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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
三人なら
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23ページ

 僕は今日も美しい。

 だってプリンスなんだから。


「君は、どうしようとしていたんだ」

「どうって、何が?」


 世界で一番愛しい人が、目の前で歪んだ顔をする。

 頼りないタレ目が、今は殺意でも持っているかのように強く、そんな瞳で僕を見つめてくる。

 怒った彼女すら愛おしい。

 だって、僕の為にそんな表情してるんだから。

 僕の事考えてくれているんだろ? それだけで十分幸せさ。


「そんな怖い顔して、どうしたのバタフライちゃん」

「質問に答えろ、あのまま、君はあの女を……」

「散らそうとした。それがどうしたの?」

「何故だ!!」


 彼女は僕の胸ぐらを掴み、殺意でも持っているかのような目は、悲しみの色を見せた。


「大丈夫かぃ? 頬がほら、濡れているよ」


 そのまま彼女の頬を涙が伝う。

 その涙を僕は指ですくう。

 すくった涙は美しく、どんな宝石よりも綺麗だ。


「――約束したじゃないか」

「約束? ごめんね。君との思い出はどれも素敵で、どれかわからないよ」

「ふざけるな! わかっているだろ!!」


 彼女は僕の手を振り払い、大きな声でそう叫んだ。

 こんなにも彼女が必死なら、僕もしっかりと話を聴き、答えてあげよう。

 思い出話はあまりしたくないんだけどね。


「僕が、黒木恵愛を完成させるって約束かな?」

「その時に、僕はちゃんと言ったよな」

「ふふっ」

「何がおかしい」

「だって、バタフライちゃんってば、学校の先生みたいだよ」

「君が守らないから、僕はこうして言うんじゃないか」

「そうそう、守らないからなんては口実で、本当は従わないから腹が立つんだよね?」

「従わないって、僕等は平等な関係だ、従わせようなどと思っては」

「じゃあ、なんで止めるの?」

「君は人間を分かっていない」

「分からないなぁ。僕どこから来たかも分からないし、人間なのかも分からな――あ、違うよ。ここだ」


 僕は左の人さし指を伸ばし、彼女の心臓付近を示した。


「――ここだ。君の心から生まれた」

「どこから生まれようと、君は今人間界に居る。君は黒木恵愛として息をして、心臓を動かし生きている。紛れもない人間だ」

「認めてくれるんだね? あぁ、君はやっぱり優しいね。ありがとう。自信なかったんだ、人間になれてるんだね僕」


 人間だと言われた事がとっても嬉しくて、彼女を抱きしめようとしたら後ずさりをされてしまった。


「バタフライちゃん?」

「人間は」

「うん」

「人間はそう簡単に、同じ人間を殺そうとは思わない! 君には情がないのか? 死への恐れは? 目の前で散る人への悲しみはないのか⁉︎」

「ないよ。あぁ、人と言う花ではなく、植物の花が散ってしまうのは、悲しいけど」

「――君は人間なのか? そんなの、そんなのは、正気じゃない」


 正気じゃ、ない?


「ふふ、あははははは!!」


 何を言うかと思えば、正気じゃないだなんて。

 僕を笑わせる為に言ってくれたのかな? ありがとう。

 僕今すごく愉快な気分だよ。

 やっぱり彼女は迷えるバタフライで、何もわかっちゃいない。

 彼女は僕が笑った事でびっくりしたのか、言葉を失った。


「はははは、あー、ごめんね。とってもおかしいから。笑わせてくれてありがとう」

「何も、何も笑うような事は」

「正気じゃないって? 当たり前だよ」


 彼女に一歩近づいて、顔を見つめた。

 純心と言う白を、真実と言う黒で汚す。

 元々黒なのに、自分は、自分だけは、白だって言いたかったのかな? 信じたかったのかな?

