているとき、逢坂さんが執拗に質問責めしたでしょ? あのときから疑ってたんだと思うんだけど」

「まあね」


 どこがおかしかったか、と言われると、天知が相談を引き受けたこと、としか言いようがないのだが。


「渡辺さんは入部したばかりだから、相談部がそれ以前の引き受けている案件を知らないのは当たり前。でも逢坂さんまでが知らないってことになったらおかしいでしょ?」

「……そうなのかな」

「そうなんだよ。幸い、渡辺さんはそこら辺を突っ込んでこなかったからよかったけどさ」

「なら突拍子もない作り話しないでよ」

「かいくんなら上手く立ち回れるんだけどなあ」

「天理くんと一緒にしないで」


 天理ほど天知のことは知らないし信用もしていないし愛してもいない。彼氏が彼女を想うのと、友達が友達を想うのとではわけが違う。しかも天知しろあとはふつうの人間でもないのだから。


 駄弁っていても終ぞ、渡辺が部室に訪れることはなかった。天知は入部届二枚と写真を手元に手繰り寄せる。ふと、逢坂は思った。


「天知さんはそれをどうするつもりだったの? 渡辺先輩に突き付けるつもりだったの?」

「それはちょっと、リスクが高いかな。たしかにこの写真は渡すつもりだった。でも、突き付けるつもりはない。三人しか写っていないぞ、夏希なんていないぞ、お前の見てるものは幻覚だ、なんて言うつもりはない。それは渡辺さんの世界を否定することになる。危ないことだ」


 とんとんと端を揃えて丁寧にカバンに仕舞い、雑誌も仕舞い、


「わたしたちのことも敵として見るようになってしまう。妄想、幻覚は渡辺さんが作っている。つまり、夏希は渡辺さんにとって都合のいい甘い言葉を囁く。そうしたら、より妄想の世界にのめり込んでしまう。せっかく、わたしたちとはいい感じの関係を築いているのに」

「じゃあ?」

「反応を見るため、かな」

「反応を?」

「うん。三人しか写っていない写真を、わたしたちは何も言わずに見せる。それをどう解釈するか。夏希の姿もそこに見出すのか、はたまた現実を受け入れるのか。入部届の筆跡については、渡辺さんが現実と妄想を区別してから見せるのでいい。手札はいくらあってもいいからね。そのためにいまは、あらゆる手札を増やしている段階なんだよ」


 今日、渡辺が部室を訪れても、天知は戦うつもりはなかったらしい。彼女の言葉を素直に受け入れるなら、渡辺の件は長期戦を念頭にしている。


「驚いた」


 だから、素直に驚いてしまった。


「は?」

「だって、天知さんなら面倒くさいって言いそうなのに。こんな長期的に他人に時間を費やすとは。……驚いた」

「わたしを何だと思ってるんですか」

「天理くんのことしか考えていない脳内ピンク」

「失礼な!」


 首を傾げる。

 失礼だろうか。そこまで間違っているとは思えないのだが。


「単純な話、長期的って言ってもそこまで長引くことはないって思ってるだけだよ。渡辺さんの妄想は再発に近いからね。自分の勝手な判断で薬を飲まなくなっただけで、飲んでれば妄想は見ないし、見ても妄想だって区別ができてる」

「……ふうん。だからクラスメイトはこんな時期に相談しに来たんだね」


 なぜ、二年生の二学期も後半のこの時期だったのかが、すこし不思議だったのだ。常日頃から妄想を患っていたなら、もっとうわさにもなっただろうし、逆に配慮もあっただろうし。


「うん。渡辺さんが再発したのは、ここ一ヶ月の話だからね」

「再発再発って言うけど、渡辺先輩の妄想って、病気なの?」

「いわゆる、統合失調症」

「ああ……」


 病名なら、聞いたことはあった。

 


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