あのときこの場所で
俺は目の前で気を失った女をまじまじと見た。
こいつ......
その女の隣には赤くて黄色の斑点のキノコが一つ転がっていた。猛毒キノコ「呪毒茸」。
このキノコは俺たち薬術師の間では知らない者はいない。
確かに食べるとその猛毒で死に至ることはもちろんだが、適切な処理を施して調剤すれば、強力な回復の薬にすることが出来る。
俺は舌打ちをした。変なことに首をつっこんでしまったかもしれねぇ。
だがこのまま放っていくわけにもいかないような気がした。
俺はひょいっとその女を抱えた。軽いな......。おれより二回りほど小さいそいつをかかえ、その横に転がっていた呪毒茸も拾い、背負っていた竹籠に入れた。
ちょうどこのキノコがあることだし、救ってやってもいいか。
そうふらふら思いながら、俺は岐路についた。
ーーーーーーー
俺がこの女が猛毒キノコを食べようとしていたところを見つけて声をかけたのには少し理由があった。
それは、俺はこの女と完全には初対面ではないからだ。
ただし一方的に。
俺は町はずれの森に近いコテージに一人で住んでいる。来訪者はもちろん、この家の前を通る人間なんて一人もいない。
そんな中こいつはよくどこからともなく現れて、街の方へと歩いて行っていた。
隣町の人間かと思ったが、ある時、そいつが街から帰ってきた様子で、そのまま森へと何のためらいもなく入っていったことを目にした。
俺はさすがに驚いて、少し後をつけてみた。
でも、彼女の姿はもうどこにもない。
その日から、俺はそいつがどこから来るのか注意深く目を光らせていた。そうするとやはり森から出てくるではないか。
これが獣人......?
これが初めて俺が獣人を認識した日だった。
しかし、聞いていた獣人のすがたではない。
獣人とはもっと獰猛で野蛮だと聞いていたが、おれがいつも見るやつは全くそう見えない。
俺にはただ人間の街にこっそり出かけに行っている好奇心旺盛な人間の華奢な女の子にしか見えなかった。
だからとても印象に残っていた。
……そういうわけで、そのまま放ってやることもできたが、気づいたら声をかけていた。
もちろんもちろん、自殺をしようとしていることなんてあの目付きをみれば分かっていた。放っておくことももちろんできた。でも、なんとなく、そうしてはダメな気がした。
ーーーーーーー
こうやって今俺のベッドで寝ているこいつのとの出会いを考えているうちに薬が出来上がった。
「回復の薬」の効力が最大のものだ。
これを食べて死のうとした奴に、同じもので回復の薬を作って飲まされるなんて、皮肉だよな。俺はできた薬を大釜から瓶に移し替えながらふっと頬を緩めた。
何日も食べていないのだろうか。そいつはだいぶ衰弱していたが、この薬なら、この腕前の俺が作ったこの薬なら飲んで1時間もすれば目覚めるだろう。
俺はそいつに薬をゆっくり、背中を少し起こして口に流し込んだ。




