四十九話 クリスマスの3人
入園と同時に駆け抜ける俺たち3人。スタッフの人たちが『走らないで』と注意を促していて、早歩き寄りの走りで前の優也と花を追いかけている。
「お前ら走っちゃダメなんだぞ!」
まぁ本気で走れば女子には負けるはずがなく、すぐに花には追いつく。花の顔を見てニヤッと、バカにするように抜かそうとする。
「貴大!待てぇ!」
「あっぶねぇ!」
花は俺の服を掴もうと手を伸ばすも、俺は瞬時に身体を横に倒して回避した。優也はだいぶ先にいて、姿が微かに見えるほどの距離。普通、一緒に来てそこまで離れるかと思いつつも、後ろを振り返る。
「花ー!急げー!」
「もう無理ー!走れない!」
「なんだよー!運動不足か?」
「うるさい!」
肩で呼吸をしている花を見て、昔とは違うことを理解した。俺は花の方に戻りながら声かけた。
「大丈夫?歩いて行こうか!」
「ちょっと休憩!優也君が速すぎ!あんなペースで走ったことない!」
「優也は学校で一番速いからね!流石にあのペースと勝負してた花がバカみたいだよな!あはは」
「知らなかったんだし!まぁ貴大にはまだ負けてなさそうだね!」
「あっそ!それにしても変な感じだな」
開園から数分でだいぶ奥にいる俺たちは、周りに人もいなく2人だけでテーマパークにいるような空間に不思議な気持ちになる。
「なにが?」
「なんか周りに俺ら以外いなくて、この世の終わりみたいじゃね?」
「確かにー!なんかゾンビとか出てきちゃって!怖い怖い!」
「それはやばいね!まぁ俺らなら生きていけそうだけどな!」
「そっかぁ〜!もし本当に2人だけになったら、どうなるんだろうね〜!貴大はどうする?」
2人で遠く見つめ、表情がわからない会話。ガジェット系のオブジェをみながら、徐々に自然が多くなってきた気がする。
鳥の鳴き声を聴きながら、深い話にもなりそうな気がして、なんて答えようか…
「まずコンビニとかスーパーに置いてあるお菓子を食べまくりたいなー」
「なにそれ!子供じゃん!貴大は頼りにならなそうー!」
たぶん花が求めていた答えは違うとは思うけど、これで良かったんだと俺はホッとしていると、優也の姿が見えてきた。
「あ、優也君だ!じゃあお先に〜!」
「ちょっ、せこいぞ!」
花が優也の方に駆け寄り、俺も焦ってついて行く。
「はいー!二位は花ちゃん!ってことで、貴大は昼飯奢りーー!」
「いえーーい!貴大の奢りーー!」
「え!なんでー!花せこいぞ!」
「昼飯は嘘だけど、チュロスぐらい奢れよ!」
「チュロス食べたーーい!チュロス!チュロス!」
「まぁチュロスぐらいなら…って、なんでだよ…とりあえず早く並ぼう!」
俺たちはたわいもない会話をしながらジェットコースターの列に並んだ。あんなに頑張って走ったのに、列にはけっこう並んでいた。待ち時間が表示された電光掲示板を見て花が言う。
「思ったより並んでるね!30分ならすぐだね!」
ピーク時の人気アトラクションなら90分待ちも珍しくないから、30分が少ないと感じてしまうのも不思議なものだ。優也は俺を見て、目をパチパチする。俺はん?のような表情で返すと優也は。
「ジェットコースター2人1組だし、どうする?貴大どんな感じ?」
「え、えーと、俺は…あー、1人でもいいよ!」
「マジ?じゃあ花ちゃんと俺が、とりあえずペアって感じでいっか!俺1人嫌だったから、ありがとう貴大!」
「花も大丈夫でしょ?まぁ優也が嫌いなら俺が変わるけど!」
「そんなことないよー!楽しみだね!優也君!」
多分だけど、今回のクリスマスを一番楽しみにしていたのは優也な気がする。今日の服装だって、薄着だけど俺から見てもカッコいいと思うし、気合いが入っているなと感じてしまう。
「それにしても走ってよかったわ!花ちゃん見てよ!後ろけっこう並んでるよ!」
「うわー、やっぱり人気なんだね!」
優也の言葉に、俺もなんとなく後ろの列をチラッと見てしまう。俺は一瞬目に入った銀髪に、心臓が跳ねた。
流石にと思いながら、肩が凝った仕草をして、首を回しながら、銀髪の方向に目を向けた。
「どうしたの?肩痛いの?」
「いや、ちょっと動かしてみただけ!」
「なら別に良いんだけど!」
花が心配そうに話しかけてくる直前に、目に入ったのは珠凛だった。
もう一度確認するために、同じ動作を行うと、前鶴さんや笹川さんも見つけてしまった。
まだ優也も花も気づいてない。
「なんかキョロキョロしてどうした?」
「ねー!なんか貴大おかしくない?」
「ジェットコースターに緊張してきたかも!」
まぁ違う意味で緊張してるんだよ、と思いながら、乗り込む番が来る。
「大丈夫だろ?そろそろだぞ!やばいわー!」
「優也君先乗っていいよ!」
俺は知らないおじさんと一緒に乗り込み。出発する前に、もう一度振り返る。いや、おじさん邪魔で見えない。その瞬間、ガタガタした揺れと、体の内側からザワザワとした緊張感が溢れ出てきた。
その後は内臓が浮く感じと、顔面に受ける強烈な風、重量に振り回されて、アトラクションが終わる頃には放心状態だった。
「やばかったねー!花ちゃん大丈夫だった?」
「全然、余裕だよー!もう一回ぐらい乗りたい!」
「また後で乗りに行こう!」
俺はフワフワした足取りで、その場を離れるために少し早歩きだった。そんな俺に気づいた花は、俺の横にくると。
「貴大ー!なんか急いでるのー?」
「全然、急いでないよ!でも急いだほうが次のアトラクション並ばなくていいかもよ!」
「そうだね!優也君も急ごー!」
アトラクションから逃げるように、違うエリアへ向かった。その途中、チュロスの絵が描かれたキッチンカーが目に止まる。花は小走りでキッチンカーの方へ。
「貴大!食べようよー!」
「じゃあさっきのやつで、俺が出すよ!」
「貴大!さっきのはいいよ!俺が出すよ!花ちゃん何味がいい?」
「お、おう、優也ごちです!」
急に男になる優也、それを見て俺はあからさまじゃないかと思っている。でも優也は花のことを気になっていると、教えてくれているし彼のやり方には口出ししない。
「貴大の奢りじゃないのー?」
「いや、貴大も可哀想だし!貴大何が良い?」
「貴大良かったねー!」
「じゃあ俺はシナモンかな!」
「私はストロベリー!ありがとう優也君!」
シナモンの香りに包まれながら、俺は優也の本気と、花の気持ちに胸が締め付けられる。
花はストロベリー味のチュロスを嬉しそうに頬張っている。
その隣で笑う優也が、妙に似合って見えた。




