話し合い
「ユーナ、こっちへ」
「うん…ここでいいの?」
隣に空いた倉庫の部屋に入り、ミシェルは頑丈な箱に座る。ユーナはミシェルと同じように箱を見つけてぴょんと飛び乗った。
「何を話すの?ユーナ、知ってることあんまりないなぁー?」
「…生まれてから、どうしたのか。わかる限りで、話したくないことは話さなくてもいいから」
ミシェルは目線を何度も向けて、ぐっと手に力を入れると、大きく息を吐いた。覚悟を決めたように、もう一度、ユーナへと目を向ける。
「私も、話すから」
「…ユーナだけで大丈夫!ユーナの生まれてからの話ね!短いけど、うん、いいよ」
ユーナは笑顔で明るい返事をした後、思い出すように目を閉じた。
「んーと、目が覚めたら同じ人いっぱいいてね、力をつけなさいって言われたの。そして強くなって今のユーナなの」
「それだけ?」
簡潔に話をされ、ミシェルは呆けたようにユーナを見つめてそう言い、仕方ないように首を振る。
「うん、わかった。それでー」
「お姉ちゃん、ユーナのやってた事、ダメなこと?」
「え?」
ユーナは、箱から降りてミシェルへと近づいた。その手には双剣を握りしめ、瞳を潤ませている。
「外出て、ユーナは形が似たものも切ってきたよ。みんな強くても、ユーナの方が強かったの。でも、誰もいい顔しないよ」
「…ダメ。人を傷付けるのは、許されない。何処に行っても、どの世界でも。でも、人だけじゃない。理由なく、力のために血を流すことはダメ。許されない…絶対に」
両親の顔、親友の顔を思い出す。そして、この世界のことも。
「それに、何もしないのもだめ。迷惑をかけちゃいけない。だって、自分のために誰かが死ぬかもしれない。誰かを、巻き込むかもしれない。だからね、ユーナ。力を持つならば、守ることに使わないといけない」
「それが、ユーナのしなきゃいけないこと?悪いことしたら、どうしたらいい?死なないとだめ?」
ミシェルは少しだけ震える。手が赤く染まっているようで視界が濁った。
「死んだら、逃げになる。なら、繰り返さないよう
、守りきるべき…。私が言えることではないけどね。いつかは貴方自身で選んで」
「守る…ユーナが?そうしたら、許される?」
許されない。そう言おうとして、ミシェルは堅く口を結ぶ。少しだけ、倉庫の外側を見てユーナの方を向くと、
「今はそれでいい。自分のすることに意志を持って。…また今度話そう、ユーナ」
誤魔化すように笑い、ミシェルは目線を逸らした。今は私も、誰かのことを言えるような善人ではないから。また私も意味を知れたら、話せるといいな。そういう意味で、話せた。
「…うん。お姉ちゃんがそういうなら、そうするね。ユーナ、また話せる時にはいい子になる」
「そう、私ももう少し自分と向き合えたらね」
物音のしない空間の中、ミシェルはあの二人が覗くようなことをしないのだと、少しばかりホッとした。かっこ悪い所を、見せたくないと思うから。もしかしたら、私はずるいのかもしれない。
「お姉ちゃんに、これ返すね」
カシャンと音がして見れば、膝の上に懐かしい私の双剣が置かれた。ユーナを見れば、申し訳なさそうにしょんぼりと項垂れていた。
「大切なものって言ってたのに、返さなかったから。汚れちゃったけど、いい?」
鞘のない剥き出しの刃には、誰かの血液が付着している。金属の匂いと、血液の鉄の臭いが混じり、あまり良くない気分になった。
「…大丈夫、大切なものが帰ってきたから。とりあえず、洗って、鞘を付けないとね」
ただ、その時にモンスターを斬る自分の姿も思い浮かび、自分のしたことも似たようなことだろうと、ミシェルは引きずる思いをした。
「…お姉ちゃん、最後にいいかな?」
「何?」
ユーナに呼ばれ、我に返る。
「お姉ちゃんは、本当にミシェルっていう名前?それとも、由香って名前?」
「レークから聞いたの?」
ミシェルは魔王と明かしたレークのことを思い出して、表情を固くした。ユーナは首を傾げたまま、
「うん、言ってたよ、ちぐはぐな存在だって。ユーナ、聞いてもよくわかんなかったから、よく聞いたら、お姉ちゃんはミシェルでも由香でもあるって」
といい、ミシェルのことを見回した。どうやら、ユーナはちぐはぐの部分を探しているようだ。
「ちぐはぐ…。記憶が戻らないまま、ミシェルとして生きてるから?」
ミシェルは、未だ思い出せずにいる両親と親友のことに意識を向けた。死んだ直前のことは思い出せるのに、思い出を、鮮明に思い出すことは出来ない。早く、思い出したいのに。
(殺したのに?助けられなかったのに?思い出す資格さえない)
ネガティブな思考が、声となって聞こえた。知ってるような、声。でも、私ではない声が。
「だれー?」
「え?誰かいるの?」
ユーナが、キョロキョロと辺りを見るのを見て、ミシェルはハッとする。思わず声に出して気配を探してしまった。ミシェルはそっと双剣を握るとユーナに声をかける。
「気のせいだった。それじゃあ、戻ろうか…」
不安の残るまま、最後にユーナの言葉を思い出す。
「ミシェルでも、由香でもあるー。ちぐはぐ…ね」
セラ達の元へと戻り、ミシェルは一人で外に出た。ユーナはセラ達に謝罪し、お手伝いをすることにしたようだ。何かあった時には戻れるよう、ミシェルはなるべく遠くにはいかないことにして、外に出るだけにしていた。
「今思えば、名を付けてくれたのはジェズだった。突然だった、でも何故か私はこれでいいって即座に決めた」
最初は、意地を張って名さえ伝えていなかった。心を許したくなくて、犠牲を出さぬよう、関わりを無くしたくて。結局、巻き込んで、新しい名を貰ってしまった。ここでのミシェルが私を作っている。今までの由香が、私を型どっている。それなのに、レークのちぐはぐと言う言葉に、私が二つに割れているのではないかという不安があった。
「本当に、私は私でいる?セラ達と共にいる私と過去の私であろうという気持ちがぶつかってる?」
ちぐはぐというからには、私は迷っているのかもしれない。悪魔のいうことだからと済ますことはできない気がした。
「その答えを聞いたら、戻れないかも知らないですよ?」
冗談ではなく、一瞬心臓が止まった気がした。一体最後に聞いたのはいつだろう?そんなことを考えて、ゆっくり振り返る。
「あ、リア?」
そこにいたのは、姿形の変わらぬ悪魔だった。口元に微笑みを浮かべ、あの日のように、こちらへお辞儀を恭しくする。そして、
「はい、貴方の悪魔、リアです。さて、もう一度聞きましょうか。貴方は、貴方が何者か知りたいですか?戻れぬかもしれませんが…ね」
と、笑みを深くして、私に問いかけた。




