魔道具
ミシェルが魔道具に魔力を流そうと力を込めた瞬間、全員の視界を水と泡が覆い尽くした。
「がぼっ!?」
ソールが驚きの声を上げようとして泡をぶくぶくと吐き出し、目を白黒させる。ミシェルは即座に魔力を切り、周囲に満ちた魔力の残滓を剣を抜いて振り切り、散らせた。バシャンと水の塊が地面へと叩きつけられて、全身が濡れた三人が残った。
「げほっ、何が起こったんです!?ミシェル??」
「ごめんなさい、調整が出来なかったみたい。...難しいのね」
セラは盛大に咳き込みながらミシェルをじっと見つめ、肩を落とす。
「来るとわかっていたらどんなにか良かったか...ごほっ!鼻の中とかめっちゃくちゃ痛いですよぉ...わざとじゃありませんし、責めてるわけじゃないんですけどぉ」
一方、ソールは瞳を輝かせてミシェルに駆け寄ってくる。
「僕の国でもいないほどの魔力量ですね!国王でも敵いませんよ...魔道具、変化ないですかね?」
壊れててもいいんですけど、などと言いながらミシェルから魔道具を受け取って、点検を始めた。自分がずぶ濡れなのはあまり気にしていないようだ。
「ごめんなさい...由香?」
奥の方でしゃがみ込んだままの由香を見て、ミシェルはサッと傍による。どこか悪くしたのではないのかと顔を見ると、赤らめていた。
「み、ミシェルっ、その、服が...」
しゃがみこんでいる由香は腕を自分の胸の前で交差させて、決して見せまいとしているようだ。
「あ...ごめん由香。羽織るものを持ってくる」
魔石で造られた由香の身体は服こそ着せられていたが、女性用ではない上に薄く、大分透けてしまっていた。
「お二人どうしましたぁ?あっ、これ被ってて下さい!私結構厚着してますし大丈夫ですよぉ」
セラがぴょこりと顔を出して、すぐさま自分の上着を由香に被せた。
「ありがとうございます...セラさん」
「いえー、当たり前の事ですしねー」
それから着替えをして、仕切り直す。今回は厚着をして、距離を置くことにする。
「ミシェルは暫く触っちゃダメですよー」
「そうね。それじゃあ、次は由香ね」
そう言って魔道具を渡された由香は、不安そうにミシェルを見て、魔道具を見た。
「えっと...」
「どう?使い方分からない?」
「一応その引き金を引けば、使用者の魔力を吸い取って自動的に発動することも出来ますよ。最初に慣れるために、そして魔力の動きを知るために引いてみては?」
ソールが言うには、魔法陣で固定していて、先程のように魔力を使いすぎて暴走することもないらしい。それを聞いた由香は緊張しながらも、引き金に指をかけた。
「いいかな?」
「ええ、大丈夫。暴走しても私が何とかする」
ミシェルの言葉に安心しつつ、由香は引き金を遂に引いた。魔法陣が浮かび上がり、そのための魔力を由香から吸い取ろうとする。そして吸い取った魔力で光り出す。そのはずの魔法陣が、何故か砂のようにサラサラと崩れ始めて、空気中に溶け込むかのように消えた。
「え?」
「なっ!?」
由香とソールの声が重なるように驚きの声を上げた。ソールが先程とは大きく違い、つまずきながらも急いで駆け寄った。由香の手から奪い去るような勢いで魔道具を取ると、引き金を引く。だが、何も反応はなかった。
「何が、起きたんでしょう...」
「どうしたの?」
ソールは振り返り、ミシェルに魔道具を渡す。魔力を流してほしいと言われ、ミシェルは少しだけを意識しながら魔力を流そうとするが、魔力が散ってしまった。
「これは...魔法陣がない?」
「そうです、跡形もなく消え去ってるんですよ。魔力を流すための回路もダメになってます。本当に何が起こったのか」
由香は壊してしまったのかと、慌てた表情で謝る。だが、由香が壊したきっかけなのかわからないソールは、首を横に振っていた。
「さっきの、威嚇用の魔道具を見せてもらってもいい?」
「あ、はい、角笛ですね?えっと、これですこれです!」
最初に由香が触れた魔道具を出してもらい、同じようにミシェルが魔力を流すが、音は鳴らなかった。
「んんー、前例がないので原因が分かりませんね...魔法すら使っていないのに、固定した魔法陣が消えてしまうなんて」
ソールは何度も唸りながら、ああじゃない、こうじゃないと独り言を続けて、ぺたぺたと魔道具を触る。そして諦めたように一息つくと、こちらを向いた。
「今日は終わりにしましょう!また魔法陣を入れますから、次に出来た時にまた魔法をお教えしますよ」
そういって颯爽と去っていった。残された3人は顔を見合わせ、困ったように肩を竦めた。
「仕方ないですねぇ。ジェズが戻り次第、手合わせしてみますか?」




