だったらお母さんも関係ないでしょ
高校の人と週末に会うというのは、思えば初めてのことかもしれない。ともすれば、制服以外の服を見せるのも見るのも初めてのことだろう。
長袖と長ズボンで肌の露出を抑え、秋本番の夜が冷えないはずもないので、アウターも羽織っていく。一度、鏡の前で確認した。オシャレではなかった。このクリーム色のアウターも中学の頃のものだし。
天知さんや夏希はいわゆる女の子っぽいふわふわした見た目をしているので、かわいい服装や女の子っぽい格好が似合うだろう。逢坂さんもスタイルはいいしどちらかというと美人の部類に入るので、何でも着こなせる感じがする。
面子を思い浮かべる。あの三人と一緒にいる自分を思い浮かべる。明らかに自分だけ劣っている。
あとでちゃんとした服でも買いに行こう。夏希に見繕ってもらうのでもいい。
トートバッグにはスケッチブックとノートブック、それからペンケースを入れる。廃墟は行ったことがなくて怖いけど、ポジティブに考えれば漫画の資料になる。気晴らしにもなるかもしれない。本腰を入れてスケッチはできないだろうけど、取材としては持って来いだ。
あとはふつうに必需品としていつもの荷物を入れて、私は階段を降りた。すると、耳聡い。お母さんがリビングから顔を覗かせる。
その出で立ちというか顔つきというか、雰囲気からなんとなく、何を言うかわかった。だから私もこうして黙って出て行こうとした、っていうのもあるんだけど。
「どこに行くの。こんな時間に」
誰でも言う。たぶん私でも、お母さんがこんな時間に家を出て行ったら気になる。小学生なら平気で寝る時間と言われている時間帯、大人でも明日に備えてベッドに入る時間帯に、高校生の私が家を出ようとするのだから、止めるのが母親というものだろう。
「ちょっと部活があって」
「こんな時間から?」
「漫研じゃなくてね。新しく入った相談部っていう部活なんだけど……」
「なにそれ。聞いてないんだけど」
そりゃそうだ。言ったらダメって言うに決まってるし、最悪、また部屋に鍵もかけられてしまう。
「相談部ってのは相談を受ける部活で、その相談もこの時間じゃないとダメなんだよ」
「そういう話をしてるんじゃないの。とにかく、ダメよ。こんな時間に」
面倒くさいなあ。高校生は大人じゃないかもしれないけど、子どもでもないのだ。好きにさせてほしい。
「ねえお父さん~!」
私はリビングにいるであろうお父さんを呼んだ。お父さんなら味方になってくれる。案の定、
「まあ、高校生の頃はそんなもんだよ。父さんだって昔は無断で家を出て」
私を援護するようなことを言ってくれる。
しかし、お母さんは最後まで聞かずに、叫んだ。
「いまお父さんは関係ないでしょ!」
ポカンとしたし、急に怒り始めちゃうし、白けたし、私の心情を正しく言い表すとしたら、
「なにそれ」
だった。
なんでいきなりそこまで怒り始めているのか、沸点が訳わからない。お母さんは最近、よくこういうことがある。私が漫画を描くことだってあんまりいい顔をしないしいい思いもしていないし。
娘が今日のことを話さなかったことも、こうやってコソコソ抜けだそうとしていることも、自分が原因であるとは考えないのだろう。
そもそも、お父さんが関係ないとはどういうことだ。支離滅裂過ぎる。とにかく私を縛り付けたいだけの暴君だ。
「だったらお母さんも関係ないでしょ」
私は吐き捨てるようにして言い残し、玄関を出た。
「あ……」
その顔が反省から来るものなのか、自分が可哀想だと被害者に浸っているのか。たぶん、後者だろう。
玄関を出ると家の前には夏希がいて、白い息を吐きながらにこりと笑ってくれた。
「ごめん、お待たせ」
「ううん。いま来たところだから」




