影
あれから数日後。ミシェルは宿の食堂にてリュウセイ、セラ、ジェズと共に朝食をとっていた。正面に龍星、左右にセラ、ジェズが座る形だ。窓に近い席だからか、声をかけ合い建物を修復する大工や村人達の姿が見えた。
「町の直り…早いですね」
「そりゃ、屈強な奴らも多いし、慣れてるからな」
「数年前…でしたっけ?結界をすり抜けちゃうモンスターも多かったみたいですしねー」
のんびりとした空気の中、会話する。すれ違い合う中には、宿にいるミシェル達に気が付き、笑顔で手を振る人たちもいる。
「それで、結界はどうなったんだ?番人さん…リュウセイさんの方がいいのか?」
「リュウセイでいいですよ、僕には敬語?というものはあまり意識をしないですしね」
皆の視線を受け、青い髪を揺らしながら彼は、リュウセイは答えた。傷もなく、元気そうにニコニコしている。
「結界は、ミシェルのおかげで僕なしでも百年は持ちますよ。ただ、高ランクのモンスターが10体以上も結界を叩いたならばどうなるか、わかりません」
そう言ったリュウセイは、ミシェルを見て、さらに笑みを深めた。
「…私の力もほぼ戻ってます。問題なければそろそろ外に出たいですし」
ミシェルの言葉を聞いたジェズとセラが顔を見合わせた。
「どうしました?」
「いや、外に出るなら頼みたいことがあってな。もしよかったら、俺達の調査に協力してくれないか?」
「内容はですねぇ、見慣れないモンスターが出現してるんで、様子を見てきてほしい、出来れば討伐、というものなんですよー」
ミシェルは詳しく話を聞く。見慣れないモンスターは、周囲のモンスターを圧倒する程で、モンスターが大移動する異変が起こっているそうだ。雷を纏うようで、海辺にいることで誰も近づけないそうだ。
「商人が通る道も、モンスターの移動で通れないみたいですよぉ?だから至急にその問題を解決して欲しい見たいですねぇ」
商人が来られないのは問題だ。ここの町は外の物資に頼る部分が大きい。新たな問題も無視出来ないようだ。
「雷を纏う…やっかいですね。遠距離じゃないと攻撃さえできない」
ミシェルは何が有効か考え、どこからか紙を取り出し文字を書いてゆく。
「むむ…なんだこれは。ミシェル、何を書いてるんだ?」
「……」
ジェズが声を掛けても反応はかえらず、ひたすらに書き続けている。
「古代語…か?」
「いえ、違う。これは彼女自身の文字でしょう」
よく分からぬ言葉にジェズは振り返る。未だに笑顔を保つリュウセイが少し怖く見える。
「そうか。まぁ、ミシェルだしな。気にせんことにしよう」
「情報に関しては凄いジェズでも知らないことあるんですねぇ」
セラもちらりと見たが、特には興味を持たず、いつの間にか出していた銃を磨いている。
「…セラ、ここでぶっぱなすなよ?」
「ふふっ、そんなことぉしませんよぉ」
ジェズが何故か頭を抱え始め、リュウセイも静かに見つめる中、ミシェルは顔を上げ、ぽそりと呟いた。
「…行くしか、ないんでしょうね。このまま放置したらここに押し寄せることになる」
無表情のまま、淡々と告げた言葉にミシェルとリュウセイ以外は息を呑んだ。耳をそばだてていた者も圧倒されたようにこちらを驚きの表情で見つめている。
「そうだね、高ランクがここを通る可能性も高くなるだろうからね」
リュウセイは笑顔を浮かべるのをやめて、静かに外に視線を動かす。
「…それは、嫌ですねぇ。さすがに次の被害が来たらこの村は持ちませんよぉ」
セラは銃をしまい、立ち上がる。
「だな。移動した奴らも戻ってこない。移動したモンスターに手こずってるんだろうな」
ジェズはコーヒーを飲みながら、地図を出して眺めている。
「…その依頼、受けましょう。報酬は私は気にしませんし。様子見してても無駄ですし、討伐するしかなさそうです」
ミシェルは、どこから出したのか丸まった紙を机に置いた。
「この依頼書、たくさん出てるようですしね。私も行こうと思ってました」
「「モンスター氾濫 元凶の討伐又は様子見 報酬 1000ゴールド 依頼者 村長」」
色々な注意が書かれていたが、中心に書かれているのはこれだけだ。
「では、行きましょう。時間もうあまりなさそうです」
ミシェル達は、宿を出た。そして依頼を受けに行く。
建物の影から、それを見つめていた者がいた。その表情は、ニヤニヤと企みの笑みを浮かべた悪魔のような笑みで、見てしまった人はゴクリと喉を鳴らしたあとにそそくさと避けていく。
「ようやく、動くようだ」
地を這うような低い声が、通りすがった人の背筋を凍らせる。黒いマントを羽織った男は、顔に触れた。目元と鼻、口元の半分を覆うマスクをかぶっている。どこからどう見ても怪しい人物だった。
「さぁ、始めようじゃあないかね、由香くん」
1人で笑う。そして、急に姿を消した。残ったのは、不気味な笑い声のみだった。