 おかしな話だよ、本当に彼女はいつまでも予想通りの身勝手なクズ女で、僕を笑わせてくれる。

 困ったバタフライちゃんだ。

(そんな君には、絶対に僕が必要だろ? 完璧なこの僕が)


「だって、君が正気じゃないんだから」

「……」


 彼女は目を見開き、そのまま動かなくなった。

 僕の目をただ見つめ、その目で僕に訴えてくる。

 "違う、僕は君と同じじゃない"

 きっと真実を受け入れられないんだね、元々君は人間だから。


「その顔。信じられないって顔、真実を告げられても尚、まともだと、人間だと信じたい顔。憎らしい。とても散らしたくなる」

「ならば、いっそ君の手で、僕を散らせ」

「うふふ。安心して良いよ、僕のプリンセス」


 僕はそのまま彼女を優しく抱きしめ、髪に口付けを落とした。

 彼女は嫌がりもせず、ずっと動かない。


「どんなに憎らしくても、世界でたった一人の愛すべきプリンセスだからね。それに、僕と君は同じなんだから、イタズラに散らすなんて、そんな愚かな事したくないんだ」

「……僕は、いつ散ろうと構わない」

「そんな事言わないでおくれ、かわいい君よ。僕が一人になってしまうだろ? 一人は嫌だよ。誰も僕の事理解出来ないなんて、辛いよ。それに、君がもし居なくなってしまったら、黒木恵愛は……どうなるかな」


 彼女は急に僕の胸を押しのけ、手を伸ばし、その手で僕の顔を抑え、見つめてきた。

 真剣な瞳が、必死さを物語る。


「君は、何の為に生まれたんだか思い出せ!! プリンスに、黒木恵愛を、プリンスにするために――」

「違うよ」


 あれ? もしかして彼女は最初から勘違いしていたんじゃないのかな?

 何を言うかと思えば、都合の良い事を今更吐くなんて。

 記憶喪失にでもなってしまったのかな? ごめん、流石に笑えないや。

 流石僕の憎むべき女の子供。


「――お前は、過去の記憶からも逃げるつもりか? いい加減にしろ」


 そのまま彼女の首を左手で掴み、床に押さえつけた。


「ぐっ……」

「そんな綺麗な感情から生まれたらよかったよな。でも違うんだよ。僕はね、お前の憧れと負の感情から生まれた。全てを勝手に背負わされて生まれたんだよ!!」

「そんな……だって君は……あの時」

「騙したんだよ」

「え?」

「僕は君の理想像から生まれたプリンスって言って、お前を騙したんだよ。最初は綺麗なプリンスだったさ、でもね、お前が僕を妄想すれば妄想する程に、お前は現実から逃げ出し、全てをプリンスに任せたいと思うようになった」

「……」

「逃げ出したい、プリンスに全てを任せた負の感情で、僕は汚れていった。でもね、僕はその感情を知っても尚、体が欲しかったから、お前を騙した」

「どうして……」

「そんなの、お前だって分かってるだろ?」

「わから……ない」

「あんなに焦がれていたのに? 勝手な奴だなお前は。分からないなら教えてやる」


 彼女の首から手を離し、胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「プリンスとして、僕の素晴らしさ、かっこよさ、美しさを具現化したかったからだよ! 認められたかったからだよ!!」

「……ごめん。僕も、僕もそう思っていた。でも、あの家の娘じゃなれないって気づいて、僕は、そんなの、受け入れたくなくて……諦めたくなくて」

「でもお前にはそれを覆せる程の度胸も力もなかったわけだ。情なんて物があるから自由を妨げられるんだよ。弱い! だから馬鹿にもされる! だがこの僕は違う。馬鹿にされてたまるものか、素晴らしいプリンスの僕を、馬鹿にしていい筈がないだろ!! だから見せつけてやるんだ」

「――そうなったら」

「え?」

「そうなったら、君は人間になれるのか?」


 人間になれる?

 彼女はどうして今更そんなことを言うのか。


「まともな人間に、それでなれるのか?」

「人間にしたいのかぃ? 残念だけど、僕は人間にはならないよ」

「何故だ」

「ずっと、君と一緒に居たいからね」


 こんな人間じゃない僕がちゃんと人間を振る舞える様に、これからもちゃんと見ていておくれ、バタフライちゃん。

読んでくださりありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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