出会い
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
何故私は今走っているんだろう?辛くて辛くて、何かに追われている。
「ガゥッ」
衝撃が来て、私の身は地面へと投げ出され、叩きつけられた。なんで、こんな目にあっているんだろう…。
私は女の人に助けられた。笑顔の眩しい、明るい人。その人は私に手を差し伸べてくれたが、私はその手を取らず、力もないのにモンスター達の棲む森の奥に入っていった。なんでだろう?私はなんの力もなくて、何もすることができないのに。
「失礼?」
声をかけられたのは、しばらく歩き続けて30分程たった時だった。警戒心をあらわに振り返ると、黒いモヤがそこにあった。黒いモヤは私よりも離れた場所でつい…とお辞儀のように曲がる。
「そうでしたか、見えないんでしたね?あぁ、すみませんね、死にかけのようでしたので、つい」
その言葉に、私は痛む横腹から手を離す。べっとりと血がつき、死んでいてもおかしくない出血量だった。そう気づいた時、激しい痛みが体中を走り回った。あまりの痛みに歯を食いしばりながら、
「…死ねる?」
私はそう質問して、ここに来る前の約束のような言葉を思い出した。そして、グッと何かが込み上がりさらに力を込める。
「少なくとも死にたくないと、そう言っているように見えますけれどね」
黒いモヤの返答に、私は唇を噛む。私は、死ぬために探してるんだ。そんな、はずはない。
「まぁ、どちらでもいい。貴方は今、何を求める?」
突然の問いに私はぼんやりと黒いモヤを見上げる。
「何を?私は、あの人に会うことがしたい」
「何のために?」
何故か笑っているような気がして、私は睨むように黒いモヤを見つめる。
「意味を知るために」
「威勢を張るね?面白い。私の名はリア、といいます。人ではないのは見てわかりますね?どうでしょう、私と契約するのは」
黒いモヤが、揺らぐ。私は目を離さずにふらつく体を木にもたれさせた。
「契約、だなんて、悪いことしか、ない…」
痛みを訴える横腹を押さえ、私は怪しい黒いモヤから離れようと歩き出す。
「心外ですよ。まぁ、いいんです。貴方の同意はいらないんですから」
嘘だ。そう言おうとした時、私の体は地面へと崩れ落ちた。
「限界ですよ、もう貴方は動けない。だからこそこの道しかないんですから」
寂しそうにいう言葉がやけに耳に残る。私は地面をつかむようにして力を込めるが、意識は落ちていった。
温かい。そう思い、私は目を覚ます。目に入ったのは、炎。ハッとして体を起こすと、やけに軽く感じた。
「おはようございます、よく眠ってましたよ」
焚き火をしていた影が、体を起こしたことで目に入る。
「…誰?」
「そうでした、姿が見えるようになったんですね。私はリアです。そして悪魔です」
黒い翼に黒い角、その他は人と変わらぬ姿の男がそこに座っていた。髪は少し長く、女性のような美しさを持った、何処か普通ではない空気を纏っていた。
「おや、そんなに驚きます?とにかく、ゆっくりと座ってくださいね」
その言葉に私は自分の体を確認して、大きく目を開く。どこも変わりがない。だが、傷一つなく力を込めていた手を見ると、地面が抉れている。
「…なにこれ?」
「それが貴方にあげた力ですよ」
私は、動けなくなってしまう。体を下手に動かそうとすると、泥のように手が地面へと埋まっていってしまう。それを見ていたリアは、こちらに歩いてくると、私の手を取った。優しく触れられて、私はキョロキョロと意味もなく辺りへと目を配る。
「ほら、動かないでくださいよ」
私は固まったままストンと座らせられると、リアは顔を近づけてきた。バクバクと緊張する心臓の音が聞こてえないだろうかと、私は息を止める。
「クフフ、百面相してますね。自分では気づかないんでしょうけど。仕方ないのでこれをあげましょう」
そう言って、どこから出したのか手に何かを握らされる。私は疑問に心を落ち着かせ目を落とす。
「これは?」
手を開くと、拳くらいの深い青色の石があった。が、今赤色に染まっている。
「使いきれぬ力を抜き取っているんですよ。貴方が力を使いこなしていけば、元に戻っていくようにしました」
「そんなことできるの?」
「私の手にかかれば。そういうのは得意でしてね」
私は笑うリアを見て、少しの気恥ずかしさに目をそらした。優しそうな笑顔に心が痛みを訴える。
「その力には気をつけることです。嗚呼そうだ、どんなに傷を負ってももう死ぬことはありませんから」
「はぃ?」
私は、カッと目を見開き固まる。死ねない?
「不老不死なんですよ、我ら」
「そんな…今すぐ元に戻してっ!」
地面が割れるのも構わずに石を置き、リアに掴みかかる。リアは動揺することなく、冷ややかに笑う。
「それが、私の望みですから。それに、完全ではない。方法によっては死にますしね。それに貴方の望みが叶えば、その時に解除しましょう」
ふるふると震える私に、リアは手を肩に乗せた。そして、ゆっくりと離し、
「貴方のいう、あの方に会うまで死ぬ訳にはいかないんでしょう?生きる意味さえも理解出来ていないんですから」
と呟いた。私はへなへなと座り込み、涙をこらえる。意味が分からない。本当に。
「なんで、助けるの?」
なんで、どうして生きさせるの?
「理由はありますよ。貴方が知らないだけで、理解できないだけで。強くなれ。貴方が強くなれば会えますから」
リアはその言葉をかけると、火を消して姿をくらました。
私はいつの間にか眠っていて、目を覚ましたらリアがいた場所には、双剣が立てかけられていた。私は、一人で洞窟の中でそれを見つめ続けた。
「戦わなきゃ」
私はいつの間にか立ち上がり、双剣を手に取った。バチリと電流が流れたかのように、体に力が巡る。
「行かなきゃ。……ありがとう、リア」
こうして私は、二度目のこの世界で生きる決意をした。




