第3話:ひとりでお花見
次の日、久しぶりに「自分のため」だけに花見の準備をした。
大きなおにぎりを2つ握り、焼き鮭と卵焼きを作り弁当箱につめる。
スーパーで小さな缶のお酒を一本と、おつまみの柿ピーナツを一袋買った。
誰かと約束しているわけでもない。ただ、自分だけのために、桜の下で贅沢な時間を過ごすために。
昼になって、通勤に使う自転車をこいで公園に向かった。
昨夜見上げた桜は、青空の下で、堂々と咲いていた。
それでいて、風が吹くたび、花びらがひとひらずつ、ふわりと落ちてどこか儚げな感じもする。
不思議なことに、誰もいなかった。
今日は日曜でしかもとても良い天気だ。
少しくらい人がいてもよさそうなのに、誰もいなくてやけに静かだ。
こんなにきれいなのに、もったいないな、と私は思った。
私はベンチに腰をおろして、おにぎりを食べて、お酒を少しずつ飲んだ。
仕事のことも、これからのことも、とりあえず今は考えない。ただ桜を見ていた。
そこへ、おまわりさんが来た。
「ちょっといいですか」
「何をしているんですか」と言われたので、「花見です」と答えると怪訝な顔はされたものの、
私の手元の小さな缶のお酒を見て「帰りは自転車に乗らないで。自転車は押してね」
と言って去って行った。
満開の桜は美しく、静寂の中で、私だけのために咲いているようにさえ思える。
公園の向こうを車が通り過ぎる音がしても、どこか別の場所の出来事のように感じられた。
その夜、家に戻って眠ると、とても印象的な夢を見た。




