造られたモノ
この声は。ミシェルは二人の顔を思い浮かべ、海辺の方へと走り抜けていく。獣道さえない木々が覆う中を多少の傷など気にせず、駆け抜ける。岩は飛び越え、視界を遮るものは切り伏せていく。
(何かあったんだ。行かなければ。はやく、早く。生きてて、セラ、ジェズ)
焦りを瞳に宿らせながらも正確な判断で通れる場所を全速で選び抜けていった。
(あの男が造ったモンスター。どれほどの強さか。怪我してないといいけど)
仲間への気遣いと、敵への対策を考えながら海の香りに気づきミシェルは叫ぶ。
「セラ!ジェズ!」
息を乱し、双剣を抜いて森から飛び出す。
『ゴォォォォォオオオオ』
新たな侵入者に気づき、それは低く響くような叫び声をあげる。青く凶悪な顔。体は波打つようにくねらせ、その表面をピリピリと電気が走る。見た目はウツボだ。
「ミシェル…」
ジェズがこちらを見る。所々火傷のような傷があり、服が溶けている。こちらを見たのは一瞬で、大きく跳躍しモンスターの口から吐き出された液体を躱す。一方セラは、
「かかってこいやぁ!あはははっ」
ジェズよりも酷い火傷を負いながらも銃と片手剣で絶えることなく攻撃を続けていた。ただ過酷な状況の中、残虐な笑顔をし突貫していく。
「あはっ、楽しいねぇ。めちゃ厳しいですけどぉ」
そう呟いたセラは後ろへとピョンピョン飛びながら後退した。
「セラ」
「ん、あ?ミシェルじゃないですかぁ。よかったー危険だったんですよぉ」
セラはミシェルへニコリと笑顔を向けるとジェズへ指示を出した。するとジェズは逃げるように走ってくる。
「あいつは、海からは出ないようですしぃ、酸だけ避ければ大丈夫ですよ?」
「それは…大丈夫なの?」
「ちょっと待って。僕が結界をはるよ」
ジェズが戻ると同時に茂みからリュウセイが顔を出した。頭や服に何枚も葉や土がついている。
「ミシェルは早いですからねぇ…」
セラは見覚えのあるその姿に苦笑する。気づけば、淡いピンク色の膜が守るように周囲を囲っている。酸をモンスターが吐くが、結界を通り抜けることはなかった。
「ありがとう」
「いや、僕は守ることしかできないからね。持っても五分くらいだ。急いだ方がいい」
リュウセイは青白い魔力をふわりと漂わせ、結界へと吸収させるのに集中した。
「情報を」
「ああ。あいつは新種。主に酸と体を使い遠距離短距離を攻撃してくる。近すぎると電気を発して感電させてくる」
「強さは?」
「前回来た狼型のモンスターの十倍だ。しかも水を盾にしてやがるからもっと厄介だ」
ミシェルは視線を魚型のモンスターに向けたまま、情報を整理してゆく。
「あと、斬ってみましたけど硬かったですよぉ。食いついて来ますし接近戦は厳しいですー」
セラがそう言い、背筋を伸ばす。余程疲れているのか骨の鳴る音がゴキゴキと響く。
「…確かに双剣では軽い。セラ、銃を。ジェズ、大剣を」
「一人で行くのか?」
「はい。…お二人には茂みからこちらを覗くモンスター達を任せたいです。背中から狙われては集中出来ないので」
ミシェルは反対の方向を向く。釣られて全員がそちらを見ると、歪な姿のモンスターが十体ほどいる。
「なんだこれは。狼と熊が合体したみてぇだ。自然じゃあねぇな?」
「そう。先程の男が造ったモンスターです」
ミシェルの言葉に沈黙が下りる。
「…それは後で聞きましょうかぁ。そろそろリュウセイさんも限界っぽいですしねぇ」
「ごめん、頼んだ」
その言葉で各自は戦闘態勢をとった。結界が粒子のようになり、散る。その途端にミシェルは大剣を軽々と持ち上げ、斜めに構えて走り出す。
「この双剣、使わせてもらいますよぉ」
セラの声を聞き、さらにスピードをあげる。
『ゴォォ…ガァッ』
急接近したミシェルに対し、モンスターは大きく口を開き、胴体を砂浜へと伸ばす。
「ふっ」
ミシェルは大剣を回し、遠心力で横へと避ける。砂浜に顔を突っ込ませたモンスターの頭を狙い、回していた大剣を振り落とす。が、ギャリッという音と共にミシェルの手に電撃が走る。
「っ!はぁっ!!」
痛みを消すように、更に大剣を大きく持ち上げ、振り落とす。が、モンスターは一歩早くに首を引っ込ませた。
「厄介ね」
ミシェルは下がったモンスターから目を離さずそう言い、大剣を握る手をちらりとみる。手に血が滲み、黒くなっている。だが、動く。
「魔力を…通せばいける?」
大剣に少し魔力を通して、威力をあげる。そして、地面に切っ先をつけた。
「さぁ、来て。今の私は甘くない」
『ゴォォォォォ!!!』
挑発に気づいたのか、モンスターは真っ直ぐにこちらに突っ込んでくる。ギリギリまで待っていたミシェルは真っ直ぐにモンスターを見つめながら、冷たく殺気をにじませて大剣を振り上げた。
『ゴォッ!?』
一瞬の怯えが見え、大剣を振り上げた衝撃で砂が舞いモンスターの目に入る。混乱するモンスターの隙をミシェルは正確にねらい、空いた腹を下から斬りあげた。硬かったが、傷を負わせることが出来た。
「これで楽に」
『ォォォォォオ!!!ゴォォッ!?』
「え?」
ミシェルを影が覆う。ミシェルは飛び退こうとするが、モンスターの様子を見て、止まってしまう。
「避けるんだ!ミシェルっ!!」
リュウセイの声にも反応せず、ミシェルはモンスターに押し潰される。モンスターは斬られた途端に電流が流れっぱなしになり、自身が一番苦しんでいるように見えた。そして、海に戻ろうとしたが力尽き、ミシェルの方へと倒れた。
「ミシェルっ!ミシェル!!」
リュウセイがモンスターのほうへと駆け寄り、手を伸ばす。が、その手を横から掴まれた。
「離せっ!どういうつもりだ」
「君には任せられんよ?」
リュウセイはギリッと歯を軋ませる。目の前の男を睨みつけ、腕を振るう。
「おっと、やれやれだね」
仮面をつけた男、レークはその言葉を発した次の瞬間、リュウセイの腕を取り、地面へと叩きつけた。
「がはっ!」
「つまらぬことはするな。番人の役目は守ることだろう?」
レークは皮肉げに語りかけるが返事はない。リュウセイの意識はとうになかった。
「さぁて、我が愛しき姫を貰ってくとしようか?」




