この世界は本物なのか?
翌朝、日曜日。
睡眠時間としては変わらなかったけど、日を跨いでからベッドに入ったので、目が覚めたのはお昼前だった。
枕元にあるスマホに手を伸ばす。逢坂さんから、
『よかったです』
『こっちもいま着きました』
と、短く返信が入っていた。既読だけつけて、私は自室をあとにする。
昨日はシャワーも浴びずに寝てしまったので、まず初めにシャワーを浴びて目を覚ました。それから、スマホでこの近辺の女子高生が行方不明とか発見とか何かないか検索する。もちろん、ヒットしなかった。
「お母さん」
「ああ……おはよう」
テレビが虚しく点いているだけ。お母さんはテレビも見ずに、私のことも見ずに、頭を抱えていた。
喧嘩中だからか。謝ろうと思っても、なかなか、言葉には出ない。私は自分の欲求ばかり口に出してしまう。
「なにか、夏希のこと、警察から連絡あった?」
「ないわよ」
「そっか……大丈夫だよね?」
「……さあね」
しかし、さあね、とはないだろう。もしかしたら何か事件に巻き込まれているのかもしれないのだから。
あまりの無関心ぶりに、私はムッとした。
「ねえお父さん。ちょっと廃墟まで」
お母さんがダメなら、お父さんだ。お父さんなら私の味方をしてくれる。昨日のことも、お母さんが話しただろうから夏希のことも知っているはず。しかし。
「……いい加減にして!」
いきなり、お母さんは声を荒げた。何の前ぶりもなく、テーブルに拳を叩きつけて、頭を掻きむしって。おかしくなってしまった。意味がわからなかった。怖かった。
「ちょっ……お母さん? お父さん、お母さんどうしたの」
「だからそれをやめてって言ってるの!」
「……えぇ? お母さん?」
お母さんがここまで怒っているのは、見たことがないかもしれない。近寄ろうとして、
「どこにお父さんがいるのよ!」
どくんと心臓が跳ね上がった。
「お父さんは……ずっと前に死んでるでしょ!」
「……は?」
何を……
「だって……」
そこにいる……
でも、いなかった。数秒前まで朝ご飯を食べていたはずなのに、いなかった。いなくなっていた。
「美穂、お母さんと約束したでしょ? なんで、なんで薬飲まなくなっちゃったのよ……!」
「く、すり……?」
そこで初めて、私はお母さんが啜り泣いていることに気付いた。
ふらりとよろめきながら、お母さんは二階へ上がっていく。私の部屋へ入っていく。止められなかった。
ゴミ箱から、私の名前が書かれた処方薬を取り出した。
理解が追いつく前に、お母さんは、お母さんとお父さんの部屋に入っていって、それから、箱を持ってくる。
「お父さんはこれ。これがお父さんよ。変な友達とか変な部活とか、いろんな人に迷惑かけて心配かけて……いい加減にして……!」
汗が溢れてくる。
何を言おうか、何を言えばいいか。
じゃあ、私が見ていたお父さんは何だったのか。幽霊? 夢? 妄想?
いや、だったら、このお母さんが本物だって証拠はどこにある。これはお母さんなのか? 交番に迎えに来てくれたのは、本当にお母さんなのか?
そう思うと、この家に、一分でも一秒でも、いたくなかった。
「……ちょっと美穂!」
私は、裸足で、スマホだけ握りしめて、家を飛び出した。
夏希の連絡先を探す。探す。……探す。
「はぁ、はぁ……」
視界がぼやけてきた。
お父さんが死んでいる? 変な友達? 夏希もいない? じゃあ、何が本物なんだ? まさか、あの部活動も、私の妄想?
どこが妄想で、どこに現実はある。私は本物なのか? この世界は本物なのか?
トーク欄では逢坂さんが、次いで天知さんが最新として上がっていた。ふたりに連絡したい。でも本物かわからない。ふたりも、私の単なる妄想だったら? ふたりが、夏希を知らなかったら?
私は、どうしたらいい。
大きなクラクションが鳴る。強い衝撃は、現実だった。




