契約と名
「触らないでー!?」
ミシェルは、その手をはたき距離をとる。心が痛かった。私らしくないと、分かっている。だけど、今の私は前の私と何も変わってなどいない。怖くて怖くて朽ちてしまいそうになっている。早く終わらせる、そのために強く生きてきたまがい物なのだから。弱いのだ、私は…。そのために、大切な人を何人も亡くしている。もうこれ以上は、何もしでかしたくない。だから?だから…
「君は、死んだ」
……。私の心は止まった。あんなに動揺していたというのに、ひんやりと、冷えていく。目の前にあるはずの顔さえも見ることができない。この、気持ちはなんだろう。安心でもない。ホッとした訳でもない。脳裏に浮かんだのは、セラとジェズの笑う表情が色あせた色になったことだ。自分たちが誘ったせいだと気に病んで、あの眩しい笑顔が歪んでしまわないだろうか。私を頼りにしてくれたのに、消えてしまったというのは、彼らにとって、どんなに苦しい種となるだろうか。ムギュ
「!?」
「ねぇ、ミシェル。怖くない?」
彼は、私の頬を両手で包み込んだかと思うと、優しく、左右に引っ張った。誰かが、私にやってくれた。心に何か染み渡っていく。なんだろう、この感情は。怖くて怖くて仕方ないのに、満たされていく暖かさ。
「怖い」
「だよね?でも、死んだのは前のキミなんだ。新たに生きる君は生きてる」
ちょっと意味が理解できない。でも、まだ私は死んでなどいない。彼は、私をどうしたいのだろうか?
「これから、僕のために生きてほしい。また何かを失ったとしても僕がいる限り、君に生き続けてもらいたいんだ」
私は、言葉が出なくなった。彼は優しすぎる。僕のために生きてほしいなどといってるくせに、私が生きる事のためのことしかいっていないではないか。おかしくなってしまった。
「どうして?」
思わず、聞いてしまう。そんなにあったことが無いほとんど他人なのに、そこまでする理由はあるのだろうか。
「僕は、ここから出られない。出るとしたら強くて信頼できる人と契約しなければならない。しかも、期限はその人の一生だ。老人とか、長生きはできないだろう?僕は、外を見るだけじゃ、満足できない。もう何百年も待ってたんだ」
彼は、哀しそうに語る。広い空間に、何百年も1人でいた。それに耐えられる人はまずいない。彼がどんなに孤独だったのか分からぬほどに。私の求めた答えとはまるで違う。なのに、ストンと納得してしまったのは、何故だろう。私はただ、共にいられる人を探していただけだったのか。
「わかった。私は貴方のために生き続ける。私のせいで巻き込まれても、私は責任取れない。それでもいいなら」
「ありがとう、ミシェル。契約をしよう、君と僕で」
その言葉と同時に、柔らかな感触が唇に触れた。甘く痺れ、驚きに瞳を大きく見開いた。半ば強引に彼の腕の中に引き寄せられてしまったのは、不覚だった。慣れてもいないその甘い温かさにフッと意識が飛んでしまいそうだった。緊張が切れてしまったのもあるだろう。
「これが、契約であり、誓である証ー!?ミシェル…?」
彼の声が遠く聞こえる。最後に彼は、
「僕の名は、リュウセイだよ、よろしくね、ミシェルー」
と幸せそうな顔で告げ、さらに追い討ちをかけた。ミシェルの意識は奥深くに沈みこんでいく。体から力の源が抜けていくような感覚がさらにミシェルの意識を遠ざけていく。抵抗もままならずミシェルは意識を手放した。ただ、恐怖はなく、新たな人生が始まるのだと少しばかり期待して。




