憧れと真実
私は恐る恐るお店のドアを開けた。
カランーー
涼やかな音が小さな木造りのそのお店に響いた。
お店にはお客さんは私達以外はいないようだ。
店の店主がレジの前で本を読んでいた。
私たちが店に入ってくるなり、チラッとこちらに目をやり、すぐ読んでいる本に目を落とした。
アクセサリーの他にも、木彫りの動物、革製のポーチなど、その小さなお店の規模に見合わないほど、たくさんのものが並んでいた。
お店の左側に目をやると、お目当てのブレスットコーナーがあった。
私はゆっくりそこに足を運んだ。
赤、青、緑.......色とりどりのブレスレットが並んでいた。
でも私は一つのブレスレットに、胸を掴まれるような衝撃が走った。吸いつけられるように私はそのブレスレットを手に取り、じっくりと眺めた。
オレンジと白の大きめの透明がかったビーズが交互に配列されていて、ワンポイントにラメが入った透明な蝶のモチーフがひとつあしらわれていた。
「綺麗。」
思わず息を漏らすように声が出た。
ウルも私の隣に来て私の手の中を覗き込んだ。
「確かに綺麗だな。」
ウルもそう言うと、ほかに陳列されている商品を眺めている様子だった。
「私、これほしい。」
これしかないと思った。ほかのものはもう目に入らなかった。絶対にこれがいい。
「他は見なくてもいいのか。ほら、これとかブルーが綺麗だ。」
そう言ってウルは一つ、青を基調としたブレスレットを私に差し出した。
確かにとてもきれいな色だった。
でも私は首を横に振った。
「ううん。確かに素敵だとは思うけれど、私はこれがいい。」
私の意志は変わらなかった。
ウルは私のそういう様子を見て、新たに提案をすることを諦めたみたいだった。
「分かった。それでいいんだな。」
そう言うとウルは貸せ、と言いブレスレットを手に取りレジに向かった。
ーーーーーーー
家に帰った私達はまず、購入した家具を二階にある私の部屋まで運んだ。
と言っても、すべてウルが魔法で小さくしてたから、彼のポケットに入っているそれを私の部屋で元の大きさに戻し、適切な位置に配置するだけだったのだけれど。
私は一通り生活できるよう整った新しい自室を眺めた。
当たり前のことだけれど、森で暮らしている時とは少し生活様式が違う。だが、基本的なことは同じだ。
森で暮らしていた時のベッドはふかふか草という綿を敷き詰めているのが普通だった。だがここでは加工された布が綿を覆っているような仕組みである、どれもそのくらいの程度の違いだった。
私は息をついてベッドに座った。ベットについた右手で、ウルに買ってもらったブレスレットが小さく音を立てて揺れた。
私は右手を掲げ、手首で揺れる蝶を眺めた。
それは窓から差し込む夕日に照らされ、キラキラと光っていた。
ーーみんなと丘で眺めた夕日。そこでは2匹の蝶が優雅に、そして雅に交わり合い、オレンジに染まる空を大きな舞台として舞っていたーー
気が付くと視界がぐりゃりと曲がって見えていた。
ポロリ。
生暖かい雫が顔をしたって首に落ちた。
一度流れたそれはもう止まらなかった。
みんなはもういない。
すべて失ったんだ。
あの日みんなで見た夕日も、取り戻せないーー
私はうずくまる姿勢を取り、声を押し殺して泣いた。
だから自室のドアがノックされている音にしばらく気付かなかった。
「入るぞ。」
ドアの向こうから聞こえたその声で、やっとドアの向こうに人がいるらしいことに気づいた私は慌てて涙を拭いた。
でも少し手遅れだったみたいだった。
自室に入ってきたウルは驚いた様子で目を見開いた。
「大丈夫か。目が、腫れてる。」
泣いてたのか、そう付け加えたウルは、どうしたらいいのか分からないというようにあたふたと部屋を歩きまわった後、私の隣に座り、背中をさすってくれた。
少し安心した私はまた泣いてしまった。
今度は声を押し殺すことなく。
そのまましばらく泣いた私は少し落ち着いて、ウルがくれたティッシュで涙と鼻水でぐちょぐちょになった顔を拭いた。その間ずっとウルは背中をさすってくれていた。
「ごめん。」
私がやっと出た言葉でウルに伝えた。
「……なかなか降りてこないから、どうしたのかと思った。」
心配してくれて、ずっと背中をさすってそばにいてくれたウルには本当の気持ちを伝えなければならないと思った私はぽつぽつ続けた。
「思い出してしまったの。」
うん、ウルは小さく相槌を打って私の続きの言葉を待ってくれた。
「故郷のこと。みんなで仲良く暮らしていた。でも.......」
「……」
「突然無くなった。すべて消えた。」
「うん。そうだったよな。知ってるよ。」
「お母さんも、お父さんも。友達も。」
「うん。」
「なんで……なんで魔女は、人間は、私からすべてを奪うの!?」
涙をもう一度拭いて、私は続ける。
「私達を怪物扱いして。嘘の情報をでっちあげて。吊るして.......何が楽しいの?」
また涙が出てきた。
なんで、なんで.......その思いばかりが頭の中を支配していた。
すると、ウルが突然話始めた。
「.......魔女は、獣人のことはある程度はちゃんと理解していたと思う。本当に人間界を侵略すると思ってお前ら家族を殺したんじゃない。」
「え?どういうこと.......?」
私は言葉の意味が理解できず戸惑った。魔女は、私達のことを理解していた?
「クソ王族との契約だったんだ。今の王族の奴らは、お前ら獣人を過剰なほどに嫌っている。絶滅させたいほどにな。」
ウルは少し苛立った様子で窓の外を眺めて続けた。
「だから魔女と結託を取った。魔女はいい薬を作るためにはなんだってするって言ったよな。王族はそれを利用して、獣人の集落を攻撃する対価に高価な薬の材料を提供するということを約束したんだ。」
「そんな……!それで魔女は......」
「ああ、そうだ。それで魔女は獣人が人間の世界を侵略しようとしていると嘘をついて、お見事なまでに作戦を成功させた。王族の計画だとは言えなかったんだろうな。口止めでもされていたんだろう。」
「そんな、ひどすぎるよ.......」
「町の人間が獣人を嫌っているのも、今の王族のせいなんだ。あいつらが、獣人に悪いイメージをなすりつけている。」
「なんでそんなことしているの?」
「それは……わからない。」
しばらく沈黙が続いた。
最初に口を開いたのはウルだった。彼は静かに口を開いた。
「なあ、ここに来る前はどんな生活をしていたんだ?話してくれよ。」
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