四十七話 耳に入るのは
明日から始まる冬休みに浮つく教室の雰囲気。最後の授業は担任の授業ってこともあって、自由時間みたいようなものだ。
俺はピンク色のカーディガンを着た金髪女子の背中をぼーっと眺めながら、明日の優也と花とのクリスマスのことを考えていた。
「結局クリスマスはどこか行くの?」
「えっ?あ、クリスマス?」
前の席の笹川さんが振り返り話しかけてくる。
突然、話しかけられたことで、少し挙動不審になってしまい、顔が熱くなる。
「ん、どうした?で、クリスマスどこ行くの?」
「とりあえずクリスマスはビックランドに行く予定かな!」
「マジ?うちらもクリスマス、ビックランド行くよ」
「マジで?会っちゃうじゃん!」
「まぁこの辺の住んでたら、ビックランドが無難だよね」
「そうだよね」
少し冷めている笹川さんに、人混みが嫌いな俺も少し気持ちがわかるような気がした。
俺の心を読んだのか笹川さんは、俺を指差しながら
「藤崎って遊園地系好きじゃなさそうだよね、人混み嫌いそうだし」
「まぁそんな感じではあるけどね」
「ちなみに珠はさー、めっちゃ好きだからね。珠のことを気にしてるなら、遊園地も楽しめる人にならないといけないからね」
「いや、気になってねーよ、マジマジ!」
俺は食い気味で返すも、その行為が図星です、と言ってるような感じに客観的に見えて恥ずかしくなった。
俺の焦りを見た笹川さんはクスッと笑いながら
「なんでそんな焦ってるの?ウケるんだけど」
「だって急に言われたし、少し驚いたみたいな?」
「まぁ珠が遊園地好きだし、好きになる人も遊園地好きなら良いねって話だよ」
担任が立ち上がるが視野の端に見えると、俺は時計をチラッと確認した。残り3分でチャイムが鳴って、冬休みが始まる。
「このまま帰りのホームルーム始めちゃうわよ」
「いえーい!冬休みだー!」
「先生、早く終わらせよー」
教室のざわめきに、俺も少し浮き立つ気持ちになる。周りを見渡して、珠凛と優也が笑いながら会話をしていることがやけに目に入る。
珠凛の楽しそうな顔を見ると、話し相手が優也なのに良い気持ちがしない。
珠凛が笑うたびに視線がそっちに行く。俺はなんとなく2人を見ていると、ニヤッとしながら笹川さんは言った。
「やっぱり気になるんだ。早くしないと誰かに取られちゃうかもよ」
「そんなじゃないって!」
「少なくとも、クリスマスの友也は本気っぽいけどね」
「そうなんだ。上手くいけばいいね」
俺は笹川さんと目を合わさずに、雲の多い空を眺めていた。すると、椅子がズレる音と周りの人達が一斉に立ち上がった。
「じゃあ冬休みも羽目を外さないこと!じゃあ元気な顔でまた来年!良いお年を!」
担任の先生が言うと、生徒たちはずらずらと教室から出ていく。俺はみんなを眺めながら、鞄の中のスマホを探していると、笹川さんは鞄を肩にかけて
「明日も会うかもだからね。その時はよろしく」
「お、おう!じゃあ明日」
笹川さんの珠凛の方に向かっていく背中を見た後に、俺はスマホを手に取りメッセージを確認した。
優也が3分前に、
「明日は何時集合?」
花はまだ返事をせず、俺も今見たから、誰も返していないわけだ。少しむすっとした顔で、優也がこっちに向かってくる。
「貴大!見たか?」
「あ、今見たよ!」
「じゃあ早く返信しろよ!なんか俺が無視されてるみたいじゃん!」
「今見たばかりだし、俺たちは同じクラスだし、口で言えばよくね?」
「いや、花ちゃんもいるんだから、ちゃんと返せ!」
なんか余裕のない雰囲気の優也に、そんなことでイライラしているのか不思議に思ってしまう。
「ってか、上本さん達もクリスマスの日はビックランド行くみたいだな!」
「らしいな!俺は笹川さんから聞いた」
「俺たち2人でビックランドにいるの見られてたら、マジで恥ずかしかったな!花ちゃんに感謝だわ」
珠凛が俺もクリスマスの日にビックランドに行くことを知っていることに、安心とは逆の感情になる。
お互い知らなければ、もっと気楽にクリスマスを楽しめたのにと、思ってしまう。
教室に入ってきた友也を俺は見てしまう。
「みんな!クリスマス楽しみだね!」
珠凛を席を囲むように前鶴さんと笹川さんが立っている場に、教室に入ってきた友也も加わって、4人の会話が教室に響く。
「美華と乙葉の彼氏さんは年上だっけ?」
「違うよ〜!みんな同い年だよ〜」
「それは気が楽だよ!年上だと思ってて緊張してたわ」
「ちなみに美華は新婚だから、空気読めよ〜」
「新婚じゃないから。乙葉そういうのやめて」
「乙葉は長いらしいけど、美華はどれくらい?」
「1カ月。今回も長く続かないと思うけど」
「でも恋人がいることは羨ましいよ!じゃあ俺と珠凛だけフリーって感じか!頑張ろうね、珠凛!」
「そうだね!頑張ろー!」
友也の下心がありそうな言い方と、笑顔で返す珠凛に、胸が痛い。一緒に同じ方向を見ていた優也は
「友也って絶対上本さんのこと狙ってるよな!あの感じクリスマスの時にゲットしようとしてるんじゃね?どうだ?ファミリーとしては?」
「なにそのファミリーって?まぁ珠凛が決めることだし、俺には関係ないけどな」
「でも俺が兄妹ならあんなチャラ男みたいなヤツは嫌だな」
優也の言葉に、無言でうなづいてしまう。それは友也がチャラ男だから嫌なのか、それとも別の理由なのかはわからない。
「俺ならハッキリ言うぜ!俺の兄妹はお前みたいなチャラ男に預けられない!認めないからな!ってな!」
「そんなこと俺には言えねーよ!まぁ友也はカッコいいからな!いかにも女子にモテそうなタイプだもんな」
「でも貴大も悪くないでしょ!まぁ女子慣れしてないだけで、ハオリンピックから有名人だしな!」
「まぁそれなら優也だって、ハオリンピックチャンピオンじゃん!」
「まぁな!貴大も自信持て!」
背中を叩く優也の手は身体の芯まで届くほど、痛かった。
珠凛の方から聞こえる賑やかな笑い声に、不安な気持ちが高まっていく。
クリスマスの日に友也がフラれてしまえばいいのにと思っていても、あんなに仲良しの2人なら付き合ってしまうんじゃないかと。
優也とのクリスマスの段取りの話は全く頭には入ってこなかった。
耳に入るのは友也と珠凛の声だけ。




