居候することになりまして。
ウルの家は森の入り口付近にある、人里離れた二階建てログハウスだった。ウルは一人で住んでいると言っていたが、一人暮らしにしては大きすぎるほどだった。
一階は開けた場所で、ウルがいつも仕事をしているという調合道具があるスペース(小瓶、薬草が入った瓶がたくさん!大釜も!)、そしてキッチン、ソファがあるリビングスペースがある。
二階にはウルがいつも寝ているという寝室、そして空き部屋が2つあった。
その空き部屋の一つが私がしばらく居候させてもらう自室になった。その部屋はベッドと机を置いたとしても十分スペースがあり、暮らすには何も不自由なことはなさそうだった。
しかし問題が一つあった。そう、置いたとしても、と言ったのは今現時点では何もないからだ。
そういうわけで私達は私が暮らすにあたっての家具なり衣服なりを買いに行くため、町に出ることになった。
よし、じゃあ行くか……
私はウルとの約束時間になったので、出かけるために自室から出て玄関の前に立った。
ウルはどこだろう。
ウルは「仕事がある」と言って調合スペースにいるはずだった。
しかしそちらに目をやってもその姿はない。
準備しているのかな。
私はウルが来るまで玄関の段差に座って待っていた。
しばらくして、後ろから声がした。
「お、お前、それどうした。」
「え?」
私は何をいっているかわからないという顔をして声のする方に振り返った。
「いや、お前、ほんとに獣人なんだな。」
ウルはそう言って苦笑した。
私は、今更何事だと思いながら、言葉の意味を考えた。
「えっと、人間はこうやって座らないの?もしかしてちゃんとした‘‘椅子‘‘でしか座らないとか?」
ウルは顔を綻ばせた。
「いや、人間も座るよ。俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、その……耳、というか……」
「え?耳?」
私は頭の上を手で触った。
あった。
耳が。
「うわー!しまった!」
ウルは大笑いした。
「自覚なかったのかよ!それどういう原理だ?」
私は恥ずかしくなってウルから目を逸らした。獣人の世界では、人間の姿のまま獣の一部を出すことは恥だとされている。
「ごめんなさい!たまにコントロールできなくなるの。」
「いや、謝らなくてもいいんだけどさ、それ、町に出るにはちょっと厄介だなって。その……ひっこめるっつーかそういうことはできるのか。」
私はうーんと言いながらどうにか耳を収めようとした。
気が付いたらなくなっていることが多いけれど、こういうときはたいてい自分ではどうにもならない。
「無理かも。」
私は謝るようにウルに言った。
そうか、と言いながらウルは少し考えているようだった。すると
「そうだ!ちょっと待ってろ。」
ウルはそう言ってどこかに行ってしまった。
しばらくして戻ってきたウルは何かの赤い布を持ってきた。
「これを被っていけば大丈夫だろ。」
そう言いながらウルは私に頭に布をかぶせ、顎の下で軽く結んだ。
「これ、変じゃない?」
私は少し不安になって聞いてみた。
「大丈夫だ。人間界ではこれを巾着っつーんだ。」
「本当に……?」
「ああ、俺を信じろ。」
「そ、そうなんだね……」
正直なところまだ疑っていたが、こうでもしないと町に出られないのでウルの提案を飲むことにした。
ウルが何か小声で言った気がしたけれど「なんでもねぇ」と言って笑いながら言うだけでなにも教えてくれなかった。
ーーーーーーー
私達は町に出てきた。
道沿いにはたくさんの店が並んでいた。かわいい服、おいしそうな食べ物、私達獣人には何に使うのかは分からない小物まで、いろいろなものがお店の大きな窓から覗いていた。
そして何より、素敵にキラキラと輝くアクセサリー、一目見ただけでその色使い、形に目を引かれる芸術品までもがそこにはあった。
私がそれらのものに魅入られている間に目的地にたどり着いたようだった。
そこは中古ショップと言って、誰かが使ったものが売られているところで、新品より安くものが手に入るとのことだった。
金持ちじゃねえから、ウルはそう言ってこの店を選んだみたいだった。
もちろん私は、住む場所、着るもの食べるものを提供してもらえるとのことだったので、中古品だからと文句を言うわけなく、素直に感謝の意を述べた。
一通り必要なものを買ったところで
「大きな荷物は魔法で小さくしてくる。」
と私に告げたウルはどこかに行ってしまった。
私はウルを待つ間、店の中を散策していた。
こうやって人間の店に直接入ることは初めてだったので、見るものすべてが新鮮だった。
事件が起こったのはこの時だ。
私が商品を物しながら歩いていると、前にいた人間にぶつかってしまったのだ。
「す、すみません.......!」
私は慌てて、相手の顔を見る前に謝った。
でもそのとき、私はもっと重大なことに気づいてしまった。
頭巾が頭からずれてしまっていたことに。




