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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
三人なら
22/33

番外編、青葉崎の秘密

「はい、これ落としたよ。大丈夫かぃ? かわいい君よ。僕も拾うの手伝うよ」


 やっと会えた、私のエンゲージ。


              ***


 私青葉崎華蓮は今年で三年生。

 最上級生であり、風紀委員長の私が、皆さんのお手本となるよう清く正しく美しくをモットーに、また一年美しく過ごしてみせましょう。


「あ、青葉崎」

「はい、先生。どうなされましたか」


 風紀委員顧問の先生に呼び止められ、私は少しイラッとした。

(あぁ、どうして男なんですの? 私は男が大嫌いなのに。美少年ならまだ地を這う虫くらいに思えますけど、それ以外の男はクズです)

 私は幼い頃から美しいものだけを見てきて、美しいものだけを与えられてきた。

 青葉崎家のお嬢様であり、跡継ぎである私はいつもは可憐に振る舞いますが、内心は美しくない者には女だろうと男だろうと近寄られたくも話しかけられたくもないのです。

(女の方が目に映しても嫌気はささないので、まだ価値がありますわ。まあ雌豚ですけれど)


「このプリント、風紀委員室に持っておいてくれ」

「はい、かしこまりました」


(うわ、こんなにたくさん……。レディにたくさんの荷物を持たせるだなんてほんっとにこの者はクズですわ)

 心で文句を言いながらも、私は風紀委員室を目指しました。

 今日は新一年生が入学した日でもあるので、制服の胸元にバッチを付けた方がたくさん。

 まあ、美しくて特別、みたいな方は全く居ないんですけどね。

(ん? なんですのあの雌豚共の群がりは。廊下のど真ん中で邪魔くさい)

 これは邪魔くさいし何より私は風紀委員長。

 注意をしなくてはなりません。

 私は前に見える雌豚共の方へと足を進めました。

 だんだんと近づいてわかったのですが、雌豚共の真ん中に誰かがいます。

 私は身長が百七十七cmあるので、上からその人が見えました。

 その人はくせっ毛なのでしょうか、サイドの髪がとても跳ねていて、襟足だけ長い。

 髪色は濃い紫で、スタイルが良くて、顔はとても美しいのですが、ワイシャツは黒でネクタイは青。

(男じゃありませんか! けがらわしいこと)


 注意をしようとした瞬間に、その綺麗な人が、女の子達に笑顔を向けたのです。

 その笑顔は、私の知っている、懐かしくて、そして狂おしい程に求めていた笑顔でした。


「……恵愛、さん?」

              ***


 青葉崎華蓮、八歳


「あやめちゃん、この子は青葉崎華蓮ちゃん。青葉崎家の娘さんよ、ほら御挨拶して」

「こんにちは、くろきあやめです」


 その人を一目見て、とても可愛いと思った。

 濃い紫色の美しい長髪に、ピンクの着物がよく映える。

 そして白い肌がより彼女をお人形さんのように見せた。

 そんなかわいい恵愛さんと私が初めて出会ったのは、名家が集まるパーティ会場での事でした。


「わぁー、かわいいね! かれんはね、あおばさきかれんっていうの! かれんはせかいでいちばんかわいくて、てんさいで、とくべつなそんざいなの。よろしくね、恵愛さん」


 妹が出来たようで、そしてなにより可愛くて、私はそのまま彼女に抱きつきました。


「あはは」


 彼女の笑顔は、とてもかわいくて、美しい物でした。

 私は幸せでした、だってこれからはここに来れば恵愛さんに会えるのだから。

 特別な私は、特別にかわいくて美しい彼女に会えるのだから。


 けれど、それ以来私は彼女に会うことはありませんでした。

 そうです、彼女はパーティに出席しなくなったのです。

 私と恵愛さん、特別な二人が出会ったのは運命だと思ったのに、それは私の勘違いだったのだと、彼女の事は忘れよう。そう思いました。

 けれども私は忘れようとしても、必ずパーティに出席する度に、彼女の姿を探してしまうのです。

 今日は会えるかもしれないと、期待をしてしまうのです。

 その気持ちは一年経てども、二年経てども、高校生になった今でも、変わることはありませんでした。

 年齢を重ねれば重ねる程に、私は恵愛さんに会いたくなり、彼女が欲しくなりました。

 特別な彼女へ抱くこの感情が恋だと気づいたのは、小学校高学年の時でした。


              ***


(それから私は恵愛さんの事を思っては、恵愛さんもきっと特別な私の事が忘れられなくて、同じ気持ちなんでしょうねと思っています。ああ! かわいい彼女をこの腕で抱きしめたい! そしてキスをして、愛していると告げて、そのまま私の物にして私の愛と存在をその体に刻みつけたい!)

 そうです、そんなことを思い続けた結果、こうして今再開できたのです!

