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ミシェル  作者: 華美
変化
22/29

疑問

  私は思い悩んでいた。ジェズから聞いた義理の姉の話。何度か確認して、疑問に思う。


  「似ているというよりかは…」


 ジェズはそっくりだったと言っていた。ユーナとも。でも、私の方が更に「姉さん」に似ているらしい。雰囲気や、戦い方が。


  「気になるのは、やっぱり共にいた男の人…もしかしたら、いや…私は」


 私は本当に自分がわからなくなりそうだった。今の私は何なのだろうかと。



  ーパキッと割れる音に、彼女はハッとして青ざめた表情でそれを拾い上げた。拳大の大きさの石。それは、何かが解き放たれたかのように真っ二つに割れていた。


  「何故ー。どうしましょ」


 セラは重く動かない体に無理をきかせて立ち上がろうとする。その時、手の上に乗る石の色が変わった。


  「青になりましたが…何か理由があるんでしょうか?」


 これは魔石。ミシェルの力が宿っていたので、原因として考えられるのは、耐えきれなくなってしまったからだろうか。


  「それとも…何かが起きて」


  「それ、貰ってもよいでしょうか、人間のお嬢さん」


 セラはパッと顔を上げて、その驚きのあまりに腰を抜かしてベットにストンと座ってしまう。


  「貴方は…あの時の」


 思わず口を押さえるセラの目の前に現れた男はニコリと笑みを返し、ゆっくりとした動作でセラの手から丁寧に石を握り込み、スっと自分の前へと持っていった。


  「嗚呼、貴方は確か…あの時見ていた子供でしたかね。不思議な因縁もあるものですね」


 男は大切な物を扱うように、両手で包み込む。すると手のひらから淡い光を放った。


  「壊れてしまったのなら、仕方ないことですが…。この魔石の魔力は何処へ行ったのでしょうかね?」


  「直った!?でも、色が完全に変わっちゃいましたね…。貴方は本当に何者です?」


 セラは緊張した面持ちで、男を見上げる。戸惑いの色が濃い瞳を男に向けたまま、目を離さまいとキュッと唇を引き結んでいる。


  「私ですか…お嬢さんのご存知の通り人間ではなく悪魔と呼ばれています。…つい最近も同族をご覧になったかと思いますがね」


  「ええ、見ましたよ。ほんとーに貴方達はミシェルと何か関係あるんですか?」


 男は、元の形に戻った空っぽの魔石を手の上で転がした。凍りついたような笑みをずっと浮かべたまま、ポツリと告げた。


  「我らの大切な方。ずっと昔からです。ですが、あの方は知らない。自らの運命を、あのー想いを」


  「ミシェルは、貴方達の仲間です?」


  「話しすぎましたか。これ以上、お嬢さんが知る必要などないでしょう。では、失礼しますか」


 立ち去ろうとする気配を感じたセラは、思わず男の服を掴んだ。


  「貴方の名はなんです?ミシェルにとってどういう…」


  「リア、と申します。あの方は私にとって命に等しいくらい大切ですね。…手放すのではなかったかと後悔しているところですが」


 セラが瞬きをした次の瞬間には、男の姿はなかった。最後に見た表情は、どこか不思議だった。セラは、落ち着かない様子で扉を開ける。


  「くそっ!なんで今頃姉さんに見えるっ!仲間だろうが…姉さんは、もういねぇよ」


 髪を掻きむしって、腕に顔を埋めるジェズがいた。どうやらあの男がいたのは気づかなかったらしい。何処かで良かったかもと思いながら、セラはジェズの肩を叩いた。


  「セラ、どうした…」


  「私は貴方に話そうと思ってることがあるんですけど、言えずにずっと今まで過ごしてきました。言っちゃって、いいです?」


 追い込みをかけるのだろうとわかっている。けれども私には、完全に心の内を話せる人が、今は目の前にしかいない。ジェズの首が、少しだけ縦に動く。


  「私は昔からずっと貴方達義理の姉弟を見てきました。単なる興味でしたが、最初の出会いから偶然であったのにも関わらず、ずぅっと見てきたんですよ。それでですね、思ってたんです。ミシェルとお姉さん、そして共にいるあの男との関係。確信を持ったから言えます」


