三十二話 本当だけど、本当にしたくない
ハオウィーン祭も閉幕して、全校生徒は片付けに忙しくしていた。俺たちのクラスは演劇のセットもあって、なかなか時間がかかっている。
俺は教室で段ボールを潰していると優也から声がかかる。
「おーい!貴大!ちょっときて!」
教室の外にいる優也に呼ばれて、重い身体で廊下に出ると優也の横には花がいた。
「おつかれー!なかなか王子良かったじゃん!」
「かっこよかっただろ?」
「王女が可愛すぎて、貴大と釣り合っていなかったけどな!」
「たしかに王女は綺麗だったね」
「……貴大もそう言うことを言えるようになったか」
いつものように茶化してくる花は、よく見ればメイクが違う気がする。それはなんとなくだけど、いつもと印象が違って可愛く見えたから。
「ってかこの前言ったやつ!来週大丈夫そう?」
「いいよ!また細かいことは連絡して!」
珠凛の誕生日プレゼントを買いに行くのに、花のアドバイスをもらおうとしている。花には珠凛の話をしていないけど。
俺たちの会話に優也は興味を示し
「2人ともどっか行くの?」
「花と買い物に行くんだけど、優也も来る?」
「来週は午後からなら行けるわ」
花に確認する前に話を進めてしまったことに、ハッと気づいた俺は、横にいる花に
「優也も来てもいい?」
「いいよ!」
「じゃあ来週の土曜日だね!」
生徒たちが何人も横を通り抜けていった。それぐらい俺たちが長話をしていると
「たかぴー!まだ終わってないよー!」
「ごめん!今行く!」
珠凛に声をかけられてしまった。顔だけちょこんと出して、教室を覗く花は、珠凛を見て
「あの王女役だった人、すごく可愛いね。貴大あの子好きなの?絨毯の上にいる時に、顔に出てたよ」
「貴大マジ?」
「そんなことないよ」
優也がいる横で、好意があるとも言えず、ましては花にも馬鹿にされそうで言えるわけがない。顔が少し熱くなるのが分かりながら、無意識に手でさりげなく鼻を隠していた。
「じゃあ私は帰るね!」
「じゃあ校門まで送ってくよ!」
「優也君は男らしいね〜!貴大もそれぐらい出来る男になってほしいよ」
「うるせぇ!とりあえずまた連絡する!じゃあ気をつけてね!」
優也のニヤけた横顔と、花の後ろ姿を少しだけ目で追って俺はやり残した段ボールの方に向かった。
夕陽が沈む頃には、片付けも終わって打ち上げ会場にいた。会場と言ってもフットサルのメンバーだった笹岡の親がやっている居酒屋を貸切で使わせてもらう。
「貴大!そこ?」
「じゃあ俺もそこ座るわ!」
油の匂いと、少しアルコールのような匂いのお店で、俺は男子メンバーに囲まれていて、結局、隣は優也だった。
「貴大は何飲むの?俺はビール」
「普通にダメでしょ?俺はコーラかな」
「お前コーラ好きだもんな」
クラスの打ち上げと言っても、男女で自然と分かれてしまうものだ。少人数クラスでかっこいい人や、チャラチャラしてる人が、女子の方に座っている。
「じゃあ責任者の2人が、何か言って始めよう」
飲み物が各自揃ってきて、唐揚げやポテト、サラダが座敷のテーブルに埋め尽くし始めると、クラスの誰かが言った。
人前に立つのはいつになっても慣れない。「えー」って顔をあえてして、重い腰を持ち上げ、珠凛と横並びになった。
「じゃあ私先に言うよ…。準備や色々…」
珠凛が語り始めると、少し震え始める足を叩きながら、何を言おうか頭の中で考える。珠凛の言葉は、頭の中の自分の声とぶつかってお互いに打ち消しあって、あまり聞こえない。
「ありがとうございました!はい、たかぴー!」
何も思い浮かばないまま、珠凛は終わっていた。
拍手に包まれ、その後の静かさとみんなの目線が息苦しい。
心臓の鼓動が強くなり、浅くなった呼吸と乾いた口を潤すように
「ごめん!一口飲む!」
「おい!まだ、乾杯してないぞ!」