(私達はやはり運命で繋がっていて、エンゲージで結ばれているんですね! あぁ、今すぐにでも彼女が欲しいです)

 恵愛さんと再開出来た嬉しさとそんな事を妄想していた私は手にプリントを持っていると忘れていたので、その場にばらまいてしまいました。

(きやぁ! プリント持ってたんだわ、私ったらなんて失態を)

 そのままばらまいたプリントを拾っていると、だんだんと足音が近づいてきました。

 そしてそのまま私の元に影がさしたので上を向きました。

 目の前には、綺麗な男の人、いいえ、恵愛さんの顔。


「はい、これ落としたよ。大丈夫かぃ? かわいい君よ。僕も拾うの手伝うよ」

「え、あ、ぁ……」


 髪型も、顔も、更には格好も、あの頃とはまるで違っていました。

 顔は整っていてきりりと男の様で、あの頃は白かった肌は今は白というよりかはオレンジ寄りに少し焼けた肌。

 男の様に低いけれど、それでもその中には美しさがあり、吐息混じりの色っぽい声。

 長くて細い指には指輪がしてあり、左手にはブレスレットまでしてある。

 黒のワイシャツに青のネクタイ、ボタンが第二ボタンまで空いていて、そこからのぞく鎖骨にたまらなく触れたくなる美しさ。

 更には香水をしているのか、彼女からはふわりといい香りがした。

 下はスカートではなく男子用のズボン。


(こっ、これが、恵愛さん⁉︎ ど、ど、どうしたんでしょうか、あの頃とは全くと言っていいほど違いすぎます)


 プリントを拾いながら、彼女の全身をくまなくみていたら、目が合いました。


「あ」

「ふふっ、どうしたの?」

「あ、い、いいえ。あなたは、一年生なんですね」

「え? うん、そうだよ。僕は今日入学したんだ」

「ようこそ。我が学園に」

「ふふ、ありがとう。かわいい君に祝福されるなんて、僕は今日も幸せだな」


(ええ! そうですよそうですとも。私がかわいいなんて当たり前ですわ。だってずっとそう言われてきましたもの。それに私は青葉崎の人間ですから特別にかわいくて美しいんですの! はぁ……やっぱり恵愛さんは私の事)


「はい、これで全部かな? それにしても、女の子にこんな沢山プリントを運ばせるなんて、Nonだね」

「ひ、拾ってくださって、ありがとうございました」


(あぁ、恵愛さん、恵愛さんだと思うのですが、ど、どうなんでしょうか……姿を見れば見るほど、あの頃とは違くて、不安です)


 あ、そうです。

 私が自己紹介したらきっとそちらも名乗ってくれるはず。


「そういえば、私名を名乗っていませんでしたわね。私の名前は青葉崎華蓮と申しますわ」

「華蓮。とても綺麗で、君にぴったりの名前だね。初めまして、僕の名前は黒木」

「黒木、なんですか?」

「え? 名前なんてどうでもいいじゃないか」

「黒木なんですの?」

「知りたいの? はぁ……しょうがないなぁ。初めまして、僕の名前は黒木、黒木恵愛。よろしくね」


 黒木恵愛と聞いた瞬間に、やはりエンゲージなのだと確信しました。


(恵愛さんだわあぁぁぁ! やっぱり、笑顔は変わっていませんでしたもの!)

 けれど「初めまして」とはどういうことでしょうか。


「黒木恵愛って、黒木家のお嬢様ではありません事?」

「へぇ、どうして知ってるの? あ、君はうちの花が好きとか? それとも生け花でも習ってるの?」


(もしかして、覚えて……ない?)


「私は青葉崎家の人間ですから、名家の人はわかるのです」

「君もそういうめんどくさい家に生まれた人間だったの? ごめんね、僕そういうの興味がなくて、誰が名家の人だとか、名家の名前すら知らないんだ」

「知らないって、貴女は跡継ぎ娘では?」

「あ、でも君さ、お嬢様って感じとてもするね。綺麗だし、気品がある。君には水仙が似合うよ」

「水仙? もっと大きくて、派手で、目立つ花がいいですわね」

「いや、君には水仙が似合うよ。青薔薇のプリンスである僕がそう言ってるんだから、間違いないよ」


(あ、青薔薇の、プリンス? え、あ、も、もしかして、性転換手術をしてしまっているのですか⁉︎ いやあぁぁぁぁ‼︎ 恵愛さん、恵愛さんはかわいい女の子です。男になんてならないでぇ!)


「それより、あなたは、おと、こ?」

「え? はははは。そんなわけないだろ? 僕は女だよ」

「よかった……」

「え?」

「な、なんでもありませんの! それでは、私急いでいましたのでこれで失礼致します」


 私は急いでその場を後にしました。

(違う、違う違う違う! 今の彼女は、私の知ってる、私のかわいい恵愛さんじゃない。どうして? どうしてあんなお姿になってしまったの。何かそうしていなければならない、偽っていなければいけない理由があるんですか? 本当の貴女を、かわいい貴女を、私は知っていて、愛しています。だからね、恵愛さん、大丈夫なんですよ? 今すぐにでもその格好も振る舞いもやめて大丈夫なんですよ⁉︎)

 決めた、決めました。

 私のこの手で恵愛さんにあの格好も振る舞いもやめさせれば良いと。

 私が偽りの恵愛さんをやめさせて、助けてあげれば良いのだと。

 私は風紀委員、彼女がああして女の子を連れて歩いていれば確実に邪魔だし、風紀が乱れます。

 それを注意する名目で、その格好やめてください、女の子になってくださいと言い続ければ、きっと彼女は本当の自分に戻ってくれるはずです。

(私の事を覚えていないのは、残念でしたが、これからその身に刻みつければいい。これから新たな愛を育めば良いのです)


 これからの学園生活を思うと、百合色で素晴らしい。


「うふふ、絶対手に入れて見せます。貴女の全てを」


 ですがそれから、私は体調を崩し一年程学校を休学しました。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければブックマークや評価や感想やいいね等お願いします。

次回もお楽しみに。

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