 ギルドで出会ったのは、偶然を装ったもの。それからもずっと、ジェズと共に過ごして、あの日ミシェルに出会った時、私は本当に心臓が飛び出るかと思った。


  「今のミシェルは確実に、私達が子供の時に出会ったお姉さんに違いありません。見た目も中身も全て似た人など、いませんよ」


  「そう、だよな。それしかないんだよなぁ。なのになんで何も覚えてないんだ。なんであんなにも変わってないんだ」


 私は、一度お姉さんに助けて貰ったことがある。その時の彼女は、笑う事などなかったが、その優しさが伝わってきた。


  『貴方、よく見かける…。ここまでついてくるのは危険よ。でも怖がらなくていい。私に勝てる者などいないから』


 魔物に囲まれたあの日、想像もつかない程強かった姿を鮮明に思い出す。今のミシェルも、昔のようではないが、似た戦い方をしている。


  「最初に出会った時は、別人だと思ったんですがね…。覇気がないというか、今でも少し自暴自棄になっててですねぇ」


  「ああ、俺は別人との二人が入ってるかのような違和感があった。あんなにも強いのに、やたらと自分を非難するしな」


 ジェズとの会話で、もっと今のミシェルの状況がはっきりとするようだった。


  「後は…気になるのはあの魔王ですか。私がよく読んでいた物語に出てくるキャラに似すぎてそういっちゃいましたが、今でも納得できますよ」


  「ミシェルに関係するのはわかったが、前には関わりがないあのレークが、何故今になって現れたのか。…わかんねぇな」


 どれほど考えても、レークは謎に包まれすぎている。セラは、自分とジェズでは、到底真実へとたどり着けないだろうと判断していた。


  「とりあえず、ちょっと無理してでもミシェルのとこ行きませんか?」


  「傷は大丈夫なのか?魔力によって傷口は塞がってはいるが、体力、それに反動が大きいと思うが」


 ジェズはセラの顔を見て、顔が青いことも指摘する。セラは、ふぅ、と息をつくと胸を数回叩いた。


  「私はこの通り丈夫ですから、大丈夫ですよー。そんなことより、ミシェルですし。今放っておいたら、あの時みたいに消えちゃうかもしれないですしね…」


 ミシェルは、私たちと出会ってからも非常に不安定だった。最近になって落ち着いたかと思えば、周りが落ち着かせてくれない。出会いと別れ、そして過去が彼女を追い込んでいる。そして意味不明な出来事も多い。


  「私達が、仲間として…ミシェルを助けないといけないんですよ。例え変わっても…」


  「とにかく、ミシェルがどうなっているのか。そこら辺も確かめなきゃだな」


 お互いに頷き合う。そしていつものように何かあった時のため、武器や防具を装着する。セラは自分の姿を鏡で確認し、ガサガサという物音に振り返る。


  「ほらよ、疲労回復のポーションだ」


  「うぇ!?ジェズそんな高価なもの…ゴホッゴホッ。…いいんですか?」


 タンスの奥底から取り出していた手のひらサイズのビン。それは一口飲むだけでも体力を回復させてくれる、だが、ギルド長しか持っていないような高価なものだ。


  「これは…昔姉さんが貰ったものだ。この村を守った時にな。大切な存在が出来たら使いなさいって言ってくれたんだ。その、ミシェルと、セラのために、使いたい」


 恥ずかしそうに身じろぎしながらジェズはそう答えた。セラは少し顔を赤らめて、ジェズの背中をビシバシと叩いた。


  「いってぇ!」


  「感心感心ですよぉ。んもうっ!こりゃミシェルを救うしかないですね!んぐっ、苦っ!行きますよ、ジェズ!」


 慌ただしく飛び出すセラに、ジェズが慌てて追いかけていく。

  その姿を見ていた者が、静かに口元に笑みを浮かべた。


  「面白い、これは面白いな。だが、どうなることか。そろそろ動き出すだろう、行くか」


 カチャリ、と音がして何かが割れる音がした。

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