四十八話 好きなタイプ
まだ薄暗い空の下、今にも踊りたくなるようなBGMを聴きながら、あくびが止まらない。
それは隣にいる知らない男子高校生の集団も同じようだ。しかし違うのは俺の隣には女子がいること。少し勝ったような気持ちになりながら、ビックランドの入場口の列に並んでいた。
「こんなに早く家出たのに、けっこう並んでるんだな!それにしても寒いな!花ちゃん大丈夫?」
「私は下に暖かいやつ着てるから大丈夫だよ!優也君はけっこう薄着じゃない?」
「そうだよね!中で上着とか買おうかな?」
「それはいいね!ってかカイロ貸してあげるよ!」
「ありがとう」
優也と花の会話を耳に、俺は周りを見渡していた。どこの学校も冬休みに入っているのに制服の学生が多い。
「貴大!上本さんも今日だよな?一緒に家を出なかったのか?」
「昨日は前鶴さんの家で泊まってるから、いつ来るのか知らない」
「何?一緒に家を出るって?」
不思議そうな顔で俺たちの会話に入ってくる花。まだ花は俺と珠凛が義兄妹なのを知らない。俺も言うとめんどくさくなるから、あえて教えていなかった。
「花ちゃん知らなかったんだ!貴大と上本さんって再婚で家族なんだよ」
「マジー?貴大教えろよ!ってか、義兄妹に恋愛感情湧いてるのー?」
「そういうのじゃないから!やめろ!」
「まぁ俺も貴大の立場なら、そうなっていたかもしれないな!」
「だから、本当にそういうのじゃないから!」
俺の必死の否定を嘲笑うかのように、勝手な妄想話が始まった。
「貴大と上本さんって、家でどんな感じなの?」
「それ気になる!赤の他人から急に家族になって、しかも同い年でしょ?私なら無理かなー」
2人の盛り上がりに、ふと頭の中では、珠凛のハグをされたことや、ソファで肩を寄せ合ったことが思い浮かぶ。
「んー、必要最低限しか話さないかな…俺部屋からあんまり出ないし、珠凛ちゃんもあんまり部屋から出ないよ」
家では声をかけてくれる珠凛のおかげで、割と会話をけっこうしていることを隠すように、平然と嘘をついた。それを納得するように優也は言った。
「確かに貴大から女に話しかけることは、あんまりないからな!何も起きなさそうちゃっ、そうだよな!」
「貴大って昔から奥手だもんね!どうせ私ぐらいしか、素を出せていないんでしょ?」
「それはあるかもだけど…」
「そもそも貴大の好きなタイプとか気になるけど!俺的に笹川さんとか好きそうだけど」
「好きなタイプかー?なんだろう、確かに笹川さんも可愛いけど、タイプではないんだよね」
俺は頭を掻きながら、ここ数十分で人混みが増えた周辺を見渡しながら考える。
意外にも2人が俺の好きなタイプへの関心が高いのは、いつもより前のめりになっている姿勢で感じる。
「なんとなくあるでしょー?」
「スポーティーな人はいいよね!」
「なんかありきたりだな!もっと性格とかないのかよ!」
腕を組みながら珠凛を思い浮かべるも、それを上書きするように一度恋をした前川さんを重ねた。
「性格ー?えー、わからない!優しいとか、話しかけてくれるとか?ってか、人にめっちゃ聞くけど2人はどうなんだよ?」
それでも結局、珠凛にも当てはまるようなことしか言えない。
そして優也は少しニヤッとする。
「俺はねー、まず元気な人でしょ!それで髪型はショートが良いよね!あとー、強く見せているけど、本当はすごく優しい人!うん!こんな人がいいよね!」
「えっ?笹川さん?のこと?」
俺がここ数ヶ月感じている笹川さんはそんな感じ?いやでも、元気な姿は俺も一回しか見てないしな。優也の前で見せているのか?
「確かに笹川さんもショートだな!まぁ俺はそんな感じだよ!花ちゃんはー?気になるんだけど」
「私かー?私は普通だと思うよ」
花が空を見上げて優しく笑みをして答えようとしている。
俺はこの前のショッピングモールでの告白?を思い出して身体がムズムズしている。
「なになにー?」
「えっーと、優しいが1番だよね!たまに男らしいところがあるところ!あとなんでも言い合える関係が良いな!」
「なんでも言い合える関係って大事だよね!」
優也の共感に、花が言っている言葉は俺のことかなと思ってしまう。そんなことを思ってしまうと、普段なら、『そんな人は花には現れないだろ』とか言えるのに、喉でつっかえてしまう。
「いや、いつもなら貴大!なんか否定してくるだろ!」
俺は笑いながら叩く花。叩かれた俺は、苦笑いをしながら、
「あ、なんでも言い合える関係のこと考えてたら、ボッーとしてた!」
「いやいや、花ちゃんなら絶対いるよー!否定したら、貴大を俺が殴る!あははー!」
少し無理している花と、それに気づいている俺は曖昧な嘘をつく。でも空気を読めていない優也が、この空気を壊すように和やかにする。
「おはようございます!今日はビックランドへようこそ!夢と魔法の空間をお楽しみください!良い1日を!」
だいぶ空は明るくなってきて、肌寒かった空気も暖かくなってきた。さっきよりBGMが大きくなってきたような気がしてきて、スタッフのアナウンスが流れ始めてきた。
「そろそろ入れるみたいだね!優也君!最初どこから行きたい?」
「やっぱり、ジェットコースターから行っちゃう?」
「いいねー!じゃあ最初からダッシュしちゃう?」
「そうしよう!貴大!足引っ張るなよ!」
「いや、俺は花より速いと思うけど!」
「何言ってんだよ!昔は私とあんまり変わらなかったじゃん!」
「マジ?花ちゃんって足速いの?」
「いやいや、俺の方が全然速かったからね」
列が動き始めると、少しずつ見えてくるパークの景色が胸を躍らせる。その高揚感がさっきの気まずさを消して、俺と花はいつも通りになっていた。
「じゃあジェットコースターのところまで、3人で競争しようぜ!貴大には負けない!」
「私も貴大には負けない!」
「えっ?ガチで走るの?」
俺はスマホの画面に表示させたバーコードをかざしてパーク内に踏み入れ、笑いながら先を行く2人の背を小走りで追いかけた。