クラスメイトの笑いが起きて、少し安心した俺は口を開いた。ゆっくりとした口調で語り始める。
「えー、今日はお疲れ様でした。たまたま同じ学校を選んで、たまたま同じクラスになって、ハオウィーン祭でみんなで協力して準備から本番まで、一緒にみんなで頑張ってきたことは、奇跡みたいだなと思います。僕はみんなと同じクラスになれて良かったし、たぶん、みんなとじゃないと今回の演劇は成功出来なかったかもしれない。今日は今日しかない。今この瞬間、このクラスでみんなといられることに、嬉しく思います。この出会いを大切にしていきましょう!ありがとうございました!」
言い終わり、ゆっくり頭を下げると、ちょっとした静けさから、隣の珠凛の拍手の音が鳴り始まる。徐々に拍手は増えていく。
「出会いを大切にしよー!」
「急に真面目に語るなー」
「あははー」
クラスの拍手と茶々と笑いが混ざり合う空間が、なんか照れ臭かった。まぁMissyの好きな言葉を言いたかっただけだけど。
打ち上げ始まり、みんなのソワソワ感が薄れてきて、みんなの会話が大胆になってくると
「それにしても藤崎、上本とキスしてたべ?」
「俺は見たぞ!」
「俺も見た!完全にしてたな」
「マジでしてないよ!ってか声でかいって!」
男子グループの話はそれで持ちきり。女子の方に聞かれていないかソワソワが止まらない。男子に囲まれているからか、顔がかなり熱い。必死に否定し続けていると、乙葉が声をかけてくる。
「たかぴー!こっちきて!」
「藤崎!女子の方に呼ばれたぞ!早くいってこい!」
クラスの男子たちに背中を押されて、頭を掻きながら乙葉たちの方に渋々向かった。
「藤崎、とりあえずそこに座りなよ」
「そうそう、たかぴーは珠の横〜!」
乙葉と美華が向かい側に座り、俺は珠凛の横に座る。なぜか他の女子たちにも囲まれている。無意識にあぐらから正座になり、緊張から背筋が伸びる。
「向こうでも盛り上がってたけど、絨毯の上でキスしたの?」
「え、ストレート過ぎないですか?してるように見えました?」
美華の質問に、俺は目を丸くして、質問で返してしまった。周りの女子たちも声が聞こえてくると、背筋がヒヤッとする。
「見えてたよね?」
「見えてた!」
美華が周りを見渡して、鋭い目で俺を見つめて、
「周りのみんなが言ってるんだからね。で、実際どうなのよ?2人でニコニコしてたしね」
「マジでしてないよね?珠凛ちゃん!」
珠凛の方を振り向くと、なんか顔が赤くなっている気がして、目が泳いでいた。俺は焦ったように
「違う!違う!鼻と鼻がぶつかっただけだよ!」
「珠!本当に〜〜?」
「俺、少し鼻が高いから!本当だってー!」
煽る乙葉と必死に否定する俺を見た美華は、悪知恵が思いついたかのような笑いをして
「ちなみに藤崎は珠凛のこと好きなのか?」
周りの女子たちが半歩近づいてきたのが、何とも言えない空気の圧で感じる。
美華に主導権を握られているような気がして、一発ひっくり返してやろうと思った俺は
「当たり前じゃん!好きだよ!……かぞ——」
「きゃーーー」
「やばー、一緒に住んでて、愛が生まれたのかな」
俺の言葉は最後まで言わせてもらえず、クラスの女子たちが一斉に盛り上がり始める。
「待って待って!家族としてだって!」
俺は訂正しても周りの声に消されて、俺が恋として珠凛に好意があると、クラスで広がってしまった。
「貴大が上本のこと好きらしいぞ!」
「マジ?なんかいつも2人仲良いもんな!」
あっちの男子たちの声も聞こえてくる。本当だけど、それをみんなの前で本当として認めたくない自分がいた。急に全身が熱くなっていく。
「じゃあまた学校でー」
「バイバイー」
「ちゃんと藤崎は、上本さんのこと守ってやれよー」
打ち上げ終わりに2人で歩く帰り道は、秋の夜なのに熱く、俺たちの間には、言葉にはできない何かが、確かにそこにあった。




