三十八話 半歩後ろ
花の突然の言葉に、一瞬で頭が真っ白になっている俺は、何と返せばわからず固まってしまった。
「ちなみに貴大は私のこと、どう思っているの」
何か言わなければいけないと焦るほど、喉の奥がキツく締め付けられ、言葉が出てこない。
すると良いのか悪いのか優也が現れてニコッと花の顔が笑顔に変わる。
「トイレ見つけられなくて、めっちゃ遠くまで行っちゃったよ」
「そうなのー?じゃあ私も行ってこようかな…」
「遠いから気をつけてね」
笑いながら立ち上がる花は、俺たちに背を向ける瞬間、薄っすら寂しそうな顔が見えた。何と言えば正解だったのかわからず、罪悪感を感じながら、窓の外を眺めた。
「ここの眺めけっこう良いじゃん!ちょっと俺にも見せろよ!」
「痛っ、狭いんだから無理矢理すんなよ」
「いいじゃん!あれ?あっちで撮影してるじゃん!」
身体を半分俺に預けながら眺める優也に、少しイラッとするも、撮影に気づいたことに冷や汗が溢れてくる。
「ってか、あれ上本さんに似てねぇ?銀髪だし」
「気のせいじゃないの?銀髪なんてたくさんいるしさ」
「貴大、上本さんの事はどう思ってるの?」
「家族だし、何にも思ってないかな」
「そうかぁ」
遠く見つめる優也に、まさか珠凛のこと好きなのか、と頭によぎると上手く息が吸えない。半立ちの体勢から下の位置に戻った優也は
「ちなみに花ちゃんは幼馴染だけど、どうなの?」
「花は幼馴染だし、兄妹みたいな感覚だし、恋愛対象で見たことはないかな」
「ふーん。俺が幼馴染のこと好きになっても良かったりするのかな」
「えっ?マジで?」
照れ臭さそうにする優也を見て、知らない人が花の彼氏なら良いけど、知っている人が花の彼氏だと不思議と良い気持ちがしない。
「実は会った時から好きだったんだよね。上手くやってくれないかな。親友のお前にしか言えないやつだわ」
「お、おう」
さっき花の気持ちを聞いているからこそ、優也の打ち解けてくれた想いが、嫌なほど重く感じてしまう。
「お待たせ!ってか優也君!トイレすぐそこじゃん!」
「マジ?めっちゃ遠いところ行っちゃったよ」
「じゃあゲーセンでも行こう!」
優也の背中を眺めながら、トイレから戻ってきた花とは目を合わせられない。2人の想いが自分との距離を少し離すように、踏み込めない隙間ができた気がした。
ゲームセンターに向かう途中3人で並んでいても、半歩後ろにいる俺。逃げるよう自動販売機を見つけて、コーラを買いに行く。
「ちょっと自動販売機で飲み物買ってくる!」
「わかった!早く来いよ貴大!俺のUFOキャッチャーテクニックやばいから」
1人になると少し気が楽になり、コーラの炭酸のキツさが心地良くも感じた。フラフラと遠回りをして見つけた2人。クレーンゲームで楽しそうにしている2人を少し遠くから眺めてしまう。
「花ちゃん!めっちゃ上手いじゃん!」
「でしょ?あー、でもこれ難しいやつだー!」
「任して!これ俺得意だから!」
「すごーい!優也君すごい!」
花との関係性も壊したくないし、優也と花が付き合っている姿を想像もしたくない。あれこれ考えていると、さっき買ったばかりのコーラは空になっていた。
「貴大!見ろよ!俺が取ったんだぜ!」
「ちょうど見たよ!すごいな!優也!」
「だろ?これ花ちゃんにあげるよ!」
「えっ?いいのー?ありがとう」
優しいと思うよりは、ポイントを稼ぎにきてると、自分でも性格が悪いと思いながら、優也の行動を見ていた。
「じゃあプリクラでも撮ろうぜ!花ちゃんと貴大と記念残したいしさ」
「いいねー!プリクラとかめっちゃ久しぶりなんだけど。最近、スマホでしか撮らないしね」
「だよね!スマホあればプリクラで撮らなくなっちゃったよね」
プリクラ撮り終えて、出てきた写真を見れば一目瞭然だった。それを見た2人は
「貴大!全然笑えてないじゃん!優也君、可愛く写ってるー!」
「一応、姉ちゃんに連れられて、写り方知ってるからさー!あははー」
笑えなくなったのは、あなたたちのせいですよ!っと心の中で思いながら、スマホで時間をチラチラ見てしまう。まだ3時にもなっていない。ゲームセンターから出ると花が
「もうすることないねー」
「まぁ3時か、微妙な時間だしお開きにする?」
優也もあっさりな返答に、もっと名残惜しくなると思っていたのに、ホッとしていた俺は
「そうだね!今日はありがとうー!俺もうちょっと見たいものあるから!」
「なんだよ!貴大!俺も行くよ!」
「1人で見たいやつあるんだよ!」
俺は優也の肩を回して、少し花から離れて小声で
「花と一緒に帰れば、何かあるかもだろ?」
「おう、ナイス貴大!サンキュー」
ニヤけた顔を見せる優也に、本当に1人になりたかっただけだけどなと思いながら、俺も半笑いしていた。
「2人でコソコソ何してんの?」
花が近づいてくるのを見て
「花!今日はありがとう!めちゃくちゃ助かったよ、あと…」
「ご飯の時のやつは嘘だから、気にしないで!」
無理に作り笑顔している花に、俺も作り笑いで返してしまうと、いきなり胸に軽いパンチしてくる花。
「本当に嘘だからね!ってか、良かったら3人でクリスマス近くとかまた集まろうよ」
「花ちゃん!それはいいね!」
俺は家族とかでやるのか?珠凛はどうするのか?色々頭の中で思い浮かべて、
「うん、また予定が合ったらやろう!」
「は?」みたいな顔をした2人は
「なんだよ!予定って!」
「それねー!」
2人の背中見送った後、俺はショッピングモールをもう一周しに行った。家に着く頃には2人と別れる前に持っていたプレゼントは6つに増えていた。
先に帰っている珠凛にバレないように、すぐに部屋に戻り、ベッドの下にプレゼントを急いで隠す。
全てのプレゼントを隠し終わると、一気に疲れが背中に乗っかってきた。
「マジで疲れたな、喉乾いたな」
俺は喉を潤すためにリビングに向かうと、あずきバーを食べている珠凛がソファにいた。
「夏も終わるのにアイスかー」
「今日のバイトが冬服の撮影だったから、暑かったんだよ」
「そういうことか!大変だね!」
「ってか、たかぴーもサザンクロス駅のショッピングモールにいたんだよね?言ってくれれば良かったのに!」
「なんでー?」
「バイトの帰り、萩谷くんと、あの…文化祭に来て女の子と電車が一緒で、たかぴーもいたって話してたんだよ」
「うん、そんな感じ!なんか言ってた?」
余計な事を言っていないか、恐る恐る探りを入れる俺に、アイスをかじりながらスマホを覗く珠凛は
「大したこと話してないよ!文化祭良かったとか、そんな感じだったよー」
「なら良かった!」
「なんか怪しいなー?なんかあったのー?」
「全然!優也と花の買い物について行っただけだから!あとプリクラ撮ったぐらい!」
「いいなー!今度私もプリクラ撮りたい!」
「撮ろう!撮ろう!」
麦茶を一気に飲み干して、自分の部屋に戻った。今日何回、作り笑いをしたんだろうと、天井を見上げた。